名フィル定期(第408回)

今年最後の定期演奏会は
「空気・土ーー凍える冬から豊穣の秋へ」
と題して
ベートーヴェン:交響曲第2番ニ長調
グラズノフ:バレエ音楽『四季』
指揮:小泉和裕
でした。

指揮者の小泉は国内では引っ張りだこの指揮者で、名フィル定期も4シーズン連続。いつもながらしっかりと手綱を引いたような引き締まった演奏でした。毎回違った曲を別々の指揮者で聴くので、単純な比較はできませんが、単にテンポや曲想の付け方というだけでなく、指揮者とオケの関係が指揮者によって全く違います。小泉は、文字通り「オケをしつけている、つくっている」といいう印象。決して悪い意味ではなく、隅々まで眼が行き届いていて、自分の意志をしっかりとオケに浸透させていると感じます。

今回の2曲にそれぞれ違った意味でテーマに沿って選曲されています。

ベートーヴェンの交響曲第2番は、前回の茂木大輔指揮の演奏会で聴いた交響曲第3番の少し前に作曲されていますが、この時期のベートーヴェンは難聴がはっきりし出した時期。それまで作曲家としてよりもピアノ演奏家として名を売り、本人もそのまま進んでいこうとしていたときで、絶望感もあり自殺まで考えていました。実際に親族宛の遺書も残っています。

しかし、この曲には苦悩や絶望を感じさせるようなところは全くありません。むしろ、明るくかわいらしいところがたくさんあり、将来への希望を感じさせます。ベートーヴェンというときっとこんな肖像画(↓)のイメージだと思いますが、
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交響曲第2番を作曲したのは32歳、33歳当時の肖像画はこれ(↓)です。
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かわいいですね(^^) まさにこんな感じの曲です。

残っているベートーヴェンの遺書はウィーン郊外のハイリゲンシュタットで書かれたため、「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれ、2通あります。実物をしっかりと読んだわけではありませんが、数日をあけて書かれた遺書の1通目は絶望感漂い、自殺をほのめかす内容だそうですが、2通目は遺書とはいいながらも、絶望を克服して新たな決意、おそらくは作曲家として生きていく志が語られているそうです。


自らの気持ちを綴る中で絶望を乗り越え、すっきりとした気分がこの交響曲第2番に表現されているのでしょう。そしてこの後、続々と傑作が生み出されていきます。まさに「凍える冬から豊穣の秋へ」とベートーヴェンの人生の画期となる1曲です。

この日の演奏は弦楽器の編成が1stヴァイオリンが14人、2ndヴァイオリンが12人、ヴィオラ10人、チェロ8人、コントラバス7人と1週間前に聴いた「エロイカ」の倍以上の規模です。管楽器の編成は楽譜通りですが、ティンパニを含めて音量や響かせ方は弦楽器に合わせていて、全体の響きの分厚さや余韻は現代の大編成オーケストラそのもの。聴き応えがあります。

後半の『四季』は同名のバレエのための曲で、グラズノフの代表作。グラズノフは1865年ロシア生まれで1936年にパリでなくなっています。後半生はあまり恵まれなかったようですが、今回の『四季』は作曲者が最も充実していた時期に作られた曲で、1900年にサンクトペテルブルクで初演されました。まさに『豊穣の秋』の恵みそのもの。そして、ここでの「四季」は春、夏、秋、冬ではなく、冬、春、夏、秋と廻ります。なるほどロシアではどう考えても年明けは冬ですね。

木管楽器が大活躍し、ハープやチェレスタも入る文字通り大編成のオーケストラで、冬、春、夏、秋と季節を巡る40分。短い曲に分かれていますが、途切れることなく演奏されました。順番に追いかけながら聴くと、何となくロシア人の季節感が見えてきます。

エロイカ:ベートーヴェンの交響曲2

楽曲の説明だけで、演奏についてコメントできていませんでした_(._.)_

演奏は愛知室内オーケストラ、愛知県立芸大の卒業生でつくられたオケで、できて10年くらいとか。名前は知っていたのではが聴いたのは今回が初めてです。正直言って余り期待していなかったのですが、非常にいい演奏でした(^◇^)

まだ若いなと思うところや、これは指揮者の問題か?というところがなかったわけではないのですが、とにかく音がきれい。特に弦楽器。メンバーはせいぜい30代でしょうか、日本の音楽家のレベルの高さを実感しました。これからが楽しみです。まだオケの活動だけで十分な収入というわけにはいかないでしょうが、へこたれずにがんばってほしいものです。

ところで、「室内オーケストラ」について少しだけ。

オーケストラ=管弦楽団、または交響楽団ですが、室内オケという場合は、比較的小さな編成で古典派の管弦楽曲を中心的なレパートリーとしているオケを指しているようです。

今回の演奏がそうでしたが、ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンの時代のオケは現代と比べて楽器も違いますが、弦楽器がずっと少ない人数で演奏されていました。また、演奏会場も1,000人、2,000人(あるいはそれ以上)入るような専用ホールではなく、せいぜい200人くらいしか入れない宮殿などの大広間です。したがって、「室内オーケストラ」によって作曲当時をある程度再現した演奏が期待できます。

