左手のピアニスト3:智内武雄

先日紹介したNHKのETV特集
「左手のピアニスト〜もう一つのピアノ・レッスン」
をご覧になりましたか?

久々にいい番組を観ました。現在の智内さんの活動を通じて、ジストニアという病気やそのために苦しんでいる音楽家の様子がよくわかりました。また、病気に屈することなく、むしろ同じ病気の人たちをを支えながらも自分の音楽活動を広げていこうとしている智内さんの活動に心を打たれました。番組が終わった瞬間、テレビに向かって拍手
^^*) パチパチ♪

大学卒業後、ドイツ留学中に発症し左手のピアニストとして活動する決意を固めて帰国。今年が活動10周年、前後して『左手のアーカイブ』プロジェクト(
HPはここ)を発足させて、同じ病気をもつピアニストや協力者とともに、楽譜の蒐集や初級者向けの編曲、コンサートやレッスン活動を進められています。以前に紹介した守矢花梨さん(ここ)もこのプロジェクトのメンバーのようです。

局所性ジストニアは演奏家に非常に多く、番組では50人に一人といいうドイツの研究者の話を伝えていました。演奏家は手や口(口唇とその周辺)、声帯などを長年にわたって酷使するため、これらの部分の筋を支配している運動神経や中枢がオーバーヒートしたような状態になり、演奏しようとすると操作不能、つまり随意的な制御ができなくなってしまうのだと思います。

智内さんのすばらしいところは、自らの演奏の運指を映像化して無償で公開していることです。番組でも触れていましたが、ピアニストにとっては自分の演奏の秘密を明かすようなもの。これだけのことができるんだという自信とともに、少しでも多くに人に広めていきたいという熱意を超えた大きな志を感じます。

CDもたくさんだしているようです。是非手に入れて聴き込んでみようと思います。

名フィル定期(第407回):2

To be continued などと書いてしまったので、今回は先週の名フィル定期のメインプログラムであった
チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調作品36
です。

曲名は分かりやすいように簡略化して書いていましたが、コンサートのプログラムやCDのジャケットには上のように記されています。
曲のジャンル(交響曲)・ジャンルの中での作曲した順番(第4番)・第1楽章冒頭の調性(ヘ短調)・作曲したすべての曲を通じての順番=作品番号(36)
とつけるのがクラシック音楽の常道です。ただ、作曲順と書きましたが、正確には「出版社から楽譜を出版した順」です。普通は作曲した順に出版されますが、まれにずれることがあります。

さて、この曲はチャイコフスキーが人生で最も苦しい時期に作曲を始めた曲です(
ここにも少し書きました)。本人も「ベートーヴェンの第5番(通称「運命」)を模倣した」と語っているそうで、厳しい運命に立ち向かう決意を表すようなファンファーレから始まります。そして、第4楽章では試練に打ち勝った勝利を華々しく歌い上げます。

チャイコフスキーは全部で7つの交響曲をつくっています(番号附きは6曲)、この第4番は番号通り4番目に作られた曲。1878年にモスクワで初演されています。チャイコフスキーの他の曲とも共通するように、管楽器などに非常に速い動きを要求するパッセージが連続します。また、彼の曲の特徴だと思いますが、1つのメロディーをいくつもの楽器やパートで分割して続けていくようなところが至る所に出てきます。ちょうど、長い一つの文を読点ごと、あるいは分節ごとに切って別の人が読み上げていくような感じといえばわかってもらえるでしょうか。

