名フィル定期(第414回):打楽器協奏曲とニールセン

今月の名フィル定期は
ビゼー:劇音楽『アルルの女』第1組曲
ホルト:打楽器協奏曲『騒音の卓』(日本初演)
ニールセン:交響曲第1番ト短調
ポストリュードで、細川俊夫:想起~マリンバのための

打楽器独奏:コリン・カリー
指揮:ティエリ―・フィッシャー

マイナーなプログラムの割にはお客さんの入りも悪くなく、実力とともに集客努力の成果が実っているようです。途中休憩時間に打楽器ソリストのサイン会もあり、プログラム後の「ポストリュード」もあり、盛りだくさんのコンサートでした。

アルルの女は有名な『ファランドール』や「メヌエット」(フルート独奏付)を含む第2組曲ではなく、マイナーついでではないのでしょうが、第一組曲。しかし、アルトサックスのソロを堪能。サックスはジャズや吹奏楽ではおなじみですが、オケでもフランスものなどにたまに入っています。須川展夫などに代表されるクラシック・サックスの甘く、かつ、渋い音色にはついうっとりさせられます。

打楽器協奏曲は初体験ですが、冒頭でボンゴ?を叩きながらホイッスルを吹いて始まったのには驚きました。題名ほど賑やかではなく、むしろいろんな打楽器の響きを楽しむような曲です。この曲は今回のソリストであるコリン・カリーのためにつくられたそうで、初演は前回指揮をした名フィル常任指揮者のマーティン・ブラビンス。したがって、常任指揮者の強い引きで実現したプログラムだと思います。もちろん、ティエリ―・フィッシャーも現代物は得意としており、この曲を指揮した経験もあるようです。

この曲の編成は現代音楽らしく変則的で、弦楽器はヴィオラ、チェロ、コンバス。ヴァイオリンはなく、普通、1stヴァイ、と2ndヴァイがいる場所にマリンバを始めとする打楽器が並びます。管楽器は、ピッコロ2本が両脇で立ち上がってソリストのように演奏し、フルート1本、オーボエ2本、クラリネット1本+バスクラリネット、ファゴット+コントラファゴット、金管楽器はホルン、トランペット、トロンボーン3本ずつにテューバ、さらに通常の打楽器の位置にシロフォン2,グロッケンシュピール2、ホープにチェレスタ。大切な独奏打楽器はとても全部かけません。中心はシロフォン(要するに木琴です)、その横にテーブルを置いて、いろんな楽器が置かれていて、後半でカデンツァのような部分で使われていました。

曲はオケだけで演奏する小曲をいくつか挟んで10曲からなり、シロフォンを中心にいろんな打楽器に関わる技巧を楽しむことができます。

メインのニールセンはフィッシャーの特異とする作曲家。ニールセンは交響曲を6曲つくっていますが、これで3曲目。かなりマイナーな作曲家だけに、ライブでの全制覇はきっと偉業ですが、ひょっとすると達成できるかも(^^)

ニールセンはデンマーク史上最高の作曲家とのこと、お札にも印刷されたことがあるそうです。1865年生まれ、亡くなったのは1931年。今回の交響曲第1番は作曲者にとって初めての本格的なオーケストラ曲のようで、1894年に初演されています。後半生につくられて交響曲5番、6番などは戦争体験を経ているためか、かなり暗く内向的ですが、この第1番は明るく快活です。同じ北欧・同い年のシベリウスほど寒くありません。管楽器のソロなどが活躍するのではなく、弦楽器を中心にアンサンブルを聴かせるタイプの曲です。今日の演奏は、フィッシャーらしく輪郭がはっきりとしていて、音の強弱もはっきりと付いたわかりやすい演奏でした。全体に奥行きのある響きをつくりだしていて聴き応えがありました。最近、弦セクションの音が分厚くなってきていますが、弦楽器がトゥッティで鳴らしているところに管楽器が入ってくるところなどでの音量のバランスが非常にうまくとれていて、ただ大きくならしているだけではなく、互いによく聴き合っているのがよく分かりました。また、第1楽章はかなり音量が大きくなり盛り上がって終わるのですが、ホール全体が鳴っているかのような響き。非常に満足です。

シーズンが変わったからか、弦、特にヴァイオリンの人の座る席がだいぶ替わっています。全体として若手が前に来ていて、ヴェテランが後。一般的にはうまい人から前のほうに座るのですが、世代交代を考えているのかもしれません。

