名フィル定期(第459回)《悪の華》と《夏の夜の夢》

 7月の名フィル定期は7月13,14日に金山の市民会館大ホールで、
ボードレール《悪の華》
をテーマとして、
デュティユー:チェロ協奏曲『遙かなる遠い国へ』
メンデルスゾーン」劇音楽《夏の夜の夢》(抜粋)
チェロ独奏:ニコラ・アルトシュテット
指揮:ティエリ−・フィッシャー(名フィル名誉客演指揮者)
で行われました。

 プログラムに記載されたテーマは《悪の華》だけですが、後半ではシェイクスピアの《夏の夜の夢》の劇音楽が取り上げられていますので、2曲とも『文豪クラシック』といえます。

 ボードレールは19世紀フランスの詩人です。発表された作品はそれほど多くないようですが、ランボーなど後世の詩人達が強く影響を受けたとされています。46歳で亡くなっているためか、《悪の華》は生前に発表された唯一の詩集のようです。恋愛を中心テーマとした内容で、それぞれの詩はそれほど長くありませんが、難解です。今回演奏されたチェロ協奏曲は、《悪の華》の中に収められた「髪」という連作詩に基づいて5つの楽章で構成されています。

 1960年代後半に作曲された、まさに現代風の曲です。なかなか入り込むのが難しい曲調ですが、チェロという楽器の様々な魅力を余すところなく表現させることを目的としたような気がします。ソリストのアルトシュテットはヨーロッパではかなり売れっ子のようで、CDもたくさん出しているようです。レパートリーも古典派からロマン派、そして現代曲と幅広い。曲ゆえでしょうが、音色の幅が広く、十分に楽しませてくれました。かなり大柄な体格で、チェロを軽々と抱え、子どもをあやしているかのように見えました。

 オーケストラの難易度はよく分かりませんでしたが、途中にヴァイオリン・パートがノンビブラートで高音を響かせる部分はうっとりするような美しさでした。

  ソリスト・アンコールは、
デュティユー:ザッハ-のなによる3つのストロフ
で、協奏曲と同じような曲調。単独で聴くのはややきついかな。名前はドイツ系ですが、フランスにお住まいなのでしょうか、アンコールの紹介はフランス語でした。終演後にはサイン会もありました。

休憩後のメインは、メンデルスゾーンの傑作です。1809年生まれで、幼い頃から才能を発揮した神童です。有名な「結婚行進曲」は、今回演奏された《夏の夜の夢》の第9曲です。シェイクスピアの戯曲は読んだことがあるでしょうか? 登場人物が多いのですが、四大悲劇や歴史劇など他の作品と比べると短くてハッピーエンドです。

 ドイツ語訳された《夏の夜の夢》の上演にあたって作曲された音楽は「序曲」と12曲で構成され、二人のソプラノと女声合唱が入った曲も含まれています。今回は抜粋で9曲が演奏されましたが、合唱も独唱もすばらしく、ホルンのソロをはじめ、管楽器群のアンサンブルもよく合っていました。メンデルスゾーンらしい響きがうまくつくられていて、1時間近い演奏時間ですが、あっという間に過ぎていきました。


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ファゴット・トリオ・ザルツブルク コンサート

 皆さんは「ファゴット;fagott(英語ではBassoon;バスーン)」という楽器をご存じでしょうか? オーケストラでは木管楽器の後列、普通は客席から見て右側にいる、奏者の頭の上まで突き出たような楽器です。楽譜は通常ヘ音記号で書かれる、木管楽器で最低音部を受け持ちます。吹奏楽では、かなり規模の大きな編成の学校でないとないかもしれません。かなりマイナーな楽器です。

 大学時代にオーケストラで吹いていて、残念ながら就職後は機会がありませんが、常に耳が向きます。ファゴットだけのアンサンブルのコンサートはほとんどないだけに、またとない機会でした。

 5月26日に、名古屋の熱田文化小劇場で、オーストリア・ザルツブルクのザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団のファゴット奏者達によるアンサンブルのコンサートがありました。マネージメント会社のメルマガの登録者対象の無料招待に応募したら、幸い当選。大学からの地下鉄往復分で、十分に堪能しました。

 プログラムは
モーツァルト:ディヴェルティメント第4番変ロ長調
バッハ/レヒトマン選曲:オルガン協奏曲第2番イ短調
ロッシーニ/ゲバウアー編曲:歌曲『セビリアの理髪師』から4つのアリア
ハイドン/アンドレア編曲:ディヴェルティメントニ長調
モーツァルト:ファゴットとチェロのためのソナタ
ピアソラ/ジャクソン編曲:タンゴ組曲
アンコール:ガーシュウィン・メドレー

 ファゴット:黒木綾子、フィリップ・トゥッツァー、リッカルド・テルツォ
賛助出演 ファゴット:野村和代、パーカッション:西田尚史

 曲によって二重奏から四重奏と幅広い選曲でしたが、最後のタンゴにはパーカッションも加わっての、多彩なプログラムでした。楽器を自在に操るテクニックとともに、いつも一緒にやっているもの同士の阿吽の呼吸、見事というほかありませんでした。オーケストラの楽器の中で、もっともにとの声に近い音色といわれることがありますが、誰が聴いても自然に耳に入ってくる音色。とは言っても、曲によって少しずつ色が異なり、そこが演奏の解釈なのでしょう。

 5曲目の二重奏も、ファゴット二人によるもの。この曲はもともとアマチュアの演奏家のためにつくられたということもあり、私も学生時代にやったことがあります。聴いていると自然に楽譜が頭に浮び、自分と比較するのがまちがっていますが、自由自在とはこういう演奏をいうのかと圧倒されました。

 ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団は、毎年8月にザルツブルクで行われる「ザルツブルク音楽祭」という、クラシック音楽の世界ではおそらく世界で最も有名な音楽祭(約1ヶ月にわたって、多くのコンサートが開催されます)のホストオーケストラです。もちろん実力も折り紙付き。今回演奏された黒木さんを含めて、日本人奏者も何人かいるはずです。