当然、どうやってつないでいくかが重要です。名フィルの演奏は、というよりも指揮者のタクトのもと、全員が一糸乱れぬすばらしい演奏でした。ブラボー\(^O^)/です。

チャイコフスキーの曲では管楽器が大活躍します。特に木管楽器とホルンには多くのソロがあり、これも聴き所。第4番ではオーボエのソロが有名のようですが、私の今回の注目はファゴットとクラリネット。自分がファゴットをやっていたからファゴット(首席ファゴット奏者・ゲオルグ・シャシコフ、ブルガリア人です)に注目するのですが、名フィルの首席クラリネット奏者(ロバート・ボルショス、クロアチア人です)はいつもすばらしく、二人並んで他の奏者とはひと味違います。(日本のオケで外国人の団員がいるのは非常に珍しく、特筆すべきことです。二人とも日本語は上手です(^_^))

第2楽章にファゴットの長いソロがあります。決してフォルテでうなっているわけでもないのに、非常にしっかりとした音できこえてきました。奏法、息の使い方の問題ですが、芯のあり、なおかつ柔らかくつややかな音にうっとりとしました。

来月は12,13日、小泉和裕の指揮で
ベートーヴェン:交響曲第2番ニ長調作品36
グラズノフ:バレエ音楽『四季』作品67
です。

ベートーヴェンは交響曲を9曲つくっています。第3,第5,第6,第7,第9はあまりにも有名ですが、その影に隠れている第2もいい曲です。皆さんが音楽室で見た「肖像画」からは想像もつかない「かわいい」曲です。また、グラズノフはロシア(から革命を経てソ連期)の作曲家。バレエのためにつくられた組曲形式で、4つの四季を「冬」から順に「秋」へ進みます。これがロシアの四季です。

左手のピアニスト2

「授業の記録」のつづきです。

紹介した
智内さんは毎年名古屋でコンサートを開いておられます。今年は来月に宗次ホールであります。
参考までに
^_^;
12/11(水)13:30開演(13:00開場)2,000 [自由]
〈スイーツタイムコンサート〉左手のピアニスト 智内威雄 ピアノコンサート 

数年前に行われたコンサートは聴きに行きました。(。)カンド-でした。

智内さん以外にも同じ疾患を抱えて活動されているピアニストも少なくないようです。昨年初めに、別のピアニストのコンサートにも行きました(
記録はここ)。

さて、ピアノと同じ両手を使う楽器でも、木管楽器の場合には一方の手が不自由になるとどうしようもないのですが、ピアノの場合には片手=5本の指でも十分に演奏できる曲があるため、彼のような演奏活動が実現するのでしょう。

彼のような演奏家を支えようと多くの作曲家が左手のためのピアノ曲を作っています。最も有名なのは
ラベル:左手のためのピアノ協奏曲
です。
これは第一次世界大戦で負傷して右手を失ってしまった友人のピアニストのために作られた曲です。

実は、左手でのピアノの演奏は始められたのは第一次世界大戦後です。テレビ番組でも説明されるかもしれませんが、第一次大戦にはヨーロッパ、特にドイツやフランスを中心に多くの音楽家も従軍しています。例えばラベルも志願して前線に出ているのですが、戦争で負傷して右手あるいは左手が不自由になってしまったピアニストたちのためにつくられ始めたのがきっかけだそうです。戦争がいかに非文化的な行いであるかを証明しています。音楽史における不幸な一面と言っていいでしょう。

また、脳出血で麻痺してしまったために左手で演奏活動を始めたピアニストもいらっしゃいます。日本人では館野泉さん。現代日本を代表するピアニストです。現在80歳くらいだと思いますが、10年近く前に脳出血で右半身麻痺になり、その後左手での演奏活動を始められました。CDを持っていますが、この演奏もあまりにも感動的です。

名フィル定期(第407回)

今月の名フィル定期は『水ー孤独な男と漁村』と題して
ブリテン:4つの海の間奏曲とパッサカリア
エルガー:序奏とアレグロ
チャイコフスキー:交響曲第4番
指揮者はシャーン・エドワーズ
でした。

指揮者・シャーン・エドワーズは女性です。指揮者はオーケストラに対していわば絶対君主のような立場だからか、女性は圧倒的少数派です。しかし、最近徐々に増えており、日本人でも松尾葉子や新田ユリなどオーケストラのチラシでよく目にするようになりました。

