名フィル定期(第453回) 《ハルサイ》

 先週末(1月20日)の名フィル1月定期は「パリ/小泉和裕の『春祭』」と題して
ベルリオーズ:序曲『海賊』
グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調
ストラヴィンスキー:バレエ音楽『春の祭典』
ピアノ独奏:小川典子
指揮:小泉和裕
でした。

 この日のメイン、そしてこの日だけ聴きに来た聴衆のほとんどの方の目的は『春の祭典』、通称『ハルサイ』です。しかし、聴いてみると前半の2曲もなかなかの演奏でした。

 ベルリオーズは『幻想交響曲』が有名ですが、文学作品や自らの体験に触発されてされて作曲することの多かった作曲家のようです。今回演奏された『海賊』は序曲とありますが、歌劇の序曲ということではなく、演奏会用序曲というタイプで、物語の内容を音楽で表現するような構成のはず。はず、というのは、具体的な物語が必ずしもはっきりしていないようです。ただ、管楽器も活躍し、いろんな表情、表現を楽しめる曲です。演奏者にとってもずいぶん楽しい曲なのでしょう、クラリネットとファゴットの主席はともにノリノリで演奏していました。音色の変化がはっきりしていて、全体にかちっとまとまっているいい演奏でした。

 グリーグの協奏曲は非常に有名で、演奏頻度もかなり高い曲です。有名なメロディーもあるので、どこかで耳にしたこともあるでしょう。『ペール・ギュント』も彼の作曲です。きっと、音楽の時間にきいたことがありますね。19世紀のノルウェイの作曲家です。ソリストの小川は名フィルの定期にはたびたび出演していて、私も今回でたぶん3回目(?)、レパートリーの広い方ですが、パワーと表現力を兼ね備えた実力派です。一音一音がしっかりと主張していて、オケと見事に対峙していました。また、第1楽章の後半にあるカデンツァ(独奏だけが即興的に演奏する部分)は圧巻でした。

 YouTubeでは
https://www.youtube.com/watch?v=Ws2EBk4ULiU
などいかがでしょうか。この演奏でソリストを務めているレオン・フライシャー(Leon Freisher)は、この演奏の数年後にジストニアを発症し、右手が不自由になりました。

 残念ながらソリスト・アンコールはなかったのですが、休憩中にサイン会があり、いつものようにサインとツーショットをお願いしました。
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 『春の祭典』はもともとはバレエのための音楽で、1913年にパリで初演されました。一度聴いてみると分かると思いますが、初演は会場が騒然となり、音楽史に残る大スキャンダルとなったとのこと。とんでもない曲です。100人以上の出演者が要求され、普段使われないような特殊な楽器も必要で、何よりもリズムが激しく変拍子があちこちに出てくるため、現代のオーケストラにとっても難曲の1つです。

 メロディーらしいメロディーはなく、不協和音と土俗的なリズムが押し寄せてくるような曲ですが、20世紀最高の名曲の1つだと思います。生を聴くのは今回で4回目(5回目かもしれない)、いつ聴いても緊張と胸躍る気分がない交ぜになります。

 変拍子というのは、通常の3拍子や4拍子を足し算して組み合わせた拍子で、『ハルサイ』ではところによって小節ごとに拍子が変わります。指揮をするのも大変難しいはずですが、今回の小泉は暗譜で振っていました。才能に脱帽です。演奏も実にすばらしく、それぞれの部分で中心となっている楽器の音が見事に浮き出ていて、指揮者の意図をよくくみ取って演奏されていたと思います。いつもはやや不満な弦楽器もよくなっていたし、管楽器のアンサンブルも見事でした。

 このバレエのストーリーは、ロシアの故事などを基につくられているようで、春を迎えた時期の村の対立と和解、そして生け贄を捧げる儀式を描いています。「祭典」と行っても祝祭という意味ではなく、儀式、儀礼をいうような意味のようです。

 YouTubeでは
https://www.youtube.com/watch?v=qXCCxIvwc80
で、音楽とバレエの映像が見られます。試験が終わって気晴らしをしたいときにどうぞ。現代のロシアを代表する指揮者ワレリー・ゲルギエフの指揮するマリンスキー劇場バレエです。初めの2分くらいは紹介映像ですから飛ばして下さい。

名フィル しらかわコンサート 「シェレンベルガーのモーツァルト」

 名フィルは年間120回ほどのコンサートがあるそうですが、名フィルが主催しているコンサートは定期演奏会など限られています。その中で、名古屋・伏見のしらかわホールでも《しらかわシリーズ》と題するコンサートが年に数回あります。舞台も小さく、客席もそれほど多くないため、小規模の編成の曲を集めたプログラムが中心です。

