名フィル定期 第457回定期

 今シーズン2回目、5月の名フィル定期は18,19の両日に名古屋・金山の市民会館で18,19日に〈バイロン/マンフレッド〉をテーマに
モーツァルト:ホルン協奏曲第1番ニ長調
モーツァルト:歌劇《皇帝ティートの慈悲》序曲
モーツァルト:ホルン協奏曲第4番変ホ長調
チャイコフスキー:マンフレッド交響曲
ホルン独奏:アレッシオ・アレグリーニ
指揮:ユベール・ズダーン
というプログラムでした。

 テーマのバイロンは1788年にイギリスで生まれた詩人で、当時のヨーロッパの多くの芸術家が彼の作品にインスピレーションを得て作品をつくっているようです。中でも、劇詩である「マンフレッド」は同名の管弦楽曲をシューマンとチャイコフスキーが作曲しています。

 アルプスの山中を舞台に、騎士マンフレッドが過去の悲しい記憶を忘れるための方法を精霊に求めるものの、与えられず、死を望み息を引き取るまでを描いています。邦訳は岩波文庫版(小川和夫訳)がありますが、現在は版元でも品切れのようです。大学の図書館で借りて読んでみました。1960年第一刷発行で、読めない漢字や初めて見る語などもあり、非常に読みにくい。独白も長く、恥ずかしながら、なかなか感情移入できず。チャイコフスキーの曲のほうがロマンチックに感じます。

 今回の指揮者ズダーンは1946年、オランダ生まれ。東京のオーケストラで長く常任指揮者を務めたいて日本国内でも任期がありますが、なによりもベルリン・フィルを初めとして世界の有名なオーケストラでタクトをとっている実力者です。時折かけ声も響くなど、指揮者の息づかいも感じれる中、オケを自在に操っている様に感じました。まるで、オケの奏者一人一人に手綱をつけて操っているかのようでした。こんな風に感じる指揮者はこれまでそれほどいませんでしたから、ズダーンはさすが。

 「マンフレッド」は交響曲と題しているだけに、通常通り中間に緩徐楽章の入る4楽章構成。チャイコフスキーは番号付きで6つの交響曲をつくっていますが、これらはいずれも特に具体的なイメージのない絶対音楽です。特に有名なのは後半の4つ、中でも最後の第6番は名曲中の名曲です。名フィルでも、昨シーズンの最後、今年3月に取り上げられました。この曲は第5番(今シーズン、来年2月に取り上げられます)とほぼ同時期に作曲されていますが、具体的な文学作品の内容をイメージできるように作曲されているだけに、番号をつけずに初演されました。冒頭のファゴットによって奏される主人公を表すフレーズを中心に、次々をメロディーが繰り出され、楽しく聴いていられます。名フィルもズダーンの握る手綱に操られて、一糸乱れぬ演奏でした。チャイコフスキーの曲では、特に管楽器が次々とフレーズを交代してつないでいくことが多いため、個人の技量はもちろんのこと、アンサンブルの力量が問われます。プロとはいえ、やはり差はありますが、見事でした。

 今回のソリストであるアレグリーニは現代を代表するホルン奏者。イタリア生まれで、現在はローマに拠点があるイタリア最高のオーケストラである聖チェチーリア国立管弦楽団の首席奏者を務めていますが、世界中のオーケストラからソリストとして引っ張りだこのようです。どんな楽器も奏者によってそれぞれ音色が異なります。これまで名フィルで聴いた超一流のホルン奏者達とは音のタイプが異なっていました。ホルンはヨーロッパの森での狩りの合図に使われていた角笛ですが、アレグリーニの音はまるで遠くの森で鳴っているかのような音色。細かく音が動くパッセージやなめらかなフレーズなど、音色と音量を自在に操り、テクニックもすばらしい。また、アンコールで演奏したロッシーニの「狩りのファンファーレ」など、驚くほどいろんな表情を表現していて、ホルンという楽器の奥深さを知りました。聴きに行ったかいがありました。

こんな方です。
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 今回はチャイコフスキーの「マンフレッド」をメインとして、彼の大好きなモーツァルトを組み合わせるというプログラムでした。モーツァルトの3曲はやや小編成で、指揮者も台に乗らず、弦楽器はあまりビブラートをかけずに演奏。ピリオド奏法という、19世紀前半以前の曲を演奏する場合に時々使われる演奏方法です。名フィルはあまり得意ではないと思いますが、指揮者の指導のたまものでしょうか、いい音が響いていました。2曲目の序曲では、歯切れもよく、管楽器もよくまとまっていて、なかなかいいハーモニーでした。

 次回は6月15、16日で、同じく金山の市民会館。テーマは「トルストイ《戦争と平和》」。プロコフィエフが作曲した同名のオペラの序曲の他、日本を代表するピアニストである小山実稚恵さんのソロでチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番です。