名フィル定期(第360回)

ちょっと間が空きましたが、先週の土曜日に名フィルの定期演奏会がありました.

今年はドイツの作曲家・メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn Bartholdy; 1809-1847)の生誕200年にあたり、世界中でいろんな企画が催されています.今回のプログラムもこのメモリアルイヤーにちなんだ「オール・メンデルスゾーン・プログラム」で、

序曲「ヘブリーデン(フィンガルの洞窟)」
交響曲第4番イ長調『イタリア』
劇音楽『真夏の夜の夢』全曲
指揮:鈴木雅明、『真夏の夜の夢』の語り:毬谷友子

でした.
いずれも有名な曲ばかりで、題名はともかく、多分どなたも聞いたことのあるフレーズがあると思います.特に、『真夏の夜の夢』のなかの『結婚行進曲』はあまりにも有名で、知らない人はいないでしょう.(^^)

メンデルスゾーンの作った曲は、同時代の作曲家であるシューマンやショパン(いずれも来年が生誕200年)と比べると、やや地味というか、非常に形式を重視していて、やや古めかしいところがあります.音楽史的にはロマン派といわれる、形式より感情や思想をいかに音楽で表現するかを重視する世代に入るのですが、やや物足りなさが残り、十分に評価されていないという見方もあるようです.また、彼がユダヤ人であったためにナチスドイツ下で不当に排除されていたことも、その後の評価に影響したのかも知れません.(>_<)

その一方で、現在のようなオーケストラのコンサートのスタイル、過去の優れた作曲家の作品と積極的に取り上げ、なおかつそれなりにストーリー性のある曲目でのプログラム編成のコンサートを確立したのが、当時ドイツのライプティッヒにあるゲバントハウス管弦楽団(現代に続く有名なオケです)の指揮者であったメンデルスゾーンです.例えば、今回のコンサートプログラムのような.
それまで作曲者が自身の曲を発表するために指揮をするというのがあたりまえでした.モーツァルトもベートーベンもそうやって自身の曲を発表してきたのですが、当時完全に忘れられていたバッハの曲を蘇演し、過去の名曲を掘り起こしていったのです.こうしたオーケストラ史における功績は特筆すべきものがあります.
さすがのナチスもこういう業績を否定することはできなかったようで、変わりなく続いています.

さて、曲目ですが、最初の序曲は、日本では『フィンガルの洞窟』という名称の方が有名です.スコットランドの沖にある離島(ヘブリディーズ諸島)とそこで神話の題材になっている洞窟(フィンガル)の情景を描いています.メンデルスゾーンは、当時の有名な作曲家にしては珍しく裕福な家庭に育ち、小さい頃からヨーロッパ各地を旅行していました.スコットランドにも行ったことがあり、その時の印象をもとに作られた曲です.もう一つ有名な交響曲第3番『スコットランド』があります.
短調の曲ですが、聴いていると本当に北の荒波の中にある孤島を連想させてくれ、やはりロマン派の作曲家なんだなと改めて感じ入ってしまいます.実は、弱冠20歳でこの曲を作っています.モーツァルト同様、早熟と言われるゆえんです.
オーソドックスな2管編成(管楽器が2本ずつ)の曲ですが、弦楽器をやや小振りの編成にして非常にまとまりのあるいい演奏でした.最後に合唱があるということで、舞台の前寄りにやや詰めて並んでいたのも効果的だったような気がします.

今回の指揮者の鈴木雅明は、4月にハイドンの『四季』を振った鈴木秀美のお兄さん、兄弟そろって日本を代表する古楽(現代の楽器ではなく、18〜19世紀初頭に実際に使われた楽器を用いて、当時の音楽、例えばバッハやモーツァルトを演奏する)の演奏家であり、指導者です.鈴木秀美はもともとチェリストで、今回の鈴木雅明はオルガニスト.バッハのエキスパートということもあり、バッハとは切っても切り離せない関係にあるメンデルスゾーンのメモリアル・プログラムを任されたということでしょう.
4月のようにピリオド奏法というわけではなかったですが、やはりビブラートをやや抑え目にして響きを重視するような音作りだったように思います.特に弦楽器の開放弦の音(左手の指で弦を押さえずに弾いたときの音)は、やや古楽器のような響きで、ちょっと驚きました.

2曲目の『イタリア』も、メンデルスゾーンがイタリアに旅行したときの印象をもとにしているといわれています.実際にはだいぶ時間が経ってから完成したようですが、1楽章などはイ長調ですから非常に明るく、またやや飛び跳ねるようなリズムのメロディーと相まって、非常に印象的です.ただ全体の構成はやや古典的.悪くいえば単純につくってあり、その分分かりやすく、取っつきやすいとも言えます.BGMとしても軽く聴ける曲です.
前曲と全く同じ編成、したがって同じメンバーによる演奏でした.けっこう珍しいことなんですが、やはりよくまとまっていて、安心して聴ける演奏でした.やはりプレーヤーの間隔が詰まっていたからでしょうか、いつもより密度の高い音が鳴っていたような気がします.特に弦楽器は、一人一人の出している音が本当に束になって向かってくるような感じでした.きっと当時はそんな大きなホールもなかっただろうし、オケの規模も今よりも小さかったでしょうから、あんな音がしていたのかもしれません.

さて、メインは『真夏の夜の夢』.これを生で聴ける機会があろうとは思ってもみなかったのですが、昨年の『エグモント』(ベートーベン作曲、第353回定期)同様、メモリアルイヤーとは言え、非常に意欲的なプログラムです.劇音楽とか劇付随音楽とかいいますが、本来は演劇、戯曲の上演の中に入れられるべき曲を、音楽を中心にして編成し直したもの.戯曲のあらすじを『語り』という形で入れます.
原作は言わずと知れたシェークスピア.もちろん原作の上演を視たことがあるわけではないし、スローリーもややこしいので省きますが、夏の夜(原題のmidsummerは、真夏ではなく夏至の意)のいわばおとぎ話.音楽もそれに合わせて、幻想的というか、いろいろ想像力をかき立ててくれます.
ソプラノとアルトの独唱と女声合唱が入るのですが、この曲というか演奏の主役は語り.毬谷友子は、名前は聞いたような記憶があったのですが、元タカラヅカで、今は舞台を中心に活躍している俳優.この曲の語りは声色を変えて一人4役か5役くらいやらないといけないのですが、オケとの掛け合いも含めて見事でした.
また、結婚行進曲もしっかりと聴いてみるとなかなか形式に則ったつくりでいい曲です.
この『夏の夜の夢』は、序曲だけがメンデルスゾーン17歳の時の作品.これまた天賦の才に頭が下がりますが、今度の日曜日・NHKの
『名曲探偵アマデウス』(http://www.nhk.or.jp/amadeus/schedule/index.html)で取り上げられますので、ぜひご覧ください.(^.^)

去年、今年と、オケの演奏会としては珍しい語り付きの劇音楽がプログラムに取り上げられてきました.常任指揮者・ティエリー・フィッシャーの意欲を感じますが、来年あたりいよいよオペラの演奏会形式(舞台をつくらず、歌手も演じることなく、コンサートホールでオケと一緒に演奏する)での上演にも取り組んでくれるのでは?と期待しています.

ちなみに、上で紹介したライプチッヒ・ゲバントハウス管弦楽団は今秋来日します.指揮は現在の常任指揮者・リッカルド・シャイー、現代を代表する超一流です.プログラムはもちろんメンデルスゾーン.今から楽しみです.