ヴェルディ2作:マクベスとエルナーニ

週末にヴェルディのオペラを2作観てきました.

オペラと言えばイタリアですが、19世紀にこのイタリアオペラを、まさに「オペラと言えばイタリア」という地位にまで押し上げた巨匠.生涯に26のオペラをつくり、その多くが現在も世界中で頻繁に上演されています.《椿姫》や《アイーダ》などは特に有名で、いくつかのメロディは聴いたことがあると思います.

さて、今回聴いたのは、いずれも文学作品をもとにした作品で、ヴェルディのオペラとしては上演頻度が低い2作、
《マクベス》

《エルナーニ》
です.

《マクベス》は言うまでもなくシェークスピアの戯曲、4大悲劇の1つです.
愛知県文化振興事業団というところの主催で、演奏会形式のオペラ上演とその予習を兼ねた2回のリサイタルという連続企画でした.昨年11月と今年1月に関連する作品などのオペラ・アリアを中心としたリサイタルがありました.そして今回、締めとしてヴェルディの《マクベス》全曲.ただ、本格的に演出するのではなく、歌手は特別な衣装を着けず.オケも舞台にのっての簡易的な演奏.「演奏会形式」といいます.
管弦楽:名古屋フィルハーモニー交響楽団
合唱:AC合唱団
指揮:時任康文
マクベス:堀内康雄、マクベス夫人:田口智子 他
でした.
指揮者はまだ40前かと思うのですが、ヨーロッパの歌劇場で経験を積んだ、日本人としては珍しいキャリアの持ち主.作品をよく理解しているのでしょう、オケをしっかりと把握して、充実した演奏でした.ソリストはいうまでもなく、合唱もしっかりしていて聴き応えがありました.

《エルナーニ》はフランス文学の巨匠、ヴィクトル・ユゴーの戯曲で、ロマン派の扉を開く傑作(だそうです.読んでみたのですが???).
これはMETライブビューイング.ユゴーの原作の筋をやや変えたところもあるのですが、非常に重量感のある舞台でした.中世が舞台ですが、それらしいきらびやかな衣装に目を奪われました.
ストーリーは、3人の男性が1人の女性を奪い合い、そこに王位の争奪や親の敵討ちなどがからむ、ちょっとややこしい話.
主人公エルナーニはマルチェッロ・ジョルダーニ(テノール)、イタリア人でテノールらしい伸びやかで非常にきれいな声です.ヒロインで3人の男性から思いを寄せられるエルヴィーラ役が新人のアンジェラ・ミード(ソプラノ).抒情的というか、艶のある声で、いろんな役に合いそうでこれからが楽しみです.

さて、この2作はいずれもヴェルディの若いころの作品.ですが、後の名作、《リゴレット》や《トロヴァトーレ》を思わせるようなメロディも随所にあり、「やっぱりヴェルディか」と思わせる名作です.

調律師

先日「ピアノマニア」という映画を観てきました.最近ちょっと映画ずいているのですが、この映画は、新たにレコーディングする曲に合うピアノの音を、調律師と一緒になってどのように作り上げていくのかを描いたドキュメンタリー.

ピアノを持っている方であれば、年1回くらいは調律をされていると思いますが、ここで出てくる調律師は、単に「音あわせ」しているだけではなく、ピアニストの好みの、あるいは望む音を一緒になってつくっていく「collaborator」のような存在.

フランスのピアニストで、どちらかというと現代音楽を得意としているピエール=ロラン・エマールというピアニストが、バッハの「フーガの技法」という有名な曲をレコーディングすることになり、ピアノメーカーであるスタインウェイ社の技術者と一緒に1年がかりで音をつくっていきます.

実際にできあがったCDはこれ(UCCG1386、
フーガの技法 エマール(p)【CD】-バッハ(1685-1750) )で、是非聴いてみたいと思っています.ちなみに、このCDの紹介でも
「現代音楽の分野でその名を轟かせ、近年はアーノンクールとの共演によるベートーヴェンや弾き振りによるモーツァルトなど、クラシック作品でも確固たる地位を築いているピエール=ロラン・エマールのDG移籍第1弾は、なんとバッハ作品。しかも、1740年代に作曲され、バッハの死後に出版された未完の大作『フーガの技法』です。特殊な調律をほどこしたスタインウェイによる演奏。」
とピアノにも言及されており、ピアノ曲の一般的な録音とは一線を画す工夫があることがわかります.
実際に、映画の中では「これでもか」というくらい既成のピアノに手を加えています.

また、録音時の様子も収録されていて、なかなか興味深い映像です.途中で、巨匠ブレンデルや新進気鋭のランランが出てきて、コンサートに向けてのベストのピアノ選び、あるいはピアノの調整を求めている様子が映っています.普段我々は演奏家がステージに出てきてからしか見ないわけですが、事前に(少なくとも直前に)どんな準備をしているのかがわかって非常におもしろい映像でした.

ちなみに、映画は名演小劇場(
名演小劇場)で今月いっぱいくらい上映されているようです.

名フィル定期(第389回)

 先週土曜日は今シーズン最後の定期演奏会でした.ヨーロッパや日本の一部のオーケストラは9月あるいは10月スタートで6月または7月までが音楽シーズンですが、名フィルは日本の慣例にあわせて4月スタートで3月締め.

 今シーズンのテーマは「愛と死」、最後は《愛する妻へ》と題して
エルガー:弦楽のためのセレナード
エルガー:チェロ協奏曲
ワーグナー:歌劇『タンホイザー』序曲
リヒャルト・シュトラウス:交響詩『死と変容』
チェロ独奏:山崎伸子
指揮:円光寺雅彦

 エルガーは19世紀後半から20世紀かけて活躍したイギリスの作曲家.行進曲《威風堂々》で有名です.
1曲目はエルガーが結婚3年目の記念に奥さんに送った曲だそうです。3つの楽章からなる15分ほどの曲.題名の通り弦楽器だけで演奏されます.ちょっと切なげに始まるのですが、全体に伸びやかで落ち着いた楽想が続きます.いつまでもずっと浸っていたいようなムードが漂い、エルガー家の雰囲気を感じるような曲です.

 2曲目のチェロ協奏曲は音楽的な規模が大きく、聴き応え十分な曲です.第一次大戦中につくられたようで、やや暗い雰囲気を持っていて、決して希望を感じさせるような曲想ではありませんが、苦難に負けないような強さを感じさせてくれます.
 
今回ソロを弾いた山崎と指揮者円光寺はご夫婦.舞台への出入りにも何となく互いへの気遣いを感じましたが、アンコールはなんと
エルガー:愛の挨拶
エルガーが婚約の記念に(未来の)奥さんへ送った曲です.

 3曲目のワーグナー、歌劇のストーリーは、誘惑されて退廃的な生活を送ってしまった騎士タンホイザーが、罪を償うための苦難を経て、清らかな乙女のもとへ帰るというもの.今回取り上げられた序曲は15分とやや長めですが、歌劇中で用いられる印象的なメロディーがちりばめられ、飽きさせず一気に聴かせてくれます.私が好きなの途中で何度か管楽器のハーモニーがきれいに響き渡るところ.教会の中で聴いているような気にさせてくれます.

 メインはシュトラウスの難曲.この数年名フィル定期ではリヒャルト・シュトラウスがよく取り上げられていて、メジャーな曲はほぼすべて聴いたような気がします.一般的にはあまり有名な作曲家ではないのですが、どの曲も大編成でいかにもオーケストラらしい響きが楽しめます.
 
 今回の『死と変容』(または『死と浄化』)は、作曲家がまだ30歳前の駆け出しの頃の曲で、病弱であった自身を投影しているとかいないとか.曲の各部分には意味づけがあり、元気だった頃の想い出や病魔との闘いながらも死におびえる姿、そして最後には死を迎え、恐怖が安らぎに変わり、浄化された美しい余韻とともに曲を閉じます.

 さて、今回のコンサートではすべての曲でオケの音が非常に優しく、温かく響いていたのが印象的でした.指揮者・円光寺の人柄なのでしょうか.同じオケ、同じ曲でも指揮者によって演奏は大きく異なるのですが、こんなにも音色が変わるのかと感動するとともに、改めて驚きました.
 
 また、名フィルの演奏は、ワーグナーやシュトラウスのような大音量を求められる曲では弦楽器の音が消えてしまい、管楽器がうなっているように感じることが多いのですが、今回はそれもなく、終始弦楽器が響き、その上に管楽器がのっているというオーケストラの本来の音作りがしっかりできているように感じました.

 さて、4月から新しいシーズンが始まります.テーマは、音楽で紡ぐ「世界の物語」.4月はフィンランドの叙事詩「カレワラ」をテーマとしたシベリウスの「レンミンカイネン組曲」がメインです.また、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を愛知県出身の若手ピアニスト田村響が弾きます.「皇帝」はいろんなテレビ番組でも使われているので、聴けばきっとわかると思います.来シーズンのプログラム一覧はここ(
名フィル演奏会案内/名古屋フィルハーモニー交響楽団