名フィル定期(第358回)

年度初めだからというわけだけでもないのですが、この2ヶ月ほど思っていたよりも忙しくてあまり音楽の話題を提供することができておりません.今年はメンデルゾーン・イヤー、ハイドン・イヤー、ヘンデル・イヤーで、いろいろ勉強してみようと思ったのですが、どうも無理のようです.

来年は、ショパン・イヤー、シューマン・イヤー、マーラー・イヤーと今年よりも盛り上がりそうなので、そっちに浮気しようかと考えています.

さて、昨日は名フィルの5月定期.先月が2時間を超える大曲だったことを思うと、純粋の演奏時間は全部で80分足らずというやや物足りなさの残るプログラムでしたが、音楽的にはなかなかハードなプログラムだったかもしれません.

指揮者はイラン・ヴォルコフ、イスラエル生まれとのことですが、名前からするとロシア系でしょうか.弱冠33歳ですが、イギリスを中心に活躍しているようで、常任指揮者であるフィッシャーの推薦でしょうか.
コンサートのタイトルは「春のロンド」、曲は
グラズノフ:交響的絵画《春》
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
ドビュッシー:管弦楽のための《映像》
の3曲.

シベリウスとドビュッシーの曲の一部以外は、今回初めてきく機会を得ました.といっても事前にCDを買って予習はしていましたが.

グラズノフは今年3月の定期で交響曲が取り上げられ、その時に交響曲全集(全部で7曲あります)を2つ買ってけっこう聴きこんだ甲斐あってか、いかにもグラズノフというのがよくわかる小品でした.その題名の通り、誰もがイメージする「春」をオーケストラで表現しています.クラリネットやフルートが鳥の声を模したり、野原一面には名が咲き誇っている様子かな?と思わせる弦楽器のゆったりしたメロディーなど、「春のロンド」と題したコンサートを始めるにふさわしい曲です.グラズノフはロシアの作曲家ですから、冬から春への季節の変化には日本人よりも思い入れがあるのかもしれません.

ドビュッシーの曲は、もともと別々に作曲された3曲、「ジーグ」、「イベリア」、「春のロンド」を組曲化したもので、これまた作曲者が持つイメージ(映像)を音にしています.いかにもフランス音楽らしいというか、ドビュッシーらしい管楽器や打楽器を駆使し、変化に富んだ曲です.聴いていれば何がしかのイメージがわいてくる不思議な雰囲気を持っています.この曲の冒頭ではオーボエ・ダモーレという珍しい楽器が使われています.CDでは何度も聴いたことがあるのですが、実物を目の前にして聴くのは多分初めて?です.オーボエよりやや大きいため少し低い音が出るのですが、ただ低いだけではなくどことなく物憂い雰囲気の音が印象的でした.
また、2曲目の「イベリア」は吹奏楽用の編曲版があるためご存知の方もいるかもしれません.指揮者は若いのですが、演奏は決して表面的ではなく、聴きどころの壺を押さえたいいえんそうでした.

今回のメインはやはり2曲目のシベリウスでしょう.ヴァイオリンソロはライナー・ホーネック.あのウィーン・フィルのコンサートマスターです.実は名フィルの客演コンサートマスターも務めていて、年に1回くらい定期でもコンマスをやっています!!
なんとも言えない艶のある音で聴き入ってしまいました.2楽章は本当にやすらかに弾いていたので、ついうとうとしてしまいました.
生で聴いたからか、いままでCDで聴いていた同じヴァイオリンソロが、実はいろんな音が同時になっていたのだということがわかりました.弦楽器の場合、ある弦で出した音が隣の弦の開放弦の音(指で弦を押さえずに弾いた場合の音)と同じだと共鳴します.また開放弦で弾くと倍音が一緒に聴こえたりしますが、こういう楽器特有のいろんな音が聴こえてきました.
また、物理的には弱い音のはずなのに、遠くまでよく響き非常にしっかりと耳に入ってきたり.演奏家の誰もが目指すことではありますが、さすがに超一流は違います.
この曲は数年前に神尾真由子(この前のチャイコフスキーコンクールの優勝者)のソロで聴いたことがあります(指揮:小林研一郎、名フィル).まだ20歳前だったときですが、彼女の演奏はとにかく前へ前へと進んでいく勢いに聴き入ったという記憶があるのですが、ライナー・ホーネックは余裕綽々で「ここはこうですよ、聴いてくださいね」と一つ一つかみ砕いて見せてくれているような演奏でした.シベリウスはフィンランドの作曲家、春を感じさせるというよりは、どちらかというと冬の厳しさをイメージしてしまう曲が多いのですが、神尾の演奏がこのシベリウスに対する私のイメージに比較的近いものだったとすると、ホーネックはその厳しさを優しく溶かそうとしていたのかもしれません.