オケの弦楽器群は「弦5部」といい、1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスからなっています。これはハイドンから現代までほぼ変わりません。今回の演奏では、それぞれの時代に合わせて、あるいは初演時の記録に従って編成され、
ハイドンで
1st
ヴァイオリン、2ndヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス=4、4、3、2、1(管楽器は、オーボエ2本、ホルン2本とファゴット1本 、ただし、ファゴットはほとんどチェロとかぶっています)
ベートーヴェンで
6、6、4、3、2(管楽器は、フルート2本、オーボエ2本、クラリネット2本、ファゴット2本、ホルン3本、さらにトランペット2本とティンパニ2台)
でした。

このベートーヴェンの編成が今回演奏した愛知室内オーケストラのフル編成だそうです。彼らが「室内」とつけているのは、特に狭い場所で演奏するという意味ではなく、音量は小さくても互いの音を聴きあってしっかりしたアンサンブルによる演奏をめざすという目的を示していると思います。

現代の楽器と奏法に依っているため、大きなホールでも音は十分に響きます。むしろ、ここの楽器の音をしっかりと聴いて、余韻を十分に楽しむことができます。滅多に聴けないスタイルの演奏で、「古典」を堪能できました。

エロイカ:ベートーヴェンの交響曲

順番は前後しますが先週土曜日(12月7日)に
『ベートーヴェン〜その原点と到達点』
という企画のコンサートがありました。

プログラムは
ハイドン:交響曲第43番変ホ長調『マーキュリー』
モーツァルト:交響曲第39番変ホ長調
ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調
指揮:茂木大輔、演奏:愛知室内オーケストラ

これは愛知県文化振興事業団が毎年主催している『音の楽園』と題したシリーズの一環で、テーマを絞った3回連続のトーク&コンサート。今年はNHK交響楽団の首席オーボエ奏者で指揮者でもある茂木大輔の指揮とナビゲートで大上段に「ベートーヴェン」を勉強しようということで、第1回目の今回は
『3人の「英雄」交響曲』〜ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン:3人が競作する3大交響曲
と題して、上記のような何とも重たいプログラムでした。

茂木さんは『のだめカンタービレ』の音楽監修を務めたことで有名になった方で、その後各地で「のだめコンサート」を開いています。ベートーヴェンが大好きだそうで、3回シリーズではベートーヴェンや同時代の作曲家であるハイドンやモーツァルトのいろんな曲が取り上げられます。

今回のメインは、もちろんベートーヴェンの交響曲第3番、通称『英雄(エロイカ;Eroica)』です。プログラムを見ていただくとわかるように、すべて同じ調性・変ホ長調で始まる曲ばかりです。この調はフラットが3つあり、やや暗い雰囲気ですが、しっかりとした響きをつくることができます。ベートーヴェンが「エロイカ」に使ったこともあり、「英雄の調」とも呼ばれています。今回は3人の同じ調性の曲を聴き比べることによって、交響曲の歴史をたどることもできる企画でした。

ハイドンは1732年生まれで、1809年に亡くなっています。「交響曲の父」と呼ばれ、現在に至る交響曲という形式を確立した人。交響曲はオーケストラで演奏される通常は4楽章からなる楽曲。第1楽章はソナタ形式、第2,第3楽章はゆっくりしたテンポや速い3拍子の曲であることが多く、第4楽章はそれぞれいろんな形式(ロンド形式や変奏曲など)で多くは華やかに終わります。元々はオペラの序曲などから発展してきたようですが、音楽の独立したジャンルに仕上げたのがハイドンで、自身100曲以上つくっています。それぞれは15分〜20分くらいと、その後の時代の曲に比べると短く、編成も20〜30人程度で現在から見るとかなり小規模です。

今回演奏された曲も、弦楽器が13人、管楽器もオーボエとホルンが2人ずつ、ファゴット1人。現在ではめったに演奏される機会はないようですが、美しいメロディーがあり、また、弦楽器が少ない分、管楽器の響きを楽しむことができる曲です。

モーツァルトはクラシック音楽のほぼすべてのジャンルに渡って傑作を残したまれに見る作曲家。天才の中の天才です。1756年生まれ、1791年に没。現在から見ると短い生涯ですが、幼少期から始まって大小あわせて600曲以上をつくりました。このうち交響曲は40曲あまり、ハイドンが確立した形式を発展させてクラシック音楽を象徴する楽曲スタイルとして確立したのがモーツァルトです。番号のついた41曲のうち最後の3曲は特に「後期3大交響曲」とも呼ばれ、彼の最高傑作であるとともに、交響曲史上に残る名曲です。ハイドンの交響曲に比べると編成も大きくなり、各楽器、特に管楽器が個性を発揮します。音楽的にはハイドンよりもさらに複雑で、メロディーや音色の美しさだけでなく、豊かな感情表現が特徴です。

