名フィル定期『第464回』 アンデルセン「人魚姫」とマザーグース

 年明けの名フィル定期は1月18日と19日に愛知県芸術劇場コンサートホールで行われました。テーマは
アンデルセン「人魚姫」でしたが、マザーグースに材をとった曲も演奏されました。プログラムは
ラヴェル:バレエ『マ・メール・ロワ』(全曲)
酒井健治:ヴァイオリン協奏曲『G線上で』
ツェムリンスキー:交響詩『人魚姫』
ヴァイオリン独奏:成田達輝
指揮:ジョン・アクセルロッド
でした。

 2曲目に演奏されたヴァイオリン曲は、当初同じ作曲家のピアノ協奏曲の世界初演が予定されていましたが、作曲者の長期的なプロジェクトの都合ですでに作曲されているヴァイオリン曲に変更されました。作曲者・酒井は名フィルのコンポーザー・イン・レジデンス(日本語に訳すとお抱え作曲家、現代の用語だと嘱託作曲家?)。おそらく1年に1曲ずつ名フィルのために作曲するという契約をしているようです。

 いわゆる「現代音楽」です。映画の効果音のような、というとわかりやすいかもしれませんが、古典的な意味で音楽的ではありません。昨年も酒井の曲を聴きましたが、メロディーらしいものが聞こえて来ず、打楽器を中心にいろんな楽器の響きが錯綜しているだけのように感じるところも多々ありました。演奏終了後には右に倣えで拍手をしたのですが、正直言って自身の行いに大いに疑問があります。

 1曲目に演奏された『マ・メール・ロワ』は、英語で言えば”Mather goose”です。作者のシャルル・ペローはフランス人ですので、ラヴェルの曲名がほんらいのだいめいなのでしょう。元々はラヴェルが友人家族にプレゼントするためのピアノ曲として作曲されたようですが、その後、オーケストレーションの達人であるラヴェルが管弦楽組曲として、さらにバレエ用に手を加えて出来上がったそうです。弦楽器と木管楽器、打楽器、ハープにチェレスタによるアットホームな感じのする音楽が並びます。マザーグースの話はよく知らないのですが、編まれた曲の題名を列挙すると、
    第1曲:前奏曲
    第2曲:紡ぎ車の踊りと情景〜間奏曲
    第3曲:眠りの森の美女のパヴァーヌ〜間奏曲
    第4曲:美女と野獣の対話〜間奏曲
    第5曲:親指小僧〜間奏曲
    第6曲:パゴダの女王レドロネット〜間奏曲
    第7曲:妖精の園

 ラヴェルと言えば『ボレロ』が有名で、この曲もバレエ音楽です。ボレロと比べると、ややつかみどころがなく、なんとなく流れていくような曲調です。BGMで流していても決して邪魔になることのない音楽という感じでしょうか。それだけに演奏も難しいと思いますが、この日の名フィルの演奏は、聴くものを決して飽きさせることなく、童話の世界の想像に最後までどっぷりと浸からせてくれました。

 休憩後に演奏されたメイン、『人魚姫』の話は皆さんもご存知でしょうか。ディズニーの『リトル・マーメイド』もアンデルセンのストーリーに材をとっているようですが、エンディングなどやや異なっているようです。原作はなんとも切ないお話です。

 作曲者のツェムリンスキーは1871年生まれ、20世紀の前半にウィーンを中心に活躍した作曲家です。一般にはほとんど無名だと思いますが、その後の作曲家に大きな影響を与えています。今回演奏された『人魚姫』は長らく楽譜が行方不明だったようですが、1980年に発見されて以降は世界中で演奏されているそうです。

 必ずしも童話のストーリーに沿って音楽が進行するわけではありませんが、人魚姫を表すヴァイオリンのテーマなど、よく聴いていると情景が浮かんできます。40分余の間、柔らかな音楽に満たされた時間を過ごすことができます。鼠非手、最後に人魚姫は死んでしまうのですが、必ずしも悲劇的な死ではありません。音楽も魂が浄化されるような幸福感に満ちて終わります。

 名フィルの演奏はやはりメインの『人魚姫』が最も充実していて、聴きごたえがありました。弦楽器と管楽器のバランスも良く、演奏者も楽しそうでした。自分が座っている席からは指揮者の表情も見えますが、時折見せる笑顔が印象的でした。

 次回は2月22、23日。レムの『ソラリス』をテーマに、メインはチャイコフスキーの交響曲第5番です。