《カプリッチョ》と《イル・トロヴァトーレ》

前回はMETライブビューイングの《オリー伯爵》を紹介しましたが、今回はその後に上演(上映)された
リヒャルト・シュトラウス:歌劇《プリッチョ》
ヴェルディ:歌劇《イル・トロヴァトーレ》
を簡単に紹介します.

イル・トロヴァトーレは今度の金曜日までやっています.

リヒャルト・シュトラウスは私の好きな作曲家の一人.特に歌劇《ばらの騎士》はこれまでに観たオペラの中で最も好きなオペラです.今回の「カプリッチョ」は作曲家の最後の、そして集大成ともいうべきオペラで、一人の女性が同時に2人の男性から求婚されて思い悩む様を描いています.わずか1日の話なのですが、どたばた喜劇のようでもあり、同時に一緒に考えさせてくれるような、ちょっと濃い内容です.
ストーリーは
ここを観てください.
2人の男性、一方は詩人、他方は作曲家.主人公であるマドレームが選ぼうとしているのは「男性」なのですが、同時に、オペラにとって「言葉、歌詞」と「音楽」とどちらが重要なのかという、作曲家自身の芸術観、哲学観を披露しています.

今回の上演は、リヒャルト・シュトラウスを得意とするルネ・フレミングというソプラノ歌手がマドレーム役を見事に歌いました.一部が
ここにありますので、興味のある方はぜひ(^-^)/

全1幕、2時間半という長丁場ですが、最後、彼女はどちらも選べず幕.あとはオペラを観た「あなた」が考えなさい、ということでしょうかσ(^^).

さて、昨日の《イル・トロヴァトーレ》、前評判は非常に高く、「圧巻」とか「手に汗握る」とのことでしたが、たしかに圧倒されました.
非常に複雑なストーリーですが、最後は主役2人、愛し合うヒーローとヒロインが横恋慕の犠牲になってともに死んでしまうという、《ルチア》同様に救われない話.
ヴェルディのオペラの中でも人気があり、上演頻度も高い作品ですが、ソプラノ、メゾ・ソプラノ、テノール、バリトンと男女2人ずつ力量あるソリストが必要です.今回はこの4人に迫力というか、圧倒的な声量を持つ歌手が当てられていました.さらに、舞台装置もリアルで、転換もスピーディーなため引き込まれました.

今シーズンのMETライブビューイングは、来月のワーグナー《ワルキューレ》が最後です.来年度のスケジュールも既に発表されておいます(ここ).
また、同様にオペラ上演を映画館で楽しめるような企画、あるいは最初から映画用につくられた上演の上映も増えてきています.直近では、ささしまライブの109シネマズで6/4〜:ヴェルディ《シモン・ボッカネグラ》(これは昨年4月のミラノ・スカラ座の公演です)があります.

オリー伯爵(METライブビューイング)

昨日、GW最終日ですが、《ルチア》につづくMETライブビューイングでロッシーニの《オリー伯爵》という作品を観に行きました.

有名度でいえば、超マイナーな作品.レパートリーの多いことで知られるMETでも今シーズンの上演が初演、今手に入るCD & DVDも、調べたところあわせて3本(残念ながら日本語字幕はなし).もちろん私も今回だけは全く予習なし.ぶっつけ本番で臨みました(^_^;.

今回上演にこぎ着けたのは主役3人に人を得たからなのだそうですが、中でもタイトルロールを歌うファン・ディアゴ・フローレスが決め手のようです.いや、見事でした.男が聴いてもほれぼれする美声、多くの女性にぜひとも聴いてもらってうっとりしてほしいと思います(*^^)v.ちなみに彼は、この公演のわずか40分ほど前にパパになったそうで、出産に立ち会って、直ちに劇場へ来たとのこと.

HP丸写しで紹介すると、

時は13世紀初め。フォルムティエ伯爵は部下を連れて十字軍遠征に出ており、妹のアデルら女性たちは皆、城で男たちの帰りを待っている。ところが遠征に出なかった貴族がいた。オリー伯爵である。好色なオリーはアデルに言い寄ろうと作戦を練っていた。行者に化けてアデルの相談に乗り、男子禁制の城に入り込もうとしていたのだ。しかし彼の小姓イゾリエもアデルに恋しており、彼女に会うためにオリーを手伝い知恵を貸すが、この計画はもう一歩のところで失敗に終わる。それでもオリーは諦めない。たくましくも別の手段で成功したかに見えたが、主人の企みを見抜いたイゾリエは・・・。そして十字軍の帰還も近づいていた・・・。 《セヴィリャの理髪師》、《チェネレントラ》など、オペラ・ブッファ(喜劇オペラ)のヒットを連発したロッシーニが晩年パリで作曲した、洗練と抑制のきいた大人のコミック・オペラ。J.D.フローレスとD.ダムラウという現在望みうる2人が歌う、オリーとアデルの歌合戦は必聴だ。昨シーズンの《ホフマン物語》等、METの大ヒット舞台を手がける奇才B.シャーの艶やかな新演出で贈る。

です.

舞台の様子やハイライト映像はここ(
みどころ特別映像).オペラを観ながらあんなに笑ったのは初めてです.

多分今秋あるいは来春、NHKがBSでやると思います.興味のある方はぜひご覧ください.