来月は『ポーランドの1番』、有名なショパンのピアノ協奏曲第1番のオリジナル版が聴けます。独奏は日本を代表するショパン弾きである小山実稚恵です。

バッハ:オリジナル楽器による管弦楽組曲

今週はラ・プティット・バンド(La Petite Bande)というオーケストラを聴きました。このオケは30数年前に、ルイ14世の宮廷におけるオーケストラを再現することを目的に結成されています。使う楽器や編成、演奏方法などはできる限り当時を再現し、17世紀のフランス音楽を演奏していたそうです。徐々にレパートリーを拡大し、現在はベルギーを拠点に世界最高のバロック音楽のためのオーケストラとして活動しています。

今回は定評のあるバッハのオーケストラ曲から
管弦楽組曲全4曲とブランデンブルク協奏曲第5番
という5曲。全体で2時間を越える演奏、単調な繰り返しのようにもきこえる音楽ですが、飽きることなく引き込まれました。

題名だけではなかなか親しみを持ってもらえそうにないのですが、管弦楽組曲第2番第2曲《アリア(またはエール)》は、よく知られている「G線上のアリア」の原曲です。また、管弦楽組曲第4番の終曲やブランデンブルク協奏曲第5番もよくBGMなどで使われいます。

古楽器、またはオリジナル楽器については以前にも紹介をしました(例えばここ)が、16世紀~18世紀のその曲が作られた当時に使われていた、つまり作曲家が想定した楽器をさします。ヴァイオリンなどは見た目は基本的には今も変わりませんが、弦や弓、奏法は大きく異なります。木管楽器はキーが少なく、金管楽器はバルブが全くありません。したがって、指使いや音の出し易さという点では圧倒的に難しいはずです。音色も全体として柔らかみや暖かみに欠き、弦楽器などはガット弦(ヒツジの腸でできています。gut=腸)を使っていることもあり、特に金属的な響きを感じます。音量も小さめで、音に広がりがありません。編成も各パート1~2人程度、今回も最も大きな編成でも20人足らず、現在一般に利用される大ホールでの演奏には不向きです。

今回は、弦楽器はヴァイオリンが2パート、ヴィオラ、バッソ・デ・ヴィオロン(Basse de violon、ほぼチェロと同型、同音域の楽器です)、ブランデンブルク協奏曲のみヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ(Viooncello da Spalla、ヴィオラとチェロの中間くらいの大きさで、肩から提げて演奏)が加わります。ヴァイオリンのみ各2人で後はほぼ一人ずつ。弦楽アンサンブルのような編成で、音量はありませんが、迫力を感じました。木管楽器は曲によって編成が様々ですが、オーボエ、ファゴット、フルート。いずれも渋い音で、弦楽器の音とよく調和します。全体に、飾り気がなく自然で、優しさを感じました。そして、管楽器はもちろん、弦楽器も一つ一つの楽器が出す音を別々に聴き取ることができ、文字通り、一人一人の奏者の息づかいを感じらる演奏でした。

先週も名フィル定期は、19世紀後半から現在にかけての音楽、大ホールの舞台に所狭しと並び、pppからfffまで幅広いダイナミックスレンジを生かして訴えかけてくる音楽でした。一転してバッハは小編成で、音量の幅はほとんどなく、どちらかというと淡々と音が並んでいく音楽。向こうから感情に訴えてこない代わりに、こちらが十分に咀嚼すればいろんな味を楽しむことができるような気がします。

今回の公演で配られたパンフレットには、なんと楽団からカンパを訴えるチラシが入っていました。これまでベルギー政府から援助を受けて活動を続けていたようですが、これが打ちきられるとのこと。日本ではよく聞く話で、文化行政の貧弱さ=大規模開発や軍事費に余計なお金を使っている情けなさを痛感しますが、まさかヨーロッパの国でクラシック音楽に対する援助に大ナタを振るわれているとは驚きでした。文化や教育は直接利益を生むわけではありません。しかし、ここにどれだけの投資をするかは、その社会のもつ『力』を示していると思います。日本はもちろん、ヨーロッパの多くの国々にこの『力』がないとはとても思えません。残念です。

名フィル定期(第413回):マーラーの1番

先週末に行われた今月の名フィル定期は「マーラーの1番」と題して常任指揮者であるマーティン・ブラビンスの指揮で
ピッカード:16の日の出(委嘱新作・世界初演)
マーラー:花の章
ヴォーン・ウィリアスム:バス・テューバ協奏曲ヘ短調
マーラー:交響曲第1番ニ長調『巨人』
テューバ独奏:林裕人(名フィル奏者)
というプログラムでした。

ブラビンスは昨シーズンも高い水準の演奏を聴かせてくれ、常任指揮者として来てくれてよかったなと感じていたのですが、今回は私がこれまでに聴いた名フィルのコンサートの中でも最高です。もちろん、メインであるマーラーがすばらしかったのですが、バステューバ協奏曲もソリスト共々、世界水準ではないか思うほどの名演でした。

