名フィル定期(第365回)

先週の土曜日は名フィルの定期演奏会でした.プログラムのせいか、寒かったからか、いつもよりややお客さんが少なかったような気がしました.

さて、タイトルは「冬の日の幻想」、プログラムは
武満徹:ウィンター
R.シュトラウス:4つの最後の歌
チャイコフスキー:交響曲第1番ト短調「冬の日の幻想」
指揮はダグラス・ボイドというイギリス出身の元オーボエ奏者、常任指揮者フィッシャーのかつての同僚です.2曲目のソプラノソロは平松英子.
でした.

1月下旬、1年で一番寒い時期ということで選ばれたのだと思いますが、シュトラウスの曲は最晩年に作曲された曲という意味で重ねたのでしょうか.

最近現代曲が頻繁に取り上げられていますが、武満は今シーズン2回目、多くの方がイメージする『現代音楽』そのもので、どう聴くべきか未だによくわかりません.今回は題名の通り、冬の情景を想像しながら聴いてみました.しんしんと雪が降っているのか?とか、強い北風が吹いているのだろうか、子どもたちがゆき遊びをしているのか、など、結構楽しく聴けました.最後は消えるように、あまりにも寂しく音が終わっていったところが印象的でした.
元々は1972年の札幌オリンピックのために作られた曲とのこと.残念ながらウィンタースポーツの情景は浮かんできませんでしたが、オリンピックイヤーにもかけて選ばれたのでしょうか.

2曲目のシュトラウスの曲は非常に楽しみにしていました.ソリストは初めて聴く人だということと、何よりも私の好きなシュトラウス.
ヘルマン・ヘッセの詩に曲がつけられています.いずれも『死』をテーマにした内容で、作曲者が亡くなる前年(1948年)につくられたほとんど遺作のような曲.シュトラウスはその高名であるが故に、ナチス・ドイツ下では政権に組み込まれていたため、戦後は戦犯としての容疑もかけられ不遇のうちになくなっています.彼が本当に親ナチであったかどうかは諸説あるようですが、この曲には死を予感する寂しさがにじみ出ているような気がします.

私のいつもの席はどうも『声』を聴くには不向きなようで、いつもハッキリときこえてきません.今回も十分に声を聞き取れず、非常に残念でした.ただオケは指揮者の統率によるのか、非常にまとまりのある演奏でした.管楽器のソロもあまり出しゃばらず、弦楽器もいかにもシュトラウスらしい響きでした.
3月の定期では同じくシュトラウスの『アルプス交響曲』が取り上げられます.

メインはチャイコフスキー.彼は6曲の交響曲(プラス1曲)を書いていますが、後半の3曲、特に第6番『悲愴』は非常に有名です.それに比べて第1〜3番はめったに演奏される機会がなく、これまでCDでもほとんど聴いたことがありませんでした.聴き込んでみると、メロディーやリズム、ロシアの大地を思わせる響きはいかにもチャイコフスキー.
今回の第1番はチャイコフスキーが20代でいったんつくり、30代半ばに最終稿として完成させた曲.表題は、必ずしも具体的なイメージを表しているのではないようですが、ロシアを思わせる雰囲気となると、普通に冬を思い浮かべてしまうので、全く違和感なく『冬の日』を堪能しました.

演奏は、特に第1楽章冒頭の弦楽器の響きが美しく、引き込まれてしまいました.リハーサルのたまものなのでしょうが、名フィルも捨てたモンじゃないです.チャイコフスキーの曲は木管楽器が活躍するので、つい聴き入ってしまいますが、長いソロもあれば、いろんな楽器が次々に掛け合うように短いフレーズをつないだりと、楽しいところがたくさんあります.若いときの曲だけにオーケストレーションは割と単純ですが、メロディーメーカーであるチャイコフスキーらしく印象的なメロディーが随所に現れます.

来月(2月)はシューマンです.今年が生誕200年、ショパンと同い年で、同じメモリアルイヤーでもやや影に隠れてしまっていますが、オケで聴くならシューマンです(ショパンはほとんどつくっていないので・・・(*^^)v 「これぞロマン派!」という曲ばかりです.

