METライブビューイング《ばらの騎士》

 今シーズンの最終上映が終わりました。リヒャルト・シュトラウス作曲の歌劇《ばらの騎士》、3幕で実演奏時間3時間半、かなりの長丁場ですがあっという間に終わったような気がしました。

 あらすじはずいぶん前に書いたものですが、
ここを参考にして下さい。何を感じるかはその人に寄りますが、「時のうつろい」、「人の持つ愚かさ」などさまざまでしょう。台本を書いたのは、19世紀末から20世紀初めにかけて、ドイツを代表する作家であったホフマンスタールです。したがって、「文学オペラ」という言い方もできるでしょう。

 今回の配役は
元帥夫人:ルネ・フレミング
オクタヴィアン:エリーナ・ガランチャ
ゾフィー:エリン・モーリー
オックス男爵:ギュンター・グロイスベック
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ

 フレミングもガランチャも、それぞれの役を得意として長く演じているようですが、今回の公演でともに役を卒業するとのこと。オペラの役にはそれぞれにふさわしい声質があります。しかし、人の声は年齢とともに変わっていくため、どんなに得意としていても生涯を通じて歌い続けられる、あるいは聴いてもらえるわけではありません。ふたりとも、それぞれの役としては現在を代表する歌手で、すぐに変わる人材が現れるとは思いませんが、将来に期待しましょう。

 今回は、2人の演唱が実にすばらしく、どんどん引き込まれていきました。また、彼女らに応えるかのように、オーケストラの演奏も実にすばらしく、聴き応えがありました。指揮者のヴァイグレを聴くのはたぶん今回が初めてだと思います。実直そうな風貌でしたが、歌手との呼吸を計りながらオケをうまく操っていたように思います。

 今回はこれまで長く使われてきた演出をやめて、新たな演出によって上演されました。あらすじにも書いたように、このオペラはベッドで2人が戯れているところから始まる演出がほとんどです。ところが、今回の演出はベッドルームは扉の向こうに隠され、前奏曲が終わるとオクタヴィアンが扉を開けて出てくるところから始まります。つまり、扉の向こうで何をしていたのかと想像をたくましくさせる演出。なかなか考えたものです。かえってどきっとさせられました。

 演出家はロバート・カーセンという、現在売れっ子のオペラ演出家です。実は今回の「ばらの騎士」の演出は数年前に別の歌劇場での演出を少し改訂して使われています。以前のバージョンと比べると、より練られているようで、非常にわかりやすくなっています。

 来シーズンの予定はすでに発表されています(
ここをご覧下さい)。プッチーニの「トスカ」、「ボエーム」やモーツァルトの「魔笛」など、有名作品も取り上げられており、初めての方にも楽しめるプログラムです。

名フィル定期 第446回 ベルリン・フィルのコン・マスのチャイ・コン

 今シーズン2回目、本来は5月中にあるべきだったのでしょうが、出演者の都合なのか、6月最初の週末に。テーマは《サンクトペテルブルク/ロシア革命》で、プログラムは
吉松隆:鳥は静かに…
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調
ショスタコーヴィチ:交響曲第12番二短調『1917年』
ヴァイオリン独奏:ノア・ベンディックス=バルグリー
指揮:川瀬賢太郎

 今回のハイライトは2曲目、ヴァイオリン協奏曲です。ソリストはあのベルリン・フィルハーモニーのコンサートマスターです。2014年に第1コンサートマスターに就任した、現在32歳の俊英。すらりとした長身で、まるで子ども用のヴァイオリンを持っているようでしたが、初演に先立って「演奏不可能」と断られたという難曲をいとも簡単に弾いている姿は多くの女性を魅了したのではないでしょうか。

 彼らのような超一流の演奏を聴くといつも感じることですが、楽器(声も含めて)の音の大小と強弱は決して同じではありません。今回も、楽譜ではおそらくp(ピアノ)またはpp(ピアニッシモ)であっても、弱々しい音がしているわけではなく、小さな音ではあってもすぐ近くで鳴っているように聴こえます。f(フォルテ)あるいはff(フォルテッシモ)であろう部分は、もちろん大きく聞こえますが、決して頑張って引いているわけではなく、様子は小さい音の時のかわらず。ヴァイオリンの場合に非常によくわかりますが、歌手の歌声でも全く同様です。

 チャイコフスキーは稀に見るメロディーメーカーだと思いますが、どの曲も非常に哀愁を帯びたような情感を感じる演奏がほとんどです。今回は指揮者もソリストも若いせいでしょうか、明るく軽やかな雰囲気を感じました。もちろん、随所に「ロシアの大地」を感じました。

 後半のショスタコーヴィチの交響曲第12番の表題は「ロシア革命」を表しています。ちょうど100年の節目になる今年を記念して取り上げられました。通常の交響曲の形式を踏まえ4楽章構成で、特に第1楽章と第4楽章は大音量を響かせ聴きごたえ十分でした。

 次回定期は6月30日と7月1日で、名フィル音楽監督である小泉和裕の指揮でモーツァルトとリヒャルト・シュトラウスです。ソリストは今回と同様、ベルリン・フィルの首席ホルン奏者であるシュテファン・ドールです。(詳細はここをご覧ください