さて、2週連続になってしまうのですが、今週末にはリヒャルト・シュトラウスの《カプリッチョ》というオペラが上演されます.これも結構マイナーで、やや取っつきにくい話ではありますが、音楽がすばらしい.主演は現在最高のソプラノ歌手の一人、ルネ・フレミング.マドレーヌという女性を演じるのですが、この役をやらせたら多分彼女の右に出る人はいないでしょう.

ランメルモールのルチア:あらすじ

あらすじと登場人物紹介すると、

舞台は17世紀のスコットランド、ラマ−ムーア地方(Lammermoor、スコットランド南東部の丘陵地帯だそうです).2つの貴族、アシュトン家とレーヴェンスウッド家が対立.先王がなくなり新王即位によって力関係が逆転.アシュトン家が落ち目になり、それまで冷遇されていたレーヴェンスウッド家が盛り返そうとしている.そこで、アシュトン家は娘・ルチアを裕福な貴族アルトゥーロと政略結婚させて、その庇護を受けようとします.一方、ルチアは母親が亡くなり悲しみに暮れながらも、レーヴェンスウッド家のエドガルドと知り合い恋愛中.
ワルター・スコットの「ランマムーアの花嫁」という、実話を源にした小説を基につくられた台本(イタリア語)を使っています.

主な登場人物は
エンリーコ(バリトン):アシュトン家当主
ルチア(ソプラノ):主人公、エドガルドの妹
エドガルド(テノール):レーヴェンスウッド家当主、ルチアの恋人
アルトゥーロ(テノール):貴族、ルチアの婚約者
ライモンド(バス):神父、ルチアの家庭教師

第1部
《第1場》
エンリーコが部下と一緒に領地を見回りながら、妹ルチアがアルトゥーロとの結婚を承知しないことに不満を漏らします.ルチアの家庭教師・ライモンドは、ルチアがエドガルドと恋愛中であることを知りながらも、母親の死の悲しみを乗り越えられないルチアに結婚は無理と取りなします.ところが、部下の一人がルチアとエドガルドの逢い引きを目撃していて、エンリーコに告げ口.エンリーコは激怒します.
《第2場》
ルチアが召使いとともに登場.物語の前途を暗示するように、この舞台となった地方に伝わる伝説、若い女性が恋に破れて泉に身を投げる物語を歌います.このアリアはハープの前奏に続いて歌われますが、ルチア役に求められる技術(高音を自由に操るコロラテューラ)を披露します.その後エドガルドと逢い引き.エドガルドは新王の命でフランスへ旅立つことを告げ、ルチアは悲しみます.ここで2人は結婚を誓い指輪を交換.ルチアとエドガルドが繰り広げる二重唱が見事です.

第2部
《第1幕》
ルチアとアルトゥーロの結婚式当日.
ルチアとエドガルドは手紙を交わそうとしますが、すべてエンリーコに邪魔されてお互いの気持ちを伝え合うことができていませんでした.ルチアはエンリーコから一族の存続のためにアルトゥーロと結婚するように説かれます.そんな中でエンリーコの部下がつくった偽手紙、エドガルドが他の女性と愛し合っているという話を信じてしまい、希望を失ったのか、結局結婚に同意.アルトゥーロもやってきて結婚誓約書にサインします.この前半部分、エンリーコとルチアが見せる、互いの感情をぶつけ合うような掛け合いは見応えがあります.
ここへ突然エドガルドが登場、サインされた結婚誓約書を見て激怒.ルチアを詰り、エンリーコともやり合って退場.ここでは、ルチア、エンリーコ、エドガルド、ライモンド、アルトゥーロ、そして合唱が加わってのコンチェルタント(同じは伴奏やメロディーに乗って何人もの独唱が互いに別の歌詞を歌う)は圧巻です.これぞオペラと実感できます.
《第2幕》
《第1場》
エドガルドの居城
エドガルドが一人で嘆いているところへ、披露宴を抜け出したエンリーコがやってきて決闘を申し込みます.エドガルドもうけてます.テノールとバリトンの二重唱として有名な部分です.
《第2場》
披露宴
ルチアとアルトゥーロの披露宴たけなわ.二人は初夜を迎えるべく寝室に入りますが、そこで悲劇が起こります.ルチアがアルトゥーロを刺し殺してしまい、動転したまま出てきます.ここでルチアが歌うアリアがこのオペラの白眉、正気を失った女性を15分間一人で歌い、演じます.『狂乱の場』と言われますが、このオペラはこの場面、アリアのためにあると言っても過言ではありません.最後は『狂い死に』してしまいます.実際にはあり得ないことですが、そう思わせてしまうところが音楽の力です.これまで映像、生あわせて4,5種類観ていますが、どれもが違ったルチア、というか狂乱を見せてもらえます.歌手によっては精神科医などとも相談して役作りをするそうです.
《第3場》
エドガルドがエンリーコを決闘場で待っていると、披露宴に出席したと思われる人々が出てきて、ルチアが瀕死であると告げます.ルチアの死を知らせる鐘が鳴ると、絶望したエドガルドは自ら命を絶ちます.

正直言って『ロメオとジュリエット』とよく似てはいますが、もっと悲惨というか、救いようのない悲劇.あまり元気のない時に見るオペラではないかもしれません.

このオペラにはイタリア語版とフランス語版があります.ドニゼッティは、最初にイタリア国内で上演するためにイタリア語台本を使って作曲しましたが、後にフランスに渡って翻訳版をつくりました.現在もフランス国内ではフランス版で上演されることが多いようです.今回METでルチアを演じたメンバーも、パリやリヨンの歌劇場ではフランス語版を歌っています.