METライブビューイング《ロメオとジュリエット》

 先週土曜日から名駅・ミッドランドスクエアシネマ1で
METライブビューイングの今シーズン5作目である
グノー:歌劇『ロメオとジュリエット』
が上映されています。

 題名の通り、シェイクスピア原作の悲劇を基にしたオペラです。作曲者のグノーは19世紀に活躍したフランスの作曲家。管弦楽分野ではあまり有名ではありませんが、歌劇ではこれまでにも紹介したことのある『ファウスト』を作曲しています。期せずして、いずれも非常に有名な文学作品が原作です。

 原作を基にした、あるいは翻案した映画も作られていますし、ストーリーは皆さんご存じの通り。今回は演出も新しくなり、シンプルでわかりやすい舞台でした。主役を演じた2人、ジュリエット役のディアナ・ダムラウはドイツ人ソプラノで高音域を得意としています。ロメオ役のヴィットーリオ・グリゴーロは美しく張りのある声のテノール、非常に情熱的な歌いっぷりもあって人気があります。

 全体は5幕構成、原作のうちから有名な場面だけをつないで非常にわかりやすくなっています。
舞台は14世紀のイタリア・ヴェローナ。名家であるモンタギュー家とキャピレット家は激しく対立し、ことあるごとにしないで争っています。
 第1幕:モンタギュー家のロメオが友人と連れだって、キャピレット家の仮面舞踏会へ忍び込むと、ジュリエットと出会って互いの身分に気づかずに恋に落ちる。登場したジュリエットのアリアをダムラウが踊りながら見事に歌唱。
 第2幕:舞踏会の夜。有名なバルコニーの場面。主役2人の二重唱です。ここでも、2人が激しく動きならも乱れることのない見事なデュエットでした。
 第3幕:主役2人は両親に内緒でローラン神父を頼り、極秘に結婚式を挙げます。ここでも二重唱。見事でした。結婚式からの帰り(?)、1人になったロメオがモンタギュー家とキャピレット家の家来達のけんかに巻き込まれ、ロメオはキャピレット家の1人を殺してしまい、居合わせたヴェローナ大公から追放を言い渡されます。
 第4幕:ロメオがヴェローナを去る前にと、結婚した2人が初夜を過ごす。ここでの二重唱は聴きもの。今回の演出は割とあっさりしていましたが、濃厚なベッドシーンを売りにした演出もあります。ジュリエットは父親の命令で別の男性・パリス伯爵との結婚を強いられており、ローラン神父に救いを求める。仮死状態となる薬を飲んだジュリエットはパリス伯爵との結婚式の最中に倒れ、周りのものはみんな死んだと信じます。
 第5幕:キャピレット家の礼拝堂の中。ジュリエットが死んだと聴いたロメオが現れ、ジュリエットの傍らで毒を仰ぎます。ロメオが苦しんでいるときにジュリエットが目覚め、互いの愛を確認し合う。ここでのデュエットが泣かせます。ロメオの死を悟ったジュリエットは短剣で自らを刺してともに天国へ旅立つ。

 原作にあるような2人の死後の場面はありません。登場人物もかなり絞られていて、大人?として登場するのはジュリエットの父親と侍女、ローラン神父だけ。いずれも存在感があり、それぞれのアリアも聴き応えがありました。特に、ジュリエットの父親であるキャピレット伯を歌ったローラン・ナウリは所々で剽げたような歌唱、仕草を見せて、がんばっている主役2人を見て熱くなった気持ちを休ませてくれました。彼はフランス人のバリトン歌手。コミカルな役からからシリアスな役までこなすマルチタレントです。

 今作は午前と夕方の2回上映で、金曜日までやっています。ストーリーが分かっていると入りやすいと思いますので、時間のある方は是非。

 次回はドヴォルザークの『ルサルカ』。チェコ語ですが、ちょっと悲しいメルヘンです。3月18日から上映されます。

METライブビューイング ヴェルディ《ナブッコ》

 先週土曜日から今シーズンの4作目である
ヴェルディ作曲:歌劇《ナブッコ》
が上映されています。

 ヴェルディは1813年生まれのイタリアの作曲家。今シーズン第1作目の《トリスタンとイゾルデ》の作曲者であるワーグナーと同い年で、ヴェルディはイタリアオペラの、そしてワーグナーはドイツオペラのそれぞれの19世紀における到達点を築いた作曲家です。

 ヴェルディの作品としては、この後4月に上映される《椿姫》が最も有名ですが、今回の《ナブッコ》はヴェルディにとってのオペラ第3作に当たり、彼の出世作として知られています。

 物語は旧約聖書に取り上げられているいわゆる《バビロン捕囚》を題材とした歴史劇ですが、男女の三角関係や親子の愛憎を織り交ぜて、迫力のある音楽で描き出しています。このオペラの中で最も有名な曲は、独唱ではなく、合唱曲。《行け、我が思いよ、黄金の翼に乗って》の意の歌詞で始まる静かな曲です。イタリア第二の国歌とも言われており、劇中で聴くと、非常に感動的な名曲です。