METライブビューイング《トゥーランドット》2

週末はMETのトゥーランドットを見に行ってきました.なんと、土、日ともに満席.いつもは1/3くらいしか埋まっていないのに(*_*).荒川静香効果?なのでしょうか.
回数券を持っているので、土曜日の10時頃について、指定席券と引き替えるために並んでいたら、私の前で満席、×印が出てしまいました(;_;.しょうがないので、日曜日の席を取って、駐車場代だけ払って帰ってきました.(>_<)

日曜日の席も決していい席ではなく、結構前の方で、見上げないとスクリーンが見えず、音もスピーカーの音がダイレクトに聞こえてきて、臨場感という点では今ひとつ.もうこんなことはないと思いますが.

さて、演奏ですが、トゥーランドット、カラフ、リュー、3人の歌い手がいずれも個性豊かで、最後はスタンディングオベーションでした.リューを歌った歌手は、今回のトゥーランドットがMETデビューだとか.第3幕のアリアと自決のシーンには目頭が熱くなりました.

指揮者も非常に若く、たぶんまだ30代前半? ダイナミック且つはつらつとしたトゥーランドットでした.実際には去年の11月の上演の録画で、この日の2週間前がMETデビューだったとか.将来が楽しみです.

一番有名な「誰も寝てはならぬ」は、会場からの拍手を計算に入れてか、本来なら止まるべきではないところでオケをいったん止めて、拍手がやんでから続けるという、見たこともない(聴いたこともない)ような工夫までしていました.ちょっとびっくりでした.

METライブビューイング《トゥーランドット》

メトロポリタン歌劇場には非常に多くのレパートリーがありますが、1つのオペラに対していったん演出が決まるとそれを何年も続けます.もちろん指揮者や歌手はその都度変わりますが、同じ大道具、小道具、そして同じ演技で舞台をつくります.今回の『トゥーランドット』は、ゼフィレッリという有名なオペラ演出家の手によるもので、名演出と言われ、もう20年以上続いているようです.とにかく豪華絢爛、オペラが『総合芸術』であることを実感できます.

最近、ディアゴスティーニが「DVAオペラコレクション」というシリーズを始めました.ちょうど昨年末に出た『トゥーランドット』もこのMETの舞台のライブ.20年前の舞台で、カラフを演じたドミンゴも若いです(といっても40代で一番いいときだったかもしれません). 週末から始まるライブヴューイングも同じ演出です.

さて、あらすじですが、

【第1幕】
 舞台は遠い昔の中国・北京、紫禁城前の広場.絶世の美女だが氷のように冷たい心を持つ王女トゥーランドットは「3つの謎を解いた者を夫として迎えるが、謎を解けなかった者は斬首の刑」としていました.この日もまた新たな犠牲者が出て、広場では群衆が刑の執行を待ち異様な興奮に包まれています.
 混乱した広場では、ダッタンの元国王で放浪の身だったティムールと、生き別れになっていた王子カラフが再会.しかし、カラフは斬首の命令を下すために姿を現したトゥーランドットを一目見ると、その美しさに魅せられ、謎解きに挑戦すると言い出します.ティムールに仕えていた女奴隷リューは、ひそかに王子カラフを慕っており、謎が解けなければカラフが死んでしまい、老いた彼の父が取り残されてしまうと泣き崩れました.しかしカラフの決意は堅く、謎解きに挑戦することになりました.
 
【第2幕】
 謎解きの儀式の準備が整い、トゥーランドットが姿を現し、3つの謎解きが始まります.問と答えは、
  1. 全世界はそれを祈願し、全世界は嘆願する.しかし幻影は暁とともに消え、心の中によみがえる.夜ごとに生まれ、朝に死ぬ. ………「希望」
  2. 火炎と同じように燃えるが火炎ではない.それは迷いである.熱は激烈で情熱的なもの.もしおまえが負ければ歯に、冷たくなる. ….…「血潮」
  3. おまえに与える冷たさは火となり、おまえの火は私には冷たさとなる.純白と暗黒.自由にしようとすれば、おまえはもっと充実になり、忠実にしようとすればおまえは王になるであろう. ……「トゥーランドット」
 カラフは見事に3つの謎を解いたのですが、動揺したトゥーランドットは彼の妻となることを拒みます.そこでカラフは「夜明けまでに私の名を明らかにできたら、命を捧げよう」と逆に謎を出します.
 
