METライブビューイング:モーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》

METライブビューイングは次の上映週で今シーズン最後です。最後は2週間続きで、先週土曜日から今日まで
モーツァルト:歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》
が上映されました。

モーツァルトは幼い頃からオペラをつくっていますが、晩年にロレンツォ・ダ・ポンテというイタリア人の名台本作家と共同で《フィガロの結婚》、《ドン・ジョヴァンニ》、そして《コジ・ファン・トゥッテ》と3作を立て続けにつくりました。《フィガロ》と《ドン・ジョヴァンニ》はあらゆるオペラ作品の中でも最も有名な作品に挙げられますが、《コジ》はやや知名度に劣ります。

しかし、モーツァルトのオペラの最大の魅力は重唱。つまり、歌手が一人で歌う「アリア」ではなく、二人、三人、四人と複数が同時に、なおかつ、異なった歌詞で、異なったメロディーを歌います。モーツァルトのオペラの中で、この重唱が最も見事な作品が「コジ」です。したがって、最もモーツァルトらしいオペラといえるかもしれません。

タイトルは正確には「Così fan tutte, ossia La scuola degli amanti(女はみなこうしたもの、または恋人たちの学校)」、イタリア語です。イタリア語で、女性のみの集団に対して「みんな」はtutte、男性のみの集団または男性と女性を含む集団に対してはtuttiといいます。

舞台は中世(たぶん)のナポリ、主な登場人物は6名。
青年士官フェルランドとグリエルモは互いに自分のフィアンセの貞節を相手に自慢しているところから話が始まります。彼らのフィアンセは、それぞれドラベッラとフィオルディリージで、姉妹です。ところが、青年士官の友人でもある老哲学者アルフォンソは「女性の貞節など見たこともない」と2人をけなしたため、互いに賭をします。
お芝居だから成り立つストーリーですが、フェルランドとグリエルモは変装をして互いに相手のフィアンセを誘惑します。ドラベッラもフィオルディリージも初めのうちはかたくなですが、小間使いデスピーナのがアルフォンソと結託をしてうまくけしかけた結果、ドラベッラは変装したグリエルモと、フィオルディリージは変装したフェルランドと結婚の約束をしてしまいます。結婚証明書に署名したところで、男性2人が「本人」に戻ります。女性2人は慌てふためき、男性2人は怒り心頭。どうなることかと思うと、アルフォンソがうまくなだめて、互いに元の鞘に収まってめでたしめでたし。

何ともたわいもないというか、納得がいかないというか、奇想天外なストーリー。19世紀以降、不道徳であると言うことで上演機会もあまりなかったそうです。しかし、音楽のすばらしさは他の何物にも代えがたく、また、「Così fan tutte=女はみなこうしたもの」ということは、裏を返せば「Così fan tutti=男はみんなこうしたもの」ということですし、エンディングではすべてが丸くおさまり、正しく生きようと考え改めたとすれば、「Cosi fan tutti=人はみんなこうしたものよ」と読むこともできます。

幕間の出演歌手のインタビューでも語られていましたが、「お芝居」と割り切って楽しむためのオペラと思えば、これまたいかにもモーツァルトらしい茶目っ気を味わうことができます。

いかのサイトで先行映像を見ることができますので、参考までに。
http://www.shochiku.co.jp/met/program/1314/#program_08

明日からは今シーズンのラストを飾る
ロッシーニ作曲《ラ・チェネレントラ》、イタリア語で『シンデレラ』の意。継母の代わりに継父で、カボチャの馬車は出てきませんが、ストーリーはほぼ同じ。ヒロインはロッシーニを得意とするジョイス・ディドナート(メゾ・ソプラノ)、王子役はファン・ディアゴ・フローレス(テノール)。2人の超絶技巧が聴き所です。

安土城

NHKの大河ドラマ「官兵衛」をご覧になってますか? 日曜日の夜で、勉強が大変という方もいらっしゃるでしょうが、BSでは夕方6時からやっています。時代考証もかなりしっかりしていますので、歴史の勉強には最適です。

久しく『大河』は観ていなかったのですが、何年ぶりかで毎回観ています。ドラマでは織田信長の存在感が光っているように思いますが、安土城での場面がかなり多く描かれています。

昨日(5/25)、お天気もよく絶好の「お城日和」。麓の資料館には以前に行ったことがありましたが、実際に城跡へは行けずじまいだったため念願を果たしました。

安土山という、標高150メートルくらいの小さな山全体が城郭として作り上げられたようで、大手門を入ったところから武将たちの屋敷が続き、石段を登った先に本丸、そして天守閣跡が広がっています。下から見ていると簡単に上れそうに見えたのですが、登り始めて少し後悔をしました。防御の意味もあるとはいえ、かなり急勾配に不揃いの石段がつくられ、かなりたいへんな思いをさせられました。(そのためか、今日の授業、特に2限目は少し息切れをしました) 

ドラマでは謁見の間や庭しか出てこないところが残念ですが、記録などによると、信長部下の武将などと会っていたのは地下1階、地上6階建ての安土城天主閣の上階。また、庭があったのは天主閣の横につくられた本丸御殿だろうと思います。