39番は「後期3大交響曲」の1つで、弦楽器の人数も増え、フルート1人にクラリネット、ファゴット、ホルンが各2人(それまでよく使われていたオーボエは使われていません)、さらにトランペットやティンパニも加わったはなやかな曲です。木管楽器のソロも多く、いろんなパート間での掛け合いが楽しめるのもモーツァルト後期の特徴です。「後期3大交響曲」は39番と40番(ト短調)、41番(ハ長調)で、それぞれが全く異なる特徴を持つ名曲です。

最後のベートーヴェンは「楽聖」、1770年・ボン生まれで1827年にウィーンでなくなりました。ハイドン、モーツァルトによって作り上げられてきたソナタや協奏曲や弦楽四重奏曲など多くのジャンルで最高の到達点を築き、さらに音楽に感情や思想・精神性を加えて次のロマン派へ、そして現在につながる「芸術」としての音楽を確立した作曲家です。交響曲は9つとハイドンはモーツァルトに比べて少ないですが、1曲1曲に込めたエネルギーが非常に大きく、どの1曲でも十分に後世に名を残せたであろう名曲です。しかも1曲ごとに編成や構成などが拡大していき、最後には独唱と合唱を加えた最高傑作に至ります。

エロイカは番号通り、3番目につくった交響曲。このときベートーヴェン33歳、既に難聴が進行していました。いったんは自殺を考えるほど悩みますが、精神的に克服して次々と傑作をつくり出します。エロイカはその幕開けを飾るとともに、交響曲の歴史の画期となる名曲です。

MET:トスカ

先週土曜日(12月7日)からMETライブビューイングの今シーズン3作目である
プッチーニ作曲・歌劇《トスカ》
が上映されています。今週金曜日まで^_^;

昨日観に行ってきましたが、前回紹介したチャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》よりもよかったと思います。METライブビューイングでは数年前にも別の歌手で上映していますが、今回の方がリアリティがあり、感激度は数倍上でした(*^^)v

舞台は1800年のローマ、ナポレオンがヨーロッパを席巻している頃で、ナポレオン軍がローマにも進軍し、当時の教皇政府軍を打ち破る日の前後の出来事です。3幕構成ですが、第1幕はカヴァラドッシが絵を描いているローマ市内聖アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会、第2幕がファルネーゼ宮内のスカルピオの執務室、第3幕が牢獄兼処刑場のサンタンジェロ城。いずれも現在ローマ市内に残っているようで、
ここで紹介されています

主な登場人物は3人
ローマ一の歌手、フローリア・トスカ(カヴァラドッシの恋人)、ソプラノ
画家でボナパルティスト、マーリオ・カヴァラドッシ、テノール
教皇政府のローマ警視総監、スカルピオ、バリトン

トスカに横恋慕するスカルピオがカヴァラドッシを陥れて、トスカを陵辱しようとするも、逆にトスカに殺されてしまうという話。拷問あり、処刑あり、自殺ありで、オペラではこの3人がともに死んでしまうという、とんでもない展開です。

今回の上演では第2幕と第3幕がすばらしい(^o^)パチパチ

第2幕はカヴァラドッシの拷問から始まり、スカルピオがトスカにいいより、最後にはトスカがスカルピオを殺してしまいます。一気呵成というか、どんどん引き込まれて気がついたらこのオペラで最も有名なトスカが歌う「歌に生き、愛に生き」が始まり、引き続くトスカとスパルピオの
duoになっていました。

欲望丸出しのスカルピオに対して、そこから逃れようとするトスカの感情が歌と演技で非常にわかりやすく表現されていました。また、トスカがスカルピオを殺してしまった後の演技も、オペラであることを忘れてしまうくらいにリアリティがありました。

トスカを歌ったのはパトリシア・ラセット、アメリカ生まれのソプラノ歌手で、現在はこのトスカが最も気に入っているとか。METライブビューイングでは、
以前に同じくプッチーニの《蝶々夫人》を歌っています。ブラボー(^-^)//""パチパチ

トスカの恋人・カヴァラドッシを歌ったのがロベルト・アラーニャという現代を代表するテノール。第3幕のアリア「星は輝き」が非常に有名で、アラーニャの声に酔いました。そして、トスカがカヴァラドッシにスカルピオとの顛末を語る部分では涙がこぼれそうになり、カヴァラドッシが死んでしまっていることを知った時のオケの響きも、わかっていてもどきっ(!_+)

PS:『動物のお医者さん』という漫画をご存じでしょうか? 20年くらい前のものですが、結構はやってドラマにもなりました。この中に、主人公「ハムテル」の母親がオペラ歌手で、トスカを歌い、ハムテルたちがエキストラで出演するというストーリーがあります。舞台上でいろんなトラブルがあり、結局ハムテルたちがぶちこわしにするという話でした。(^_^)b

年内は《トスカ》で終了。年明けはプッチーニより一世代前の巨匠・ヴェルディの最後にして最高傑作《フォルスタッフ》です。シェークスピアの《ウィンザーの陽気な女房たち》などをもとにつくられた喜劇。シニカルなところもあり、笑うに笑えないお話です。
ここを参考にしてください。