名フィル定期(第421回):ロシアの1番、カリンニコフ交響曲第1番

先週土曜日(2月21日)はMETのあと、夜は名フィルの2月定期。今月は
【ファースト】シリーズ、『ロシアの1番』
と題して、
ムソルグスキー:聖ヨハネ祭のはげ山の夜(交響詩『はげ山の一夜』原典版)
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番
カリンニコフ:交響曲第1番
ピアノ独奏:ソヌ・イェゴン
トランペット:井上圭
指揮:アンドリス・ポーガ

今回はテーマの通り、いずれもロシアの作曲家。帝政ロシア時代からソ連の時代にかけて活躍した作曲家です。

ムソルグスキーはラヴェルが編曲した『展覧会の絵』で有名です(今年の7月定期で取り上げられます)。『はげ山の一夜』は中学校の音楽の時間などで聴いた方もいるでしょう。ただ、この曲は、作曲者が亡くなった後で、友人のリムスキー=コルサコフが手を加えたもの。今回演奏されたのはムソルグスキーが作曲したそのままの楽譜を使用しています。やや荒削りというか、洗練されていないなと感じる部分がかなりあるのですが、その分、より土俗的な感じがして迫力があります。

聖ヨハネ祭とは、イエス・キリストを洗礼した聖ヨハネの誕生日(6月24日)を祝うキリスト教のお祭り。キリスト教伝播以前のヨーロッパでは夏至の日にお祭りをしたところが多かったそうで、この両者を掛け合わせるようにした行事がその後を続いたそうです。夏至の夜には妖精や魔女たちが暴れるなどの迷信もあったようで、ムソルグスキーはこうした内容を題材としたオペラを企画して、この曲はその一部として使うつもりだったとか。オペラは結局完成せず、この曲もムソルグスキーの生前は演奏されることもなかったそうです。

この曲は打楽器や金管楽器が大活躍し、聴き応えがあります。演奏は出だしはまとまりがなく、えっと思うような始まり方だったのですが、途中からいつものアンサンブルが戻り安心して聴けました。前日の演奏を聴いていないので分かりませんが、何かぎくしゃくすることがあったのでしょうか?

私にとってショスタコーヴィチは苦手な作曲家です。好きな人はマニアックにはまっていくようですが、私はどうしても入れ込めないところがあります。ただ、この曲は変わった編成ではありますが、音楽的には聞きやすいと思います。

ピアノ協奏曲ですが、当初はトランペット協奏曲のつもりで書き始めたそうです。結局うまくいかずピアノを加え、実際にはピアノとトランペットの二重協奏曲です。オーケストラは弦五部のみ。トランペットの独奏は名フィル主席トランペット奏者の井上さん。柔らかくて優しい音色が印象的でした。

ピアノはかなり難しそうでしたが、オケともよく聴き合って、どのパートも決して出しゃばらずによくまとまった演奏でした。4楽章構成ですが、アタッカ(切れ目なく)で演奏されます。第2楽章にあたるゆっくりしたテンポの部分が何かを訴えかけるような曲調で、やや堅めのピアノの音が寂しげで耳に残っています。

今回の演奏で使用されたピアノは、ヤマハCF-X。多くのコンサートではスタンウェイが使用され、芸術劇場も2台か3台持っているはずですが、今回は特別にヤマハから貸与されたそうです。ピアニストのリクエストでしょうか。スタンウェイと比べると、やや硬く、透き通ったような音色がしました。ショスタコーヴィチの曲にはよく合っていて、適切な選択だったと思います。

さて、今回もメインはカリンニコフ。1966年生まれで1901年に亡くなっています。生前は作曲家としてほとんど売れず、貧しいまま若くして結核で亡くなった作曲家。今回演奏された交響曲第1番も死の5年ほど前に作曲され、生前は演奏されることもなかったそうです。貧困と病に苦しむ中で作曲されたはずですが、全体としては明るく、ほのぼのとした雰囲気を湛えています。残念ながら演奏機会はほとんどないようで、CDも10種類くらいしかありません。事前に買って聴いてみましたが、聴けば聴くほど優しくおおらかな気持ちにさせてくれるいい曲であることが分かってきました。

