名フィル定期 第447回 ホルンの妙技

 今回は「6月定期」ですが、ややずれて7月1日でした。プログラムは
モーツァルト:交響曲第40番ト短調
リヒャルト・シュトラウス:ホルン協奏曲第1番ホ長調
リヒャルト・シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』
リヒャルト・シュトラウス:交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』
ホルン独奏:シュテファン・ドール
指揮:小泉和裕
でした。

 なんと言っても2曲目、ベルリン・フィル首席ホルン奏者の実力を堪能しました。伸びやかな音色、完璧なテクニック、豊かな表現力、そして、演奏前後の謙虚な態度。前回のコンサート・マスターといい、どれをとっても超一流とはこうしたものかと、感嘆しました。今回の来日に関する情報はここにあります。

 作曲者のリヒャルト・シュトラウスは、同じシュトラウス姓ですが、ワルツ王として名高いヨハン・シュトラウスと血縁関係はありません。リヒャルト・シュトラウスはミュンヘン生まれ。すぐ南にはアルプス山脈がそびえています。きっと、本人にとってはなじみの風景なのでしょう。この曲の冒頭のホルンのファンファーレはまさにアルペンホルンそのものです。

 父親は当時の世界的なホルン奏者。毎日の練習の様子などから、ホルンという楽器についてよく知っていたのでしょう、その特性を余すところなく汲み尽くしています。作曲当時、楽譜を見た父親は演奏不可能と言ったそうですが、「お父さんが毎日の練習でやっている通りではないか」と言ったとか。確かに、金管楽器奏者が練習でよくやっているようなフレーズがたくさん含まれています。そうは言っても、それまでのホルンの曲にはないようなパッセージが多々あるようで、難曲であることには違いありません。

 吹奏楽をやっていた人は分かると思いますが、ホルン奏者はよく音を外します。名フィルの演奏でもよく外しているのを聴きます。難曲であればなおさらですが、私の耳では外したところなど一ヶ所もなかったように聴こえました。あれだけ速い動きの中で、実にすばらしいテクニックです。

 2014年1月の第409回定期演奏会では、元ベルリン・フィル首席ホルン奏者のラデク・ベボラークをソリストに迎えて同じリヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲第2番が取り上げられました。たまたま同じ作曲家の曲ですが、いずれも妙技を堪能できました。

 今回のテーマは『ベルリンのホルン』、もちろんベルリン・フィルの首席奏者を招いたがゆえのテーマですが、後半の交響詩でもホルンは大活躍します。特に、最後の『ティル』は、冒頭でのホルンのファンファーレは有名です。

 ところで、今回のプログラムはモーツァルトとシュトラウス。などこのような組み合わせなのかを少し穿ってみます。

 シュトラウスはモーツァルトを大変尊敬していた、あるいは大のモーツァルトファンでした。前回紹介した《ばらの騎士》というオペラはモーツァルトの《フィガロの結婚》というオペラのパロディのようなところがあり、「古き良き時代」への憧れだけではなく、モーツァルトに対するオマージュも含まれています。こうしたところから、2人の作品を並べてプログラムを組んだのだと思いますが、この2人にはいくつかの共通点があります。

 モーツァルトの時代からシュトラウスの時代まで、作曲家はオーケストラのための曲とオペラの両方を作曲しようとしていました。しかし、両方で多くの名曲を残せた作曲家はモーツァルトとシュトラウスだけです。そして、彼らの残したオーケストラ曲の名曲の中の名曲が今回のプログラムで取り上げられた
交響曲第40番(三大交響曲といわれる39,40,41番が最も有名ですが、その中の1曲です)と2つの交響詩、特に最後の『ティル』です。

 そして、モーツァルトは短命(36歳を目前にしてなくなっています)でしたが、交響曲第40番は32歳の時の作品、シュトラウスは85歳の長命(1948年になくなっています)を保ちましたが、『ティル』を作曲したのは31歳。もちろん、2人ともそれまでに多くの曲を書き、評価されていました。


 交響曲というのはきちんとした形式を決めて、論理的に形作っていくタイプの音楽です。映画の影響で、やや天真爛漫でとらえどころがないかのような印象を持たれているモーツァルトですが、39,40,41の三大交響曲は完成度が高く、形式を重んじる「古典派」を極めていると言っていいでしょう。個人的には41番の終楽章が大好きですが、シュトラウスも「最も偉大なもの。天国にいる思いがする」と語ったそうです。

 これに対して交響詩は音楽によって物語や情景、出来事を描いていく音楽です。『ティル』は、古来ドイツで語り継がれてきた民話です。シュトラウスは「スプーン1本でも音楽で表現できる」と言ったとか言わなかったとか。

 同じオーケストラ曲でも曲の性格、内容は全く正反対です。間にホルンの妙技をはさんで、音楽の懐の深さを感じさせてくれるコンサートでした。

 次回、7月の21,22日はメキシコ出身の女性指揮者(まだまだ珍しいので、あえて強調します)がお国ものを指揮します。また、モーツァルトも再び取り上げられ、あらゆる管楽器の協奏曲の中で最も有名でしょう、クラリネット協奏曲が演奏されます。ソリストはイタリア最高峰のオーケストラ、聖チェチーリア管弦楽団の首席クラリネット奏者です。