【第3幕】
 トゥーランドットから「夜明けまでにあの見知らぬ者の名がわかるまで北京では誰も寝てはならぬ」と命令が下され、群衆は血眼になって調べ始めます.そしてカラフと話をしていたとして捕まったのはティムールとリュー.リューは自分だけが彼の名前を知っていると言い、拷問にかけられるが、口を割りません.トゥーランドットに「なぜそんなに耐えるのか」と問われ、リューは「それは愛の力」と言って短剣で自ら胸を刺し自害してしまいます.
 群衆が去り、カラフとトゥーランドットが二人きりになったとき、カラフは拒もうとする彼女にキスをし、自らの名を明かします.夜が明けて、群衆の前でトゥーランドットは彼の名がわかったと勝利を宣言しながらも、「彼の名は『愛』」と叫び、二人は結ばれます.

【作曲】 ジャコモ・プッチーニ(Giacomo PUccini)、ただし、最後の二重唱とフィナーレは、フランコ・アルフィーのの補完
【台本】 ジョゼッペ・アダーミ、レナート・シモーニ
【原作】 カルロ・ゴッツィ(『千夜一夜物語』をベースにした寓話『トゥーランドット』)
【初演】 1926年4月25日、スカラ座(イタリア・ミラノ)
【演奏時間】 約2時間15分、3幕5場
【登場人物】 トゥーランドット(中国の王女):ソプラノ、カラフ(タタールの王子):テノール、ティム−ル(タタール王、カラフの父):バス、リュー(若い奴隷の女、ティム−ルの従者):ソプラノ、ピン、ポン、パン(大臣):テノール2人、バリトン1人、皇帝アルトウム(中国皇帝、トゥーランドットの父):テノール、その他


このオペラはプッチーニの最後のオペラ.第3幕ラストのトゥーランドットとカラフが二人になるシーンの二重唱からは、プッチーニが残したスケッチ(メロディーだけを書きとめたメモのようなもの)を弟子が補筆して完成させました.そのため、このオペラを初演した指揮者トスカニーニは、二重唱の前のリューの死の場面が終わると指揮棒を置き、「マエストロはここのところで亡くなりました」と言って演奏を中断し、全曲演奏は翌日に持ち越されました.

 この曲が作られた当時のヨーロッパは『オリエンタル』ブームで、日本や中国の文芸がはやっていました.北斎や広重の浮世絵が印象派の絵画に影響を与えたというのもこうした背景があります.プッチーニが『蝶々夫人』で長崎を舞台にしたのも、この『トゥーランドット』が北京を舞台にしたのも流行に乗っています.中国調の旋律が流れ、オリエンタルな雰囲気が凝らされていて、見所、聴き所です.
 
 このオペラで最も有名なのが第3幕のカラフのアリア「誰も寝てはならぬ」.トゥーランドットの命令を聞いたカラフが、勝利への思いとトゥーランドット姫への愛を熱烈に歌い上げます.トリノオリンピックの開会式でパヴァロッティが歌い、荒川静香が滑った曲です.歌詞(日本語)は以下の通り.

誰も寝てはならぬ! 姫、あなたもまた 冷たい部屋の中で星を眺めておられるだろう 愛と希望に打ち震えながら! しかし私の秘密はただ胸の内にある 誰も私の名前を知らない! いや、そんなことにはならない、 私はあなたの唇に告げよう! 夜明けの光が輝いたときに! そして、私の口づけが沈黙の終わりとなり、 私はあなたを得る! おお夜よ、去れ! 星よ、沈め! 夜明けとともに私は勝つ! 私は勝つ! 私は勝つ!


 
 このオペラの主人公はタイトル・ロールとしてトゥーランドット.存在感は圧倒的なのですが、オペラの中で重要なポイントとなるのがリュー.私は実は彼女こそがこのオペラの実質的な主人公ではないかと思います.カラフを慕い、自らの命を賭けて彼への愛を表現するリューには、第1幕のアリア「王子、お聞きください」、第3幕のアリア「氷のような姫君の心も」の2つのアリアがあり、特に第3幕はこのアリアを歌ってすぐに自害してしまいます.プッチーニの音楽と相まって、泣けます(;。; )

4週連続MET

今週末からMETのラブヴューイングが再開です.