おそらく最初で最後に聴く生演奏だっただろうと思うのですが、指揮者のタクトのもとに一糸乱れぬすばらしい演奏でした。弦楽器の分厚い響き、木管楽器の音色とテクニック、そして金管楽器の輝きと、どれをとっても手持ちの2種類のCDの演奏を完全にしのいでいます。特に第2楽章での旋律の美しさや色彩感はもっと浸っていたいくらいでした。

指揮者はラトビア出身でたぶんまだ30代、スコアを細部までしっかりと読み込んで、カリンニコフの良さをしっかりと聴かせてくれたと思います。また、名フィルとも初顔合わせであるにもかかわらず、その特性をよく理解して、あれだけしっかりと鳴らせるのですからすばらしい才能の持ち主だと思います。これからもたびたび振りに来て欲しい指揮者です。

さて、3月の定期は27,28日(於:愛知県芸術劇場・コンサートホール)、『巨匠の1番』と題して
松村禎三:交響曲第1番
ブルックナー:交響曲第1番
いずれも初めての方にはやや難解ですが、春休みです。非日常を体験するにはいい機会です。
また、名フィルの主催公演ではありませんが、3月7日に春日井市民会館でモーツァルトを聴く演奏会があります。こちらはきっと耳に優しく、楽しく聴けると思います。

METライブビューイング《メリー・ウィドウ》

現在、ミッドランドスクエア・シネマでMETライブビューイング
レハール作曲《メリー・ウィドウ》(The Merry Widow、原語であるドイツ語ではDie lustige Witwe、『陽気な未亡人』ほどの意味でしょうか)
が上映されています。
先週土曜日(2月21日)に観に行きました。今回も満席。飽きの来ない楽しい話ですが、オペラとしてはそれほど有名ではないので、まさか(゜;)エエッ ライブ・ビューイングも人気が出てきたようです。詳しい情報はここです

さて、《メリー・ウィドウ》のような演目はオペラ(歌劇)ではなくオペレッタ(喜歌劇)と呼ばれます。オペラが基本的に台詞なしで上演されるのに対して、オペレッタにはかなり台詞が入り、登場人物が気持ちを表現したり、ここぞというやりとりの部分を歌います。ちょうどミュージカルと同じです。というよりも、ウィーンやパリではやったオペレッタがアメリカ・ニューヨークに渡ってミュージカルになったと言った方がいいでしょう。

レハール(1870-1948)は現在のハンガリー生まれで、プラハでドヴォルザークに作曲を学び、ウィーンで活躍しました。オペレッタが得意だったようで、《メリー・ウィドウ》を出世作として14作完成させています。オリジナルは歌も台詞もドイツ語ですが、今回の上演は英語版。アメリカではかなりポピュラーなようです。

さて、パンフレットを参考に簡単にあらすじを。
舞台は20世紀初めのパリ。架空の小国ポンテヴェドロ(多分にバルカン半島辺りを感じさせる)の在フランス大使であるツェータ男爵主催のパーティー。主人公のハンナ・グラヴァリは貧しい家庭の生まれながら、ポンテヴィドロ国の資産の大半を所有する大金持ちと結婚。結婚後すぐに死別し、莫大な財産を相続。ハンナが他国の男性と再婚すると国が破産しかねないと心配するツェータ男爵は、書記官の伯爵ダニロにハンナに求婚するように命令。しかし、ダニロは「恋はいつでもOK、婚約もしてもいいけど結婚はしないのが主義」と言って命令を拒否。実は、ダニロはかつてハンナと恋仲で、身分違いゆえに結ばれなかったという過去があります。決して恋心は消えていないものの、素直になれない。一方、ハンナもダニロを忘れておらず、流し目を送るもすんなりとは伝わらない。そんな最中に、ハンナはツェータ男爵の妻ヴァランシエンヌの浮気をかばってダニロの誤解を招いてしまいます。ダニロはお金に目がくらんだと思われたくないとか、いろいろ考えるのですが、最後は2人が結婚すると宣言してめでたしめでたし。