 1月12日には、現代を代表するオーボエ奏者であるハンスイェルク・シェレンベルガーを招いてオール・モーツァルトプログラムのコンサートがありました。今回はオーボエ協奏曲や滅多に演奏されない隠れた名曲が取り上げられました。

モーツァルト:交響曲第33番 変ロ長調
モーツァルト:オーボエ協奏曲 ハ長調
モーツァルト:セレナード第10番 変ロ長調『グラン・パルティータ』
指揮・オーボエ独奏:ハンスイェルク・シェレンベルガー

 オーボエという楽器は2枚リードの木管楽器です。中学校や高等学校の吹奏楽部で必ずあるわけではないですから、ご存じない方も多いでしょう。Wikipediaではこんな風に紹介しています(https://ja.wikipedia.org/wiki/オーボエ)。オーケストラでは木管楽器の前列で、客席から見て右側にいることが多く、フルートと並んで高音の連立を受け持つことの多い楽器です。独特の音色ですが、奏者による音色の差もかなりあり、今回聴いたシェレンベルガーの音色も

 今回演奏されたのは、モーツァルトが20代の前半だった頃に作曲した曲です。幼い頃に神童といわれたモーツァルトも、この頃にはただの人といわれたとか。

 それはさておき、聴き応えのあるいい曲ばかりです。
モーツァルトは41曲の交響曲を作曲していますが、10代に作曲した若い番号の曲をのぞくと、今回演奏された第33番は演奏頻度の低い曲です。普段もあまり聴く機会がなく、今回予習をかねて何度か聴いてみました。編成も小さいため、派手さやそれほど印象的なメロディーもありませんが、かなり密度の濃い。

 協奏曲はオーケストラをバックに1つの楽器が独奏をするスタイルです。今回はシェレンベルガーがオーケストラの指揮とオーボエ独奏を兼ねての演奏でした。オケの前奏に続いて響いたオーボエの音には鳥肌が立ちました。甘く、艶やかでありながら、芯のある音で、言葉で語りかけてくるような演奏でした。小さな音でも、目の前で鳴っているかのようなしっかりした音です。

 独奏パートはオーボエの特性を十分に発揮できるようなメロディーですが、オケと対話しているようで、オペラのアリアを聴いているような感じです。3楽章構成ですが、緩徐楽章である第2楽章でのオーボエ独奏には聴き惚れます。

 覚えている方がいらっしゃるでしょうか?少し前に「のだめカンタービレ」というドラマ&アニメがありました。その中でも黒木君が「ライジングスターオーケストラ」のコンサートでソロを吹いた曲です。

 客席もほぼ満席でしたが、いつも聴きに行く定期演奏家に比べるとやや雰囲気が違い、やや玄人気味の様な気がしました。木管楽器に特に興味がないとシェレンベルガーの名前もご存じないでしょう。コンサートの後半のセレナードは特に玄人好みといえるでしょうか。

 後半に演奏された「セレナード」は貴族などの食事の場などでBGMとして演奏されていたようなスタイルの音楽です。「機会音楽」ともいい、耳触りもよく、どんな人にも聴きやすい音楽で、モーツァルトも何曲かつくっています。今回演奏された第10番は7楽章構成で、内容的には非常に充実していた、何度聴いても飽きないすばらしい曲です。

 ただ、オーボエ2、クラリネット2、バセットホルン2、ファゴット2,ホルン4、コントラバス1という、珍しい楽器編成です。特殊な編成だけにオーケストラのコンサートで取り上げられることはきわめてまれ。。それだけに、是非一度生演奏を聴いてみたいと思っていた曲です。 当時はこのような管楽器を中心としたアンサンブルが流行していたそうです。バセットホルンはクラリネットとよく似た楽器で、少し低い音域でより幅広い音色を持った楽器です。19世紀以降ほとんど用いられることはなくなりました。金管楽器のホルンとは全く関係がありません。この曲では、コントラバスの代わりにコントラファゴットが用いられることもあり、『13管楽器のためのセレナード』と呼ばれることもあります。

 プロのプレーヤーにとっても気持ちは同じでしょう。今回はステージ脇の2階席ということもあり、奏者や指揮者の表情も見て取れました。演奏の水準の高さももちろんですが、音に華やぎがあり、全ての演奏者が楽しそうに演奏していることがよく分かりました。もちろん、聴いている方にも至福の時間です。

 今後もこのような演奏会に出会えることを願います。