 キャストその他は
ナブッコ(バリトン):プラシド・ドミンゴ
アビガイッレ(ソプラノ):リュドミラ・モナスティスルカ
フェネーナ(メゾ・ソプラノ):ジェイミー・バートン
イズマイエーレ(テノール):ラッセル・トーマス
ザッカーリア(バス):ディミトリ・ベロセルスキー
指揮:ジェイムズ・レヴァイン
演出:エライジャ・モシンスキー
メトロポリタン歌劇場合唱団、同管弦楽団

 ストーリーを追いながら、聴き所やこの日の上演の感想をまとめておきます。

 舞台は紀元前6世紀のエルサレムと、隣国のバビロン。(エルサレムは当時のユダヤ人の国家であるユダ王国の首都、バビロンはユダの隣国バビロニアの首都)

 物語の前提として、エルサレムに住むヘブライ人(ユダヤ人)の王族の1人であるイズマイエーレはバビロニアとの交渉(たぶん和平交渉)のためにバビロンを訪れるが、交渉は決裂。このとき、バビロニア国王であるナブッコの娘2人がともにイズマイエーレに惚れ込んだようですが、イズマイエーレとうまくいったのは次女のフェネーナ。長女のアビガイッレは拒まれる。

 第1幕は、エルサレムにナブッコ率いるバビロニアの軍勢が迫って、ヘブライ人達がおびえる様子を合唱するところから始まります。ヘブライ人はナブッコの娘のフェネーナを人質にすることに成功。しかし、バビロニア軍はエルサレムに入城。登場後のナブッコ王を演じるドミンゴの演技がすばらしい。ここで、アビガイッレとナブッコ、そして主要キャストと合唱によるコンチェルタートがすばらしい。コンチェルタートとは、各ソリストがそれぞれ異なった歌詞とメロディーで歌うことで、仮に日本語であってもそれぞれの歌詞や歌声は聞き分けられませんが、迫力十分で、これぞオペラという場面です。ナブッコの率いる軍勢によってエルサレムは陥落。神殿も焼き払われ、ヘブライ人はバビロンへ連行されます。

 第2幕以降の舞台はバビロンの王宮。アビガイッレは自らの出生の秘密、ナブッコ王と正妻との子ではなく、奴隷と正妻との間の子であることを記した文書を見つけて衝撃を受ける場面から始まります。アビガイッレは、ナブッコ王が自分ではなく、妹のフェネーナに王位を譲るのではないかと考えます。そこへバビロンの大祭司が現れ、妹のフェネーナがヘブライ人を解放しようとしているのでやめさせてほしい、アビガイッレこそがナブッコの後継者になってほしいと要請。ここで、アビガイッレが父親の王位を奪うと誓うアリアは聴き応えがあります。一方で、イズマイエーレと愛し合っているフェネーナはユダヤ教に改宗。これらのことを知ったナブッコは激怒し、自らが神であると宣言して押さえつけようとすると、突然稲妻が走り集まったもの全てが倒れます。ナブッコも失神して王冠を落とした隙に、アビガイッレが王冠を奪いさります。

 第3幕の冒頭では、アビガイッレが稲妻にうたれたショックのいえないナブッコを言葉巧みに言いくるめて、ヘブライ人捕虜の処刑宣告書に署名させます。ここで言うヘブライ人はユダヤ教徒という意味で、改宗したフェネーナを含んでいます。ソプラノとバリトンの二重唱ですが、ナブッコの錯乱した様子をいかに表現するか、バリトン歌手の表現力の求められるところです。第3幕の最後に歌われるのがヘブライ人達の合唱、遠い故郷を思い、祈りを捧げるかのように歌う《行け、我が思いよ、黄金の翼に乗って》です。イタリアでこのオペラが上演されるときには、ここは必ずアンコールされる、つまり2回歌われると言うことですが、今回の上映で大拍手を受けてのアンコールされました。特にアンコールのほうで涙腺が緩くなりました。

 第4幕の冒頭で、アビガイッレに幽閉されたナブッコが、フェネーナ達が刑場へ連行されるのを見て我に返り、ユダヤの神に許しを請います。その後、駆けつけた部下達とともに、ナブッコは救出に向かいます。フェネーナやヘブライ人達を助けたナブッコは、代わりにバビロニアの神であるベルの偶像を破壊するように命じると、偶像は勝手に壊れてしまいます。企みが破れたアビガイッレは自ら毒を仰ぎ、ヘブライ人達がナブッコをたたえる大合唱で幕。

 なにやら納得のいかない終わり方ではありますが、要所に配された合唱の迫力に圧倒されました。それほど上演頻度の高いオペラではないため、映像でもなかなか見る機会はありません。ナブッコはなかなか難しい役どころですが、名歌手ドミンゴのすばらしい演技に見せられました。

 次回は2月25日からで、グノー作曲の《ロメオとジュリエット》です。もちろんシェークスピアの名作が原作。ロメオ役は甘い声で人気急上昇中のヴィットーリオ・グリゴーロ、ジュリエット役は美しい声と高い技術で人気のディアナ・ダムラウです。