今回のキャストは
指揮:アンドリュー・デイヴィス 演出:スーザン・ストローマン

出演:ルネ・フレミング(ハンナ)、ネイサン・ガン(ダニロ)、ケリー・オハラ(ヴァランシエンヌ)、アレック・シュレイダー(カミーユ)、トーマス・アレン(ツェータ男爵)

実演奏時間は約2時間半。たわいもないストーリーですが、魅力的で口ずさみたくなるようなメロディーが随所にあり、とにかく飽きません。暗い雰囲気のメロディーは全くなく、最後までわくわく、どきどき。また、舞台や衣装も豪華絢爛で、ただ観ているだけでも楽しめます。ただ、今回の一番の注目はハンナを演じたルネ・フレミング。現代最高のソプラノ歌手の一人で、風格、声質ともにこの役にぴったり。是非とも彼女のハンナを見たい、聴きたいと思っていたので念願が叶いました。最も有名なアリアは特に第2幕で歌われる「ヴァリアの歌」。(ここにルネ・フレミングが若かりし頃に歌った映像があります。どうやら来日公演か?)

また、今回の演出を手がけているのはトニー賞などを受賞しているブロードウェイのミュージカルの専門家、さらに、主役2人に次ぐ役どころである男爵夫人ヴァランシエンヌ役を何とミュージカル女優が演じました。オペラ歌手の声とはやはり違いますが、見事。存在感があり、演技もさすがです。後半でパリの『マキシム』というキャバレーでカンカン踊りのシーンがあります。ここでは、普段はミュージカルで活躍している歌手たちがヴァランシエンヌ役の女優さんと一緒に歌とダンスを披露。まさにミュージカル、METのホールだけではなく、映画館の客席からも拍手が起こっていました。

第2幕の「ヴィリアの歌」や第3幕でハンナとダニロの二重唱「唇は黙し、ヴァイオリンは囁く」(ドミンゴ&テ・カナワのデュエットはここ、スタジオ録画です)などは、ルキノ・ヴィスコンティの映画「ベニスに死す」で主人公アッシェンバッハが美少年タージオに出会う場面で使われているそうです。気がつきませんでした。

次回は3月7日から、オッフェンバック作曲《ホフマン物語》、パヴァロッティの再来と言われ、現在売り出し中のヴィットーリオ・グリゴーロ()が登場します。かっこいいです。ここを参考にしてください

モーツァルティック・バレンタイン

意味が分かりませんよね? バレンタインデーにモーツァルトを聴こうというコンサートです。2月14日土曜日に春日井市・高蔵寺にある春日井市東部市民センターでありました。ホールは500人くらいは入れ、扇形でちょうど古代の野外劇場を思わせるような形でした。もちろん屋内ですが。

プログラムは
ベートーヴェン:ロンディーノ
モーツァルト:セレナード第11番
モーツァルト/ハイデンライヒ編曲:歌劇《魔笛》(管楽合奏版)より抜粋
アンコールとして
モーツァルト/ハイデンライヒ編曲:歌劇《フィガロの結婚》(管楽合奏版)より抜粋
リヒャルト・シュトラウス/??編曲:交響詩《ドン・ファン》(管楽合奏版)より抜粋

演奏は木管楽器を中心とする八重奏で、オーボエ2,クラリネット2、ファゴット2、ホルン2のあわせて8人(後半はコントラバスを加えた九重奏)。演奏者はNHK交響楽団の首席オーボエ奏者である茂木大輔さんを中心に、NHK交響楽団や名古屋フィルハーモニー交響楽団などの管楽器奏者を交えた編成。今回だけの集まりだと思いますが、生ではなかなか聴けない曲、演奏形態だけに十分に堪能できました。