今回はメインとなるチャイコフスキーはまずまず有名曲としても、前半の2曲がかなりマイナーなためかお客さんの入りは今ひとつでした。非常に素晴らしい演奏だっただけに残念です。

1曲目の作曲家、ブリテン(Brittenです)はイギリスの作曲家、1913年生まれですから今年が生誕100年。ヴェルディとワグナーの生誕200年の影に隠れてしまい、私も忘れていました^_^;

中学校などの音楽室に音楽の歴史年表のようなものが貼ってあることが多いですが、その中にブリテン作曲の『青少年のための管弦楽入門』が紹介されていると思います。授業で聴いた人もいるのではないでしょうか。

実は私は聴いたことがありません、たぶん。CDを持っていないことに今になって気がつきました(^_^;

今回取り上げられた曲は《ピーター・グライムズ》というオペラの中で間奏曲などとして、オーケストラだけで演奏される部分を抜粋して作曲者自身が編んだものです。このオペラはブリテンの出世作であると同時に最高傑作に上げられる曲の一つです。(このオペラは数年前にMETライブビューリングでも上映されました。詳細は機会があればいずれ。)

前半の「4つの海」は夜明け、日曜日の朝、月の光、嵐という4つの楽章に分かれていて、それぞれの海の様子を見事に音楽で(単に音ではなく)表現しています。名フィルに演奏も見事σ(^^) 特に冒頭部分、ヴァイオリンとフルートが弱音で長く音を伸ばして始まるのですが、音が鳴った瞬間に日の出前の明るくなり始めた静かな海が広がるようでした。4曲目の嵐は持っているCDの比べてテンポが遅く、やや迫力に欠けましたが、引き続くパッサカリアでのビオラのソロが見事でした。

2曲目、エルガーは弦楽合奏の曲です。CDで聴いている時には全く気にせずにいたので、我ながら情けない。輸入盤CDでほとんど解説がないせいもありますが。

名フィルの演奏はいつも素晴らしいのですが、弦楽器のまとまりにかけるところや迫力のなさに物足りなさを感じていました。弦楽合奏ということもありますが、今回の演奏は見事という他ありませんでした。指揮者の棒のもと、まるで全体が一つの楽器であるかのような演奏で、これぞ弦の音というのを感じました。

家で改めてCDを聴き直しました。ロンドン・フィルハーモニーという超一流のオケですが、CD(さらに我が家のオーディオ)と生の違いはあるものの、昨日の名フィルの方が数段上のような気がします。

To be continued

ユーフォニアムという楽器をご存じですか?

吹奏楽をやっていた方はよくご存じでしょうが、そうでないと???かもしれません^_^;
こんな楽器です(↓)
japantour1
この写真は、昨日のリサイタルのチラシをご本人のHPから拝借しました。

外囿祥一郎は日本を代表するユーフォニアム奏者、今年3月まで航空自衛隊音楽隊=吹奏楽団に所属していて、現在フリーでコンサート活動や後進の指導に当たっておられます。今月はチラシのような全国ツアーとのこと。

ユーフォニアムは吹奏楽では必ず含まれていますが、オーケストラではほとんど使われることのない楽器です。不肖私も中学、高校の吹奏楽部で吹いていました。今回のようなコンサートを聴けることになろうとは思っても見ませんでしたが、ヴィルテュオーゾの名にふさわしい快演(^◇^)、あっという間の2時間でした。

プログラムは上のチラシに目をこらしてください。ただし、誰もが知っている有名な作曲家の曲はありません。そもそも19世紀の半ば頃に金管バンドで使うことを目的につくられたようで、もともと独奏曲もほとんどありません。今回のプログラムは外囿さんがいろんな作曲家に委嘱して作ってもらった曲が中心です。

