名フィル定期 第441回 ドイツ2大B

 今月の名フィル定期は先週末(12月9,10日)に《アツモンのドイツ2大B》と題して、
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調
ブラームス:交響曲第2番ニ長調
ヴァイオリン独奏:イリア・グリンゴルツ
指揮:モーシェ・アツモン
でした。

 指揮者のアツモンは今年85歳、1987年から1993年まで名フィルの常任指揮者を務め、その後、名フィル名誉指揮者としてたびたび指揮台に立ってこられました。世界的にも活躍してこられてきましたが、1週間後に行われる第9の演奏会とあわせて、今月の名フィルでの演奏会を最後に指揮者活動を引退されることになりました。今夏に急遽発表され、今回のプログラムも最後を飾るべく変更されました。

 タイトルの「ドイツ2大B」とは、クラシック音楽の世界で「ドイツ3大B」として取り上げられる、ドイツ出身である偉大な作曲家のうち、音楽史上の位置づけや一般的な知名度から上位3人を選ぶといずれも頭文字がB。バッハ(Bach)、ベートーヴェン(Beethoven)、ブラームス(Brahms)の3人ですが、このうち、オーケストラのレパートリーとしてはやはりベートーヴェンとブラームス。こんなところから、今回のプログラムが作られたのでしょう。

 2日連続のコンサートの2日目を聴きましたが、定期演奏会最後の指揮とあってオーケストラも聴衆も一体となってまれに見るすばらしい演奏でした。

 1曲目のベートーヴェンのソロを弾いたグリンゴルツは1982年サンクトペテルブルク生まれ。世界的にも注目されているヴィオリニストの1人です。ヒゲをたくわえた精悍な風貌からは想像もつかない繊細で、哀愁をおびた音色で奏でられるベートーヴェンはこれまで聴いたことのない演奏でした。
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 この曲は、メンデルスゾーン、ブラームスのヴァイオリン協奏曲と並んで3大協奏曲、さらにチャイコフスキーを加えて4大ヴァイオリン協奏曲とも称される名曲です。演奏頻度も高いのですが、残念ながら生で聴いたのは今回が初めてかもしれません。

 何種類か持っているCDを予習代わりに聴き込んでいきました。いずれも、ヴァイオリニストも力強く、オケもしっかりと鳴らした演奏で、圧倒されてばかり。迫力のある演奏を想像していましたが、完全に裏切られました。胸を締め付けるような演奏とは夢にも思いませんでした。オケも決して出しゃばることなく、ソリストをうまく下支えしながら、見事なアンサンブルを聴かせてくれました。特に第1楽章のなかほどで、ヴァイオリンソロがアルペジオを奏し、裏でファゴットがデュエットでメロディーを奏するところ(1度CDをお聞き下さい)では涙がこぼれそうに。いつものことながら、音楽の奥の深さを思い知らされました。

 ソリスト・アンコールは、
パガニーニ:24の奇想曲 作品1より第22番ヘ長調 マルカート
協奏曲とは一転して落ち着いた音色で、テクニックを見せつけるかのような曲でありながらもじっくりと聴けるすばらしい演奏でした。

 さて、この日のメインは後半のブラームス。指揮者・アツモンの大のお気に入りのようで、折に触れて取り上げているようです。

 ブラームスの4つの交響曲の中では最も明るく、さわやかな印象の曲です。ただ、演奏頻度は最も低いかもしれません。この曲も生は、学生オケのときの自分たちの演奏以外では、初めてかもしれません。文字通り、アツモンによる定期最後の演奏はたとえようのない名演でした。

 第1楽章が全体の半分近くを占めるくらい長いため、指揮者の技量が問われる曲ですが、バランスの悪さなどみじんも感じることはありませんでした。「最後」を意識したのか、オケの熱意がブラームスの情熱を上回るような演奏でした。第2,第3楽章は短いため、あっという間に終わりました。そして、終楽章(第4楽章)。後半は今思い出しても泣けてきます。一つ一つの音を慈しむかのように丁寧に奏して、オケが別れを惜しんでいることが伝わってきました。テンポも速く、音も細かく刻むところが多い部分ですが、全ての音をしっかりと手ですくって持ち上げているかのようにステージからホール全体に伝わっていきました。