茂木さんはNHKが放送するN響の演奏会でいつも見ています。また、名フィルのメンバーも3人加わっておられましたが、私にとっては毎月の定期でおなじみ。非常に親近感のわくステージでした。コンサートでは、舞台上の演奏者の後にスクリーンを配して、それぞれの曲の紹介やモーツァルトの生い立ちの紹介など、あまりクラシック音楽、あるいは今回のような形態の演奏になじみのない人も飽きずに聴いていられるような趣向が凝らされていました。特に、後半の『魔笛』からの抜粋は、序曲のあと、オペラの筋書きにしたがって10曲が続けて演奏されましたが、曲の間にストーリー紹介が入り、オペラを知らなくても音楽を楽しむことができたのではないでしょうか。

私が最も聴きたかったのはモーツァルトのセレナードです。CDは何種類か持っていますが、未だ生演奏を聴いたことがなく、これでまた念願の1つがかないました。

今回のような編成は、管楽器の演奏形態としては非常に音色がまとまりやすく、きれいなハーモニーをつくることができます。その一方で、各楽器ごとに特異なフレーズや動き方が異なっているため、音楽のいろんな側面を楽しむことができます。今回の演奏も各楽器の個性が際立ち、また、各奏者のすばらしい音色を存分に楽しめました。特に、セレナードはクラリネットの活躍の目立つ曲ですが、名フィル・浅井さんの柔らかく暖かみのある音色が印象的でした。

木管楽器による八重奏の演奏形態はハルモニームジーク(ドイツ語でHarmoniemusik)と呼ばれ、18世紀後半から19世紀の前半、つまりモーツァルトやベートーヴェンが活躍した時代に流行したそうです。主に貴族の食事やお金持ちたちのパーティーの場での伴奏音楽として利用されました。食事の際に演奏されるため"Table music"とも呼ばれます。今回演奏されたモーツァルトのセレナードなどはその典型的な曲です。ベートーヴェンも同様の編成の曲を1曲だけつくっており、今回演奏された『ロンディーノ』はその一部が独立して演奏されるようになった曲です。

ハルモニームジークとしては、当時人気のあったオペラの一部を管楽八重奏(または九重奏)に編曲して演奏させて楽しむということも多かったようです。モーツァルトの有名なオペラはすべて編曲版があり、現在でも数多く録音されてCDとして発売されています。また、モーツァルトは自身のオペラ『ドン・ジョヴァンニ』のなかの宴会のシーンで、『フィガロの結婚』のアリア「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」のハルモニームジーク版を取り入れています。

この企画と連続して、3月7日に春日井市民会館で
生演奏と投影で綴る大作曲家の大傑作シリーズVol.1〜モーツァルト
が、今回中心になられた茂木大輔さんの指揮であります。(案内はここ) 私もいきます。きっと楽しいと思います。

《見つめて シェイクスピア!》展

週末(2015/02/15)に滋賀県立近代美術館でひらかれている《見つめて シェイクスピア!》展(HPはここ)を観に行ってきました。本命は琵琶湖大橋の袂、「なぎさ公園」の菜の花畑と美術館で展覧会に合わせてひらかれたコンサート『歌って、シェイクスピア!~シェイクスピアとエリザベス朝の音楽』でした。

菜の花畑はきれいだったのですが、行った時間には雨が降っており写真のように今ひとつの風景でした。菜の花畑がほとんど琵琶湖に面しており、本当は対岸の比良山系をバックにすばらしい一枚が撮れるはずだったのですが・・・・・。
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また、コンサートは入場無料だったからなのか、希望者殺到で整理券が早々になくなってしまったようで入場できず(>_<) 結局、扉の外から始まりの拍手だけ聴いて終わりました。