この楽器の魅力はなんと言っても柔らかく包み込むような音色でしょう。男性のバリトンと同じ音域に当たりますが、長い音のときの微妙なクレッシェンドやディミネンド、そしてときおりビブラートがまじりるかと思えば、スタッカートやアクセントのつく音では弾けるような音、まるで「ヴォッカリース」を聴いているような気分にさせてくれます。(「ヴォッカリース、vocalies」は母音だけで歌う歌のことです)

今回はすべてピアノ伴奏による演奏でしたが、ユーフォニアムの柔らかな音に対してピアノはやや硬質で立つような音で弾かれていました。両者のコントラストによって、ともに引き立て合うような見事な演奏でした。

外囿さんはCDもたくさんだされており、この日もCDを買ってサインをもらってきました。

姫路城と明石城

連休に姫路まで行ってきました。目当ては天守閣を中心に改修工事中の姫路城です。

お天気にも恵まれ、絶好の「お城日和」でした(*^^)v

城郭全体が世界遺産、有名な天守はもちろん国宝です。改修のため、天守全体に覆いがかかったような状態です。しかし、その「覆い」は簡単な足場程度ではなく、鉄筋コンクリート造りで、中には普通のエレベーターがあります。「姫路城大天守修理見学施設《天空の白鷺》」と命名されています(○_○) したがって、一般に公開されていて、簡単にエレベーターで最上階(の外)まで登れて外観を観ることができます。
こんな感じ(↓)です。

IMG_0205

右側は小天守で、左が「乾小天守」、右が「西小天守」、これら天守群は互いに廊下(「渡り櫓」といいます)でつながっていて、全体で「連結式天守」といいます。近くで見ると

IMG_0196

季節外れ?の桜が咲いて散ったあとでした。

《天空の白鷺》に登ってみると、大天守は最上部の屋根を葺き替え、漆喰も塗り終わったあと。白鷺城の白い屋根の正体は漆喰でした(^_^)

IMG_0161   IMG_0164

この大天守は望楼型・五層六階建てですが、上から最上層の窓や2層目の屋根などもこんなふうに近くで見ることができました(↓)

IMG_0175

《天空の白鷺》からは大天守だけではなく、城郭全体もしっかりと見渡せます。

IMG_0159  IMG_0173

見応え十分でした。

また、明石城は天守はありませんが、2つの櫓とこれらをつなぐ渡り櫓が立派です。

IMG_0124

左が「坤(ひつじさる)櫓」、右が「巽(たつみ)櫓」です。この写真の中央奥に天守があったはずで、天守からみて南西側=未申、南東側=辰巳の方角に位置する櫓という意味でしょう。いずれも阪神淡路大震災で石垣部分などがかなり損傷したため、修復されています。

チャイコフスキーつながり

紹介した《エフゲニー・オネーギン》は1877年・チャイコフスキー37歳の時に完成、2年後に初演されています。ほぼ同時期に作曲したのが有名なバレエ音楽《白鳥の湖》です。また、交響曲第4番も《オネーギン》と並行して作曲されたようです。

このころのチャイコフスキーは、人生で最も苦しい時期を過ごしていました。

当時、チャイコフスキーはモスクワ音楽院で教鞭を執っていましたが、教え子の女性から求愛され、結婚します。現在では彼は同性愛者だったといわれていますが、彼の時代(帝政ロシア)にあって同性愛は犯罪と同義だったそうで、これを糊塗するためだったのかもしれません。もちろんうまくいかず、また、この女性も音楽院で学んだにもかかわらず、チャイコフスキーの仕事を理解せず、結婚生活は1ヶ月で破綻。チャイコフスキーは自殺未遂までしてしまいます。

交響曲第4番は、ちょうど結婚前後に作曲されていたようで、非常に重い課題を背負ったような曲です。その後、療養と気分転換のためにイタリアなどを旅行しながら、《白鳥の湖》、《オネーギン》を完成。ストーリーが彼の体験とオーバーラップするