市民会館シリーズ:R.シュトラウス&モーツァルト

土曜日(7/18)は
名フィルの市民会館シリーズ〈マーティン・ブラビッシモ!Ⅱ〉で、プログラムは
R.シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』
モーツァルト:クラリネット協奏曲
モーツァルト:セレナード第13番ト長調『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』
R.シュトラウスと:楽劇『ばらの騎士』(演奏会用組曲)
クラリネット独奏:橋本杏奈
指揮:マーティン・ブラビンス

残念ながらソリスト・アンコールはありませんでしたが、最後に
ヨハン・シュトラウス:トリッチ・トラッチ・ポルカ
が演奏され、ウィーンの空気を感じる楽しいコンサートでした。

リヒャルト・シュトラウス(R.シュトラウス、1864ー1949)はミュンヘン生まれ、音楽史的には後期ロマン派に分類されるドイツの作曲家。ウィーン生まれでワルツ王と呼ばれるヨハン・シュトラウスとは全く血縁関係はありません。R.シュトラウスはモーツァルトを非常に敬愛していたようで、プログラムの最後に演奏された『ばらの騎士』はモーツァルトの有名な歌劇『フィガロの結婚』と設定が非常によく似ており、オマージュとして作曲したといわれています。また、第1曲目のタイトルになっている「ドン・ファン」とはヨーロッパに古くからある伝説の登場人物。理想の女性を追い求めてさまようというストーリーです。モーツァルトも同様の話を基にして歌劇『ドン・ジョヴァンニ』を作っています。したがって、今回のプログラムのテーマは結局は『モーツァルト』ということになるのでしょうか。

R.シュトラウスの音楽の特徴は大編成のオーケストラによって音色と音量の幅、そしてハーモニーによって感情と情景を表現するところにあると思います。音色や音量の幅が大きく、音楽の造りも複雑です。指揮者の腕の見せ所でもあり、オケの能力も試されます。一度生で聴くと分かるのですが、いかにも『オーケストラを聴いている』と実感できる音楽です。名フィルの定期では毎年1曲は取り上げられていますので、是非生で聴いてみて下さい。

さて、今回の注目は第2曲目のクラリネット協奏曲。吹奏楽でクラリネットをやっていたかのもいらっしゃるのではないでしょうか。クラリネットを独奏楽器とするオーケストラ曲の中で最も有名なものです。メロディーも耳に入りやすく、誰が聴いても楽しめる名曲中の名曲です。今回のソリスト・橋本は2年前の定期演奏会でも共演(感想はここ)。そのときななじみのない曲でピンとこないところもあったのですが、今回はどこを聴いてもすぐにそれと分かる曲。期待に違わぬすばらしい演奏でした。この曲は「クラリネット協奏曲」と題されていますが、元々は「バセット・ホルン」というクラリネットの原型になったような楽器のために作曲されたもの。その後、バセット・ホルンがほとんど演奏されなくなり、現在のクラリネット用に手を加えられたようです。しかし、最近ではバセット・ホルンを用いて演奏できるように再度手を加えた楽譜もあるようで、今回、橋本はバセットホルンを用いて演奏しました。

バセット・ホルンはCDなどでは聴いたことがあるのですが、生は初めて。クラリネットよりも長いため、より低い音が出ます。音色はクラリネットほど明るくないのですが、柔らかくて深みがあります。高音、中音、低音で全く音色が異なり、橋本の演奏はこの音色の違いをうまく使って、表現に幅がありました。弱音でも音の勢いがあり、若々しく華やかなモーツァルトでした。

最後に演奏された組曲は、「ばらの騎士」というオペラの曲を抜粋して、作曲者自身が演奏会用に編集し直したもの。原曲は3幕もので実演奏時間3時間近い大曲。18世紀中葉のウィーンの貴族たちの館を舞台にした悲喜こもごもの物語。私が最も好きなオペラです。今回演奏された組曲は3年前に定期演奏会でも取り上げられました。抜粋版ですが、舞台の情景を彷彿とさせる構成。演奏も管楽器、特にホルンがしっかりと鳴り、どこを聴いてもわくわくさせてくれるものでした。

モーツァルトの歌劇『フィガロの結婚』(
ここここ)とR.シュトラウスの楽劇『ばらの騎士』(ここ)はともにMETライブビューイングでも上映されており、感想を書きましたので、興味のある方は是非。

名フィル市民会館シリーズ:ソリスト

今回のソリストについて一言。
ニキータ・ボリソグレブスキーは1985年・ロシア生まれ。ヴァイオリニストとしては、もう若いという年でもありませんが、2007年のチャイコフスキー・コンクールで第2位を獲得しています。今回のソリスト・アンコールは
イザイ作曲無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番から第4楽章
でした。イザイは自身がすぐれたヴァイオリニストで、ヴァイオリンのための曲を多く作曲し、必須のレパートリーのようです。

さて、2007年のチャイコフスキー・コンクールのヴァイオリン部門で第1位だったのが日本人の神尾真由子。実は、彼女がチャイコフスキー・コンクールに出るおよそ1年前に名フィルと共演しています。今回のプログラムと同じくシベリウスのヴァイオリン協奏曲(とシベリウスの交響曲第2番)。音楽に真摯に向かい合い、集中力を切らさずに最後まで演奏した姿を今でも覚えています。実にすばらしい演奏でした。名フィルの交響曲第2番のほうもこれまでに聴いた名フィルの演奏の中ではベスト10には入る名演でした。

また、2007年のチャイコフスキー・コンクールのヴァイオリン部門で第3位だった有希・マヌエラ・ヤンケも2012年7月に聴いています。これも名フィルの特別演奏会で、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲でした(ここ)。

名フィル市民会館シリーズ:シベリウス生誕150年記念

オーケストラの活動の中心はホームグラウンドとするコンサートホールでの定期演奏会ですが、日本国内のオーケストラはこれ以外にも地域にあるホールで定期的にコンサート行っているところが多いようです。名フィルは、定期演奏会は名古屋・栄の愛知県芸術劇場コンサートホールですが、金山の名古屋市民会館大ホールでも年に4~5回、「市民会館名曲シリーズ」、文字通りの名曲コンサートを行っています。

今年は、常任指揮者の名前をもじって〈マーティン・ブラビッシモ;Martyn Bravissimo!〉と題した4回シリーズです。第1回目は昨日(7/15)、「シベリウス生誕150年記念」。
プログラムはいずれもシベリウス作曲で交響詩『フィンランディア』
ヴァイオリン協奏曲ニ短調
交響曲第2番ニ長調
ヴァイオリン独奏:ニキータ・ボリソグレブスキー
指揮:マーティン・ブラビンス

シベリウスはフィンランドを始めとする北欧を代表する作曲家。第1曲目の『フィンランディア』は学校の鑑賞曲にもなっていて聴いたことのある方も多いでしょう。また、後半部分は歌詞が付けられて、合唱曲としても親しまれています。(シベリウスの顔写真は日本シベリウス協会のHPをご覧ください

『フィンランディア』は帝政ロシアに抑圧されていたフィンランドの独立運動の一環として作曲されたもの。現在でもフィンランドの第二の国歌として歌い継がれている曲です。日本語の合唱曲では「雲わくしじまの森と、静かに輝く水、野の花やさしく香る平和の郷」という歌詞のようですが、フィンランド語では「立ち上がれスオミ(フィンランドのこと)よ、おまえは世界に示した。他民族による支配をはねのけたこと、圧政に屈しなかったことを」という意味の歌詞が付いているそうです。

ところで、今回の演奏は名古屋の菊里高校と明和高校のいずれも音楽科の生徒たちがメンバーとして加わっています。オケにとっては地域の教育への貢献、音高の生徒たちにはいい経験になったのではないでしょうか。彼ら、彼女らの誰かは数年後には名フィルのメンバーに加わったり、あるいはソリストとして共演したりしているかもしれません。楽しみです。


2曲目のヴァイオリン協奏曲は、古今のヴァイオリン協奏曲の中でも名曲中の名曲、難曲中の難曲です。3楽章構成で約40分の曲ですが、ソロ・ヴァイオリンは技巧的にも多くを要求されていることが素人の耳でもよく分かります。室内楽曲のようにオケの各パートの音もよく聞こえてくるように作曲されており、ソロ・ヴァイオリンはオケと対等に渡り合いながら自分を表現しなければなりません。今回の演奏は、ソロ・ヴァイロインとオケが互いによく聴き合って、共に一つの音楽を作りだしていこうとする気持ちがよく伝わってきました。CDで聴いているだけではわからない、息づかいを感じました。

コンサートの締めくくりはやはり交響曲。シベリウスは7つの交響曲を作曲していますが、この2番が最も有名です。やはり、聴き応えがあるからでしょう。そして、北欧らしさ、森と湖の音を感じるからかもしれません。4楽章構成で約45分。第1楽章はまさに「森と湖」、目をつむって聴いていると、シベリウスの耳になった気分です。第3,第4楽章では音楽が大きく展開しながら、大地を感じさせるおおらかなメロディー。ときにブリザードのような響きを感じます。一緒に行った知り合いは、ここで「オーロラを見た」とのこと。名フィルの演奏でこんなに自然の響きを感じたことはありませんでした。そして、すべてのパートの音量にバランスがとれていて、CDではなかなか聞こえてこなかった音までもがすっきりと耳に入ってきました。そして、どの音も無機的ではなく、『オーケストラ』という楽器が奏でているような演奏。
まさにBravissimo(イタリア語で〈とてもすばらしい〉の意)!

〈マーティン・ブラビッシモ;Martyn Bravissimo!〉シリーズの第2回目は明日(7/18)。モーツァルトとリヒャルト・シュトラウスです。