欧米では文字通りの「ライブ」のようですが、日本では松竹がかんでいて、日本語字幕を別途つけているのか、1ヶ月近く遅れています.映画配信の都合かもしれませんが、今週末から1週間ずつ、以下の予定で4作品が連続して上映されます.

ミッドランドシネマで、いずれも10時半からの1日1回のみ.トゥーランドットは休憩2回をはさんで約3時間、ホフマン物語とカルメンは、同じく休憩2回入れて約3時間半、ばらの騎士は長くて4時間半です.

1月16日〜22日 プッチーニ《トゥーランドット》:氷のようなトゥーランドット姫の心を青年カラフの愛の歌声が溶かす
1月23日〜29日 オッフェンバック《ホフマン物語》:幻想の世界で繰り広げられる恋愛劇
1月30日〜2月5日 リヒャルト・シュトラウス《ばらの騎士》:青年との不倫に走る熟女が悟りを開くとき
2月6日〜12日 ビゼー《カルメン》:一途な青年と恋多き女の悲劇

残念ながらほとんどが試験中ですが、もし余裕があればぜひ観に行ってください.カルメンだけは試験明けにもやっています.

いずれも私の好きな作品で、聴き所、見所もたくさんあります.時間の許す限り順番に解説しようと思います.

年始の話題

あけましておめでとうございます.

授業開始にはもう少し時間があると思いますが、お正月はいかがだったでしょうか? 私はいくつかやるべきことがあり、家にこもっておりました.大学は4日からでしたが、今ひとつ実感のないお正月でした.

とは言っても元日の夜は恒例の、ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート!
ウィーンの『地元の音楽』である、ヨハン・シュトラウス親子の作曲したワルツやポルカなどの舞曲を中心としたコンサート.確か第二次大戦中から続いているはずですが、今や一大イベントで、世界中に生中継されています.チケットもかなり高いようですが、それでも好きな人は好きで、日本からも毎年行っている方もいらっしゃいます(客席に毎年同じ顔を見ますから(*^^)v)

ワルツなど普段は聴かないだけに、いつも楽しみにしています.今回は一昨年に続いて、ジョルジュ・プレートルというフランス人の指揮者で、お国もの(フランス人作曲家の曲)も含めて、いつになく楽しい曲が並んだコンサートでした.
たぶん誰もが聴いたことのある曲(歌劇『こうもり』序曲や『美しく青きドナウ』)や、ニューイヤーコンサートの定番ともいえる『狩り』や打楽器奏者のパフォーマンスはいつもながら笑わせてくれます.

また、テレビ中継では必ずバレエが入ります.いわば2元中継ということになるわけですが、毎年違った場所を使っています.今年はウィーンの美術史美術館内で、名画の前で舞踊でした.
昨年のバレンボイムや以前のムーティーのようなハッキリしたメッセージがなかったのは残念ですが、週末にまた再放送があります(たぶん11日の午前中).ぜひ一度ご覧ください.会場を彩る花々を観るだけでもおめでたい気分にしてくれます.(今月中にはCDとDVDが出ます)

もう一つの年始の恒例番組は、NHKがやるオペラコンサート.たいてい3日の夜にNHKホールからの生中継.国内で活躍するオペラ歌手をたくさん集めて、名曲を順に披露していくようなもの.いろんな曲が一度に聴けるし、今どんな歌手が活躍しているのかがわかるので、これも楽しみにしています.
今年は例年より舞台演出がこっていて、ちょっと??.寺田農の進行で、オペラの歴史を概観しながら、というスタイルでしたが、オペラを見慣れていると、そのままの雰囲気で聴けたと思うのですが、これをきっかけに、という場合にはかえって敷居を高くしてしまったかもしれません.

これも再放送があるはずです.お薦めは一番最後に歌った森麻季.世界的に活躍するソプラノ歌手、彼女が得意とするリヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』からヒロイン・ゾフィーです.(このオペラについては、また詳しく説明します)