麓の資料館には安土城天主閣の5、6階部分の実物大模型が展示されています。下の写真は5階部分です。
IMG_0450


安土城は本能寺の変後、焼失。再建されることなく、城跡は放置されたままになっていました。20世紀後半に入ってやっと発掘調査が始まり、2000年からは石垣や石段の修復がすすめられています。もちろん、建物を建てようというのではなく、遺構をきれいに整えるという内容のようです。

下の写真は最も麓からはじまる石段です。
IMG_0465

この写真の左側には羽柴秀吉(当時)の屋敷があったと伝えられています。

IMG_0463

安土は、今でこそ田舎町ですが、江戸時代で言えば東海道と中山道が交わる草津のすぐ北、信長にすれば元々の本拠地である岐阜から攻略目標の京都の中間地点。しかも、当時の安土山は直接琵琶湖にせり出していたため、城から船を出すことができ、大津までは一直線。そこに、華麗な天主をもつ城を築いて「天下布武」の意気を示したのでしょう。
下の写真は天主閣跡から琵琶湖側を見たところ。現在は安土山と琵琶湖の間は干拓されたため、農地が広がっています。
IMG_0452

一般的には「天守閣」と書きますが、安土城だけは「天主閣」と書くことになっているそうです。

MEtライブビューイング:プッチーニ《ラ・ボエーム》

現在、メッドランドスクエア・シネマで「METライブビューイング」として
プッチーニ:歌劇《ラ・ボエーム》
が上映されています。

ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場が提供するライブ録画を映画形式で観ることができ、幕間には出演歌手や演出家のインタビューがあるほか、舞台転換の様子なども目にすることができます。今シーズンは10公演が提供され、各1週間ずつ。

さて、今回の「ラ・ボエーム」は19世紀半ばのパリ、カルチェ・ラタン(日本語にするとラテン街?)という、パリの若者の街を舞台にした青春悲恋物語です。主な登場人物は6人、いずれも貧しい青年たちで、自分に才能があると信じながらも芽が出ず、屋根裏部屋で共同生活をする若い芸術家。タイトルの「ラ・ボエーム、La Boheme」とは、英語でThe Bohemian、放浪芸術家というような意味で使われています。

主人公のミミは頼まれて刺繍をしたりする「お針子」。クリスマス・イブに詩人であるルドルフォと互いに一目惚れ。直ちに同棲を始めますが、貧しい生活の中でもともと結核を病んでいるミミの病状は悪化。ミミは「お針子」と行っても本当は娼婦のような生活をしていたのでしょう。ルドルフォはミミに対する嫉妬心をおさえることができず、結局、2人は別れてしまいます。ルドルフォは別れたことを後悔し、ミミはお金持ちのパトロンを得ますが、病状がさらに悪化したためか、結局1人に。最後に再び出会うのですが、ときすでに遅く、ミミはルドルフォの腕の中で息を引き取ります。

まとめてしまうと、昼メロにもならないストーリーですが、この台本(歌詞)につけられたプッチーニの音楽が絶品です。そして、台本や舞台にはいろんな工夫があり、全4幕、起承転結がみごとです。

第1幕は屋根裏部屋が舞台で、ルドルフォを取り巻く仲間たちとのやりとり、今の学生は分かりませんが、我々の世代には「学生の頃はこうだった」とすべてに納得のいく楽しい若人たち。ミミとルドルフォの出会いのシーンで歌われるアリアと二重唱もうっとりとするようなメロディーです。第2幕はクリスマス・イブのパリを見事に再現、第3幕ではパリの町外れでの冬の朝を映画のシーンのように描き、フィナーレ(第4幕)は第1幕同様の屋根裏部屋。やはり若者たちの無邪気な戯れが何とも楽しい。そして、何よりもラストでミミが息を引き取り、ルドルフォが絶叫する場面は涙なしでは観られません。

今回はいずれも若手、といっても30代前半の歌手を抜擢した舞台ですが、才能と将来を十分に感じさせる見事な歌唱。特に、ミミは予定されていた歌手が当日になって風邪で降板、急遽代役にたったクリスティーヌ・オポライスがすばらしい。彼女は前日に同じくプッチーニの「蝶々夫人」を歌ったばかりだったそうで、MET始まって以来初めての2日連続の主役だそうです。オペラになじみのない方にはわかりにくいでしょうが、こんなことをしたら声がつぶれかねず、本来は禁忌です。また、ルドルフォ役のヴィットーリオ・グリゴーロ、名前からしてイタリア人ですが、イケメンです。前回紹介した「ウェルテル」を歌ったヨナス・カウフマンも相当のイケメンですが、こちらも負けていないのではないでしょうか。もちろん、歌もパヴァロッティを彷彿とさせる声色(ここで視聴できます)。ラストシーンは一緒になって世の無常を感じました。

「オペラは敷居が高い」と思われている方も多いと思いますが、この『ラ・ボエーム』はテレビ・ドラマよりも庶民的で分かりやすいストーリーです。そして、歌手や演出によるヴァリエーションを楽しめ、間違いなく「泣けます」。また、『レント、Rent』というミュージカルがあるそうですね。ストーリーはこの『ラ・ボエーム』を踏んでいます(
ここを参考にしてください)。ニコール・キッドマンが主演した『ムーラン・ルージュ』というミュージカル映画もこの『ラ・ボエーム』とヴェルディの『椿姫』を足しあわせたストーリーです。