とは言っても、この展覧会は結構見応えがありました。シェイクスピアの戯曲の名場面を描いた絵画や版画、本の挿絵を集めた展覧会です。絵画よりも版画が多く、全体に色にあふれるというよりもモノトーンな雰囲気でした。作品は、ハムレット、オセロ、リア王、マクベスのほか、夏の夜の夢、あらし、ロミオとジュリエット、十二夜など、有名な悲劇や喜劇を中心に、それぞれの有名場面を描いたもの。それぞれの物語のあらすじの外、各場面についても簡単に説明が施されていましたので、それぞれのストーリーを知らなくともある程度は理解できるように配慮されていました。ドラクロアやシャガールなど有名な画家をはじめ非常に多くの作品でしたが、中には「これが版画か」と息をのむほどにリアルで、ドレスの光沢、肌触りまでもが伝わってくるような作品もありました。 やや目をこらしながら見て回ったためが、1時間あまりの鑑賞で非常に疲れました。
ポスターはこれ

シェイクスピアは1564年に生まれて1616年に亡くなっています。つまり、昨年が生誕450年、来年が没後400年。メモリアルイヤーが続き、いろんなイベントが開催されています。いつも紹介しているMETライブビューイングでも、2014-2015シーズンの開幕で《マクベス》が取り上げられました。NHK教育テレビで毎週水曜日の夜に放送されている『100分で名著』という番組をご存じでしょうか? 昨年の最後が《ハムレット》でした。いつかはと思っているのですが、演劇を見る機会がないのが残念です。

蛇足ですが、1564年生まれはガリレオ・ガリレイと同年、1616年没は徳川家康と同年です。

METライブビューイング《ニュルンベルクのマイスタージンガー》

METライブビューイングでワーグナー作曲《ニュルンベルクのマイスタージンガー》が先週土曜日から今週金曜日までミッドランドスクエア・シネマで上映されています。

前の週に行った名フィル定期のメイン・プログラムと同じ作曲家、リヒャルト・ワーグナーの作品。オペラですが台本も作曲家が自分で描いていて、音楽と言葉の一貫性を追求したワーグナーの初期の傑作。特に、悲劇ばかりをつくったワーグナーのほぼ唯一の喜劇。前回、ワーグナーは苦手だったと書きましたが、名フィルのおかげで少しなじめたのでしょうか、METの演奏に打たれたのでしょうか、最後はハッピー・エンドに涙しました。

舞台は16世紀半ばのドイツ・ニュルンベルク。今でこそそれほどの大都市でもなく、日本から観光で行く場所でもないかもしれませんが、当時は南ドイツ有数の自由都市。職人や商人のギルドによって街が栄えていたそうです。題名の『マイスタージンガー』とは、職人の親方であると同時に、アマチュアの歌手。歌手たちの組合のようなものもあったようで、職人同様にヒエラルキーもしっかりしてできていたそうです。日本語では「職掌歌手」とか「親方歌手」と訳されます。物語は、実在のマイスタージンガーであるハンス・ザックスという人物を中心に、マイスタージンガーを目指す若い騎士ヴァルターと恋人エヴァ、そしてそこへ横恋慕するマイスタージンガーやその他の歌手たちの物語。

わずか2日間の出来事を3幕構成に仕立てています。実演奏時間は4時間半、ライブビューイングでは、幕間のインタビューなどと休憩2回を加えて5時間半、現時の実際の上演では休憩2回を入れて6時間、現在頻繁に上演されるオペラとしてはおそらく最長でしょう。正直言ってかなり疲れました。でも、ミッドランドスクエア・シネマのホールはほぼ満席でした。

ハイライトはなんと言っても第3幕、ハンス・ザックスのアリア、5重唱、そして、最後のヴァルターのアリア。ヴァルターのアリアには本当に涙、涙・・・・。若者が苦労をして成長した姿を見るのは清々しく、頼もしいものです。

次は2月21日からでレハールの《メリー・ウィドウ》、楽しい喜歌劇。私の大好きな作品。主役はハンナという大富豪の未亡人ですが、演じるのはルネ・フレミング。現代最高のソプラノ歌手です。是非とも彼女のハンナを聴いてみたいと思っていました。念願が叶います。

ロイヤル・オペラ《アンドレア・シェニエ》

メトロポリタン歌劇場(MET)のライブ・ビューイングは何度も紹介していますが、同様の企画は他の有名歌劇場も取り組んでいます。パリ・オペラ座とロンドン・ロイヤル・オペラハウス(通称コヴェントガーデン歌劇場)はバレエでも有名な劇場で、オペラとバレエの両方をライブ・ビューイングしています。

