名フィル定期(第431回):尾高のブル9

12月の記録が全く付けられなかったのですが、これらは改めて書いてみようと思います。今回は、先週末(1月15日金曜日)の名フィル定期についてです。

今回のテーマは《変容の前》、プログラムは
リヒャルト・シュトラウス:23弦楽器のためのメタモルフォーゼン
ブルックナー:交響曲第9番
指揮:尾高忠明
でした。

1曲目のリヒャルト・シュトラウスの「23弦楽器のためのメタモルフォーゼン」は、ヴァイオリン10、ヴィオラ5、チェロ5、コントラバス3と楽器数が指定されており、全員に独奏があるようです。したがって、同じヴァイオリンでも全員の楽譜が異なっていて、それぞれが別々の譜面台の前に座っています。有名な曲ですが、全員の技量とアンサンブル能力を問われる難曲、演奏頻度はそれほど高くありません。ベートーヴェンの《英雄》第2楽章のテーマ、葬送行進曲を引用していて、そのフレーズが少しずつ「メタモルフォーゼ=変容」していきます。全体に陰鬱で、死を感じさせる曲です。第二次大戦末期に作曲され、戦後初演されました。戦争の悲劇とドイツの荒廃を表したのかもしれないし、自らの死の予感もあったのかもしれません。少し明るくなる瞬間もあって救済の予感も感じますが、30分弱の演奏時間の間、演奏者にも聴衆にも高い緊張を強いる曲、終わった後の数秒間の静寂で聴いた方たちは何を考えたのでしょうか。私は指揮者の指の先をじっと見ていました。

2曲目のブルックナー「交響曲第9番」は、作曲者の遺作。第4楽章は断片が残されているのみで、完成した3楽章までで演奏されます。シューベルトの《未完成》と同じような扱い方です。ブルックナーはオーストリア・リンスの生まれで、当地の聖フローリアン教会のオルガニストを務めていたこともあり、曲全体がオルガンの響きのようなところがあります。

この交響曲は、ブルックナーの他の交響曲のように華々しくなるところはほとんどなく、オケが淡々と響いているという感じの曲です。死を予感しながら作曲したのだろうと思いますが、決して暗くなるのではなく、全体として魂の救済を感じさせてくれます。3楽章で約1時間、この曲も一貫して高い集中力を要求します。聴衆の緊張は何度か切れそうになりましたが、演奏がそれを引き戻してくれ、ホール全体が一体になったような感じでした。1曲目と同様に曲が終わった後の静寂も見事でした。

指揮者の尾高はこの数年、毎年名フィルの定期を指揮していますが、毎回緻密に作り上げたすばらしい演奏を聴かせてくれます。今回はその中でも特にすばらしい演奏。ちょうど阪神・淡路大震災から20年、日々の仕事や生活に追われているとつい忘れてしまう大切なことを思い出させてくれた名演でした。