 演奏終了後はオケからも聴衆からも拍手が鳴り止まず、今回の演奏に対してだけではない感謝が込められていました。

 次回は来年1月13,14日、ドヴォルザークのチェロ協奏曲とフランクの交響曲です。チェロ独奏は山崎伸子、指揮は円光寺雅彦(名フィル正指揮者)。お二人はご夫婦です。

METライブビューイング モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》

 先週の土曜日(12月3日)から今シーズンの2作目である
モーツァルト作曲:歌劇《ドン・ジョヴァンニ》
が始まっています。上映期間は1週間しかありませんが、今作は入場者が多く見込めるためか、午前10時からと午後7時からの2回上映です。

 今シーズンの上映作のなかでは有名な作品で、音楽もモーツァルトですから、耳なじみもよく、簡単に口ずさんだり、口笛でならしたりできるような簡単なメロディーもたくさんあります。

 ただし、物語はとんでもない話です。17世紀にスペインでまとめられた戯曲が基になっているようですが、それ以前から『ドン・ファン』という名の人物を主人公にした同様の伝説のような昔話はあったようです。

 さて、オペラの主人公であるドン・ジョヴァンニ、「ドン=Don」は貴族など身分の高い男性に付ける称号です。しかし、決して「貴い」人物ではなく、オペラ中で従者であるレポレッロが歌う、通称「カタログの歌」では
うちの旦那が愛した女は、イタリアでは640人、ドイツでは231人、フランスで100人、トルコで91人、そしてスペインではなんと1003人。この中には村娘あり、小間使いあり、町娘あり、それに伯爵夫人、男爵夫人、侯爵夫人、大公令嬢もいます。どんな階級の女もいます、年格好もさまざま、(中略) 金持ちであろうと、醜女であろうと、別嬪であろうと、とにかくスカートさえはいていればいいのです”
という人物です。
 
 オペラの中でも、3人の女性にいい寄っていて、友人であるドン・オッタービオの許嫁の部屋に忍び込んだり、中に当日結婚式を挙げる予定の村娘チェルリーナにまで手を出す始末。もちろん、懲らしめてもらわないとと収まりがつきません。最後は手にかけた老騎士の亡霊である石像につれられて地獄落ちです。


 全2幕、正味約3時間ですから、オペラとしてはやや長めでしょうか。今回の演出はオーソドックスというか、17~18世紀頃のヨーロッパを思わせる衣装で演じられていて、大きな場面転換もなく、音楽の流れに沿ってスムーズに物語が展開していきました。それぞれの歌手が持ち味を発揮して、すばらしい歌唱と演技に圧倒されるうちにあっという間に時間が過ぎていきました。

 メトロポリタン歌劇場は専属のオーケストラがすばらしいことでも知られています。上演は毎日行われていますので、弦楽器奏者の休みは3日か4日に1日くらいしかないかもしれません。かなりのハードワークを要求されると思いますが、この日の演奏も場面場面に応じて表情の違いがはっきりとしていて、非常にわかりやすい演奏でした。指揮者もメトロポリタン歌劇場の首席指揮者であるファビオ・ルイージ。腕や指の動きがきびきびしていて、演奏者から見て何を指示しているのかがすごくわかりやすいのだと思います。何もかもがうまく咬み合った、すばらしい演奏でした。

 次回は年明けですが、今シーズンは来年の6月まで残り8作品あります。特に有名で、ストーリー、音楽ともに初めての人にもわかりやすいのは4月にある
ヴェルディ:《椿姫》(デュマの同名小説を基にしています)

5月にある
チャイコフスキー:《エフゲニー・オネーギン》(プーシキンの同名小説を基にしています)
でしょう。
 物語としては、2月にある
グノー:《ロメオとジュリエット》
はシェークスピアの名作が基になっているだけにわかりやすいでしょう。そして、6月にある
リヒャルト・シュトラウス:《ばらの騎士》
は私が最も好きなオペラです。