今回はロイヤル・オペラハウスのライブ・ビューイングを紹介。一昨年から始めたようで、昨年から今年にかけてが2シーズン目(2014~2015シーズン)。すでに何作かの上映が済んでいるのですが、ここはMETのように1作を1週間続けての上映ではなく、1作1回きり。それも現地での上映の翌日の現地と同じ時間帯、つまり夜に上映。少し前ですがTOHOシネマズ名古屋ベイシティで観てきました。

ジョルダーノ作曲、イッリカ台本の《アンドレア・シェニエ》、フランス革命時に活躍した実在の詩人を主人公にした作品です。ちょうどプッチーニの名作《ラ・ボエーム》と同時期に初演され、大成功。正直言って、超有名と言うにはほど遠いですが、主人公・アンドレ・シェニエ(テノール)とその恋人・マッダレーナ(ソプラノ)を中心として聴き所満載のオペラです。

フランス革命後のロベスピエールの恐怖政治時代のパリが舞台。いったんは革命の中心を担い、活躍したシェニエも些細なことから反逆者の汚名を着せられます。恋人であるマッダレーナとパリから逃げ出したいのですが、横恋慕した憲兵のジェラールに密告されて逮捕・投獄されてしまいます。結局、2人ともが処刑場へ連れて行かれることろで幕。

4幕構成ですが、第3幕からは先が見えてきて、悲しい歌の連続。隣で観ていた女性はずっと泣いておられました。

主人公のシェニエを歌ったのはヨナス・カウフマン、現代最高のテノール。
昨シーズンのMETでマスネ《ウェルテル》を聴きましたが、実にすばらしい。容姿も文句なし。ファン、追っかけは世代を問わずあまたいるようです。

名フィル定期(第420回):ワーグナー《ワルキューレ》第1幕

ずっと名フィルの定期について記しておりませんでした。プログラムがあまりにも特殊で、しっかりとした感想が持てなかったことでやや書きにくく、サボってしまいました。

年明けということもあり、今回はしっかりと。

1月の第420回定期は「リングの第1日第1幕」と題して、常任指揮者:マーチン・ブラヴィンスの指揮で
リヒャルト・シュトラウス:セレナード変ホ長調
ブリテン:シンプル・シンフォニー
ワーグナー:楽劇《ワルキューレ》第1幕
 独唱 ソプラノ:スーザン・ブロック、テノール:リチャード・バークレー=スティール、バス:小鉄和広

《リング》とは、ワーグナーの大作《ニーベルングの指輪》のこと。これは連作オペラとも言うべきもので、ストーリーはずいぶん前に映画で話題になった『指輪物語』とよく似ています。オペラとしては、序夜、第一夜、第二夜、第三夜の4日かけて上演され、それぞれも長いのですが、全部で20時間くらいかかる超大作です。今回の《ワルキューレ、Die Warkule》は第一夜にあたり、3幕構成。全部で4時間くらいでしょうか。第1幕は1時間余。

ワーグナーの、特に《ニーベルングの指輪》のような中期以降のオペラの特徴は「無限音楽」といって、一つの幕の間中全く切れ目なく音楽が続くこと。こうした作品は「オペラ」とは言うものの、日本語では「歌劇」とは言わずに「楽劇」、ドイツ語で"Musikdrama"といいます。『ワルキューレ』第1幕も1時間余に渡って切れ目なく音楽が続きます。登場人物はわずか3人。合唱もなし。音楽も比較的べたっとした感じで、正直言って私は苦手です。

いや、苦手だったというべきかもしれません。「居眠り」覚悟で聴きに行ったのですが、やはり生演奏の力でしょう。眠くなるどころか「これがワーグナーか」と、まさに目からうろこが落ちる思い。終わった瞬間に「Bravo!!」 ブラヴィンス得意のワーグナー、ソリストも実力者をそろえ、なんと言ってもオケが気を吐いてくれました。今シーズン最高の演奏だったのではないでしょうか。

ワーグナーが苦手なのは音楽だけではありません。ワーグナー自身が「反ユダヤ主義」的な思想を持ち、これが20世紀に入りナチス・ドイツの国威発揚のために利用されていたことも、変な先入観をつくってしまい、どうも敬遠しがちでした。しかし、やっぱり「生演奏の力」は大きい。もっと素直に音楽と向き合うことが大切だと言うことを学びました。ブラヴィンスと名フィルに感謝!

