田園

定期演奏会の直後ですが、先週木曜日に《コバケン・スペシャル》と題する名フィルのコンサートがありました.「定期演奏会」に対する「特別演奏会」という位置づけで、毎月なにがしかの企画があります.

さて、「コバケン」は名フィル桂冠指揮者の小林研一郎氏の愛称.「炎のコバケン」などとも称されますが、非常に熱のこもった指揮振り、演奏で現在の日本を代表する指揮者.もう70を過ぎていますが、数年前まで名フィルの音楽監督を務め、その後「桂冠指揮者」の称号で年に数回のコンサートを指揮しています.今回のプログラムは
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲(独奏:有希・マヌエラ・ヤンケ)
ベートーヴェン:交響曲第6番《田園》
という、超メジャーな選曲.昨年の秋にもピアノ協奏曲《皇帝》と交響曲第5番《運命》という組み合わせのコンサートがありました.

前半の協奏曲、生はたぶん初めてだと思うのですが、ソリストの音色にうっとりとしてしまいました.日系2世のドイツ人、たぶん30代前半だと思うのですが、今夏から名門ドレスデン国立歌劇場管弦楽団のコンサートマスター就任とのこと.さすがとうならせる演奏でした.
使っている楽器は名器「ストラディヴァリウス」.何ともいえない艶のある音色で、ビロードに包まれたような気分でした.ベートーヴェンの音楽は決して優雅なものではなく、時に激しく、悲しいのですが、いつまでも聴いていたいと思わせるすばらしい演奏でした.

生演奏ではソロ楽器の音がオケの音に埋まってしまって聴き取りにくいことがあるのですが、やはり楽器がよく響いているからなのでしょう、そんな心配もなく、CDの音をスピーカーで聴いているかのように、オケと対等に渡り合って響いてきました.

後半の《田園》、ベートーヴェンが書いた9曲の交響曲の中で唯一自分で標題をつけた曲.原題は”Pastral”、ヨーロッパ平原に広がる牧草地、あるいは森のような風景を思い浮かべるのが本当でしょうが、5つの楽章にそれぞれつけられたタイトルは
第1楽章:田舎について時の楽しい感覚のめざめ
第2楽章:小川のほとりの情景
第3楽章:田舎の人々の楽しい集い
第4楽章:雷雨、嵐
第5楽章:牧歌、嵐のあとの喜ばしい感謝の気持ち
です.第4楽章は第3楽章と第5楽章の間奏曲のような位置づけで、大きく4つの部分と考えることができます.
たしか昔は中学校の音楽の鑑賞曲にもなっていたように思うので、聴いたことのある方も多いでしょう. 

さて、演奏.これまで生で聴く機会はほとんどなかったのですが、CDではほとんど宙で歌えるくらい聴き込んでいますが、これほどジーンとくる曲とは思っていませんでした.涙が出そうになるところが何カ所もあるくらい、響いてきました.

実は《コバケン・スペシャル》という企画も24回目ですが、今回でいったんファイナルにするということで、指揮者もオケも思い入れ十分、それが音にのっていたのでしょうか.また、第2楽章や第4楽章は、そのタイトルの通りの情景を音楽で表していることになっているのですが、なかなかその通りにイメージできることはありませんでした.それが今回の演奏で、小川のせせらぎや嵐の情景をしっかりと頭に描くこともできました.なるほど、ベートーヴェンはこういう風に表現したかったのかもなと、初めて腑に落ちた気がします.

名フィル定期(第393回)

サーバーを変えたとたんにいろんなトラブルが吹き出して、やや時間がたってしまいましたが、今月初めにあった名フィル定期の感想を簡単にまとめます.

今月は「アーサー王の城」と題して、来年度から常任指揮者に就任するマーティン・ブラビンスがお国ものであるイギリスの作曲家の曲を2曲に、メインが得意のラフマニノフの交響曲というプログラム.

バックス:交響詩《ティンタジェル》
ウォルトン:ヴァイオリン協奏曲
ラフマニノフ:交響曲第3番

いずれも20世紀の作曲家によるもの.どれもコンサートで聴くのは初めて、特に前半2曲は同じ作曲家の別の曲は知っていても、これらはCDも持っていませんでした.

協奏曲は、今年4月に名フィルのコンサートマスターに就任したばかりの田野倉雅秋のソロでした.弾いているときの動きは小さいのですが、野太い音でしっかりと響いていました.オケのコンマスをやっていた日比さんは、どちらかというと細くて繊細な音の持ち主ですので、今後対比が楽しみです.

ただ、今回のウォルトンの協奏曲は決してメロディカルな曲ではないので、やはり入っていくのが大変です.「メロディカルではない」というのは、口ずさめるメロディではないということ.したがって、何度CDを聴いても、そのあとで頭の中でも流れてくれないし、???です.この曲は非常に技巧的にできているだけに、とても歌えません.
ただ、こういう曲も生で聴くと、なぜか引き込まれていき、いつの間にか音楽の世界の中に入っている自分を感じることがあります.

指揮者のブラビンスはイギリス生まれで、現在もイギリスを中心に活躍しているようですが、指揮者としての勉強はロシアで始めたようで、そういう意味ではラフマニノフはお国ものといってもよく、得意にしているようです.

ラフマニノフはピアノ協奏曲第2番やボッカリースに人気がありますが、交響曲では第2番が最も有名です.印象に残るメロディが多いせいでしょうか.そう、前半2曲と対照的に、同じ20世紀の作曲家ですが、19世紀ロマン派の影響を強く受けているラフマニノフの音楽はとにかく抒情的で、どっぷりと哀愁に浸ることができます.

今回の演奏は、かちっとまとまっているというか、指揮者の指示のもとにオケがしっかりとまとまって作り上げたという印象の公演でした.クレバーなという表現が合うかどうかわかりませんが、変に情に流されることのないつくりでした.ラフマニノフの音楽は「とにかく抒情的」と書きましたが、そういう意味ではやや期待はずれだった聴衆もいたかもしれません.

さて、8月は定期演奏会も夏休み.次回は9月でモーツァルトのピアノ協奏曲第26番《戴冠式》とブラームスの交響曲第1番という、近年にないオーソドックスなプログラムです.