冒頭の新作の演奏の前に、《プレリュード》と題して作曲者自身の簡単な解説がありました。まさにprelude。作曲者のピッカードは指揮者・ブラビンスとは深い交流があるそうで、わざわざ名フィルのために新作をつくってくれたようです。彼は宇宙に非常に興味があるらしく、スペースステーションが90分で地球を一周し、一日に16回の日の出を体験することになるということをテーマに今回の曲を作曲したとのこと。それぞれを具体的に描いているわけではありませんが、神秘的な導入部、弦楽器のロングトーンの中での響く管楽器、そして何よりも多彩な打楽器の活躍。宇宙からの日の出だけではなく、地球がどんな風に見えているのかをいろんな想像をかき立ててくれました。

ブラビンスはこれまでイギリスのオケを中心に指揮して、50枚以上のCDを出しています。その多くは現代音楽、決して広く親しまれているわけではないジャンルを積極的に取り上げていることが今回の新作委嘱に結びついているのでしょう。

『クラシック音楽』もかつては「新作」を常に楽しんでいたのですが、いつの間にか「旧作」ばかりがプログラムに並ぶようになってしまいました。しかし、芸術が「新たな価値の創造」であるのなら、やはり新作が常につくられ続けていることがその分野の発展に欠かせないと思います。また、オーケストラという芸術団体にとっても、自分たち独自の価値を生み出していく上でも、自分たちのための曲というものは必須でしょう。

さて、今回はテューバという、珍しい楽器のための協奏曲が取り上げられました。楽器自体はご存じの方も多いと思います。しかし、どんな音がして、オケや吹奏楽ででどのようにはたらいているのかはなかなか知られていないでしょう。吹奏楽をやっていた方は分かると思いますが、ロングトーンや刻みの強拍を鳴らすことの多い楽器で、ほとんどソロはありません。したがって、テューバの独奏ときいてもぴんとこないのではないでしょうか。事実、テューバの協奏曲はほとんどなく、今回演奏されたヴォーン・ウィリアスムの協奏曲がその草分け、初演は1954年だそうですから、ほんのつい最近です。

冒頭はオケがオリエンタルな響きで始めますが、テューバ独特の丸く暖かみのある音で奏でるメロディーは心を和ませてくれます。また、あの大きな楽器でもこれだけできるのかという細かな動き。楽器の魅力と能力を十二分に引き出した名曲です。ソロを演奏した林は1990年生まれ、経歴を見ると中学校でテューバを始めたようです。もちろん吹奏楽でしょう。東京芸大在学中に21歳で名フィルの団員に。名フィル史上最年少の入団。天才といっていいのでしょう、将来が楽しみです。

さて、メインはマーラー。今回の『巨人・Titan』は表題が付いていることもあり、マーラーのつくった交響曲の中では有名で、演奏頻度も高い曲です。元々は5楽章の交響詩として構想され、前半に演奏された「花の章」が第2楽章に緩徐楽章として入っていました。最終的にこの部分を割愛して、緩徐楽章抜きの4楽章の交響曲というかたちでまとめられました。交響曲第1番は比較的若い時期に作曲されたということもあり、後期の暗く「死」を予感させる雰囲気はなく、どちらかというと、快活でユーモアも感じさせます。フィナーレも華々しく、終わった瞬間に「ブラボー」と自然に叫べるところも人気が理由でしょう。今回の名フィルの演奏もまさに「ブラボー」、割れるような拍手でした。

弦楽器の響きとマーラー独特のニュアンスがみごと。すべてのプレーヤーが指揮者の棒に操られているかのように一心同体となって音楽を紡ぎ出し、聴衆の心を完全につかんでいました。木管楽器も随所にソロがあり、みごと。また、短いメロディーを楽器を変えながらつなげていく部分では実にスムーズに音が流れ、お互いによく聴き合いながら演奏している様子が見て取れました。そして何よりもすばらしいのが金管楽器、特にトランペットとホルン。首席奏者はいずれも20代後半から30代前半で、国内ではこの世代を代表するプレーヤーです。前半の「花の章」ではトランペットのソロが醸し出す哀愁に聴き惚れましたが、「巨人」では力強く、かつ華々しく鳴り響き、また、ホルンは森でこだまする狩猟ホルンのような響きから7人が立ち上がって吹き鳴らす大音量まで、醍醐味を味わわせてくれました。

第4楽章終盤は、あまりの感動で涙が出そうになりました。これぞ「名演」といえるでしょう。