名フィルもTwitterでいろんな情報を流してくれるのですが、今回のリハーサルでは、独唱者のバークレー=スティールさんと小鉄和広さんが、ともに名前にSteel=鉄が含まれるということで意気投合したとのこと。ついでにまた共演してください。

ワーグナーの作品は、オーケストラだけによる楽曲は勇ましい部分とロマンティックな部分を併せ持ついい曲です。《ワルキューレ》で最も有名なのは第三幕冒頭の『ワルキューレの騎行』。映画《地獄の黙示録》で有名になって以来いろんな場面で使われています。今回の演奏のつづきで、この部分を聴いてみたかったです。
『ワルキューレの騎行』は例えばここを聴いてください。)

さて、順番を戻して第1曲目のR.シュトラウスの《セレナード》はフルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラ・ファゴット1、ホルン4という管楽器のみ13名での合奏。オーケストラのやや規模の大きな曲の木管セクションのみの編成と考えればいいでしょう。単一楽章で10分ほど。しかし、テンポの変化や楽器の組み合わせ、メロディーの雰囲気が途中で何度関わります。20世紀に入ってから作られた曲ですが、非常に親しみやすい佳作です。今回生で初めて(たぶん最後?)聴くことができましたが、これも名演。すべての奏者が生き生きとして、息のあったすばらしい音を聴かせてくれました。管楽器の響きを堪能することができました。

作曲者であるリヒャルト・シュトラウスはモーツァルトを深く敬愛していたとのこと。実は、モーツァルトにも同じように管楽器13名による《セレナード》と題する曲があります。モーツァルトの《セレナード第10番 グラン・パルティータ》(通称 13管楽器のためのセレナード)で、編成は、オーボエ2、クラリネット2、バセット・ホルン2、ホルン4、ファゴット2、コントラバス1 です。バセット・ホルンとはクラリネットよりもやや大きい楽器で、太い音がします。コントラバスはたぶん低音を補強するために加えられたのでしょう。コントラ・ファゴットがなかったのかもしれません。モーツァルトの曲の方が構成はもう少し大きく7楽章構成で、40分を超える大曲。残念ながら生で聴く機会は未だありません。

2曲目のブリテン、イギリスの作曲家で1913年生まれ、1976年に亡くなっています。あまりなじみのない名前かもしれませんが、中学校などの音楽教室によく張ってある年表には『青少年のための管弦楽入門』が必ず取り上げられています。この曲は聴いたことがある方もいらっしゃるのでは? ブラヴィンスが英国出身ということもあり、取り上げられたのでしょう。これまでにも何度かブリテンの作品は定期演奏会で取り上げられており、大分なじんできました。

この曲も、Rシュトラウス同様に若い頃の作品ですが、弦楽器だけの編成。シンフォニー=交響曲と題されているだけあって4楽章構成で、ソナタ形式を取り入れています。第2楽章はピッチカートだけによる演奏、第3楽章は非常に哀愁をおびた雰囲気と、いろんな曲調を楽しむことができます。やや大編成でしたが、その分音の厚みと響きの深さに聴き惚れました。

管楽器だけ、弦楽器だけとあえて2曲取り上げたのは、ブラヴィンスは常任指揮者として、自らが率いるオーケストラの力量を見せたかったのでしょう。管も弦もすばらしかった。

今週末のMETライブ・ビューイングでは同じくワーグナーの《ニュルンベルクのマイスタージンガー》が上映され、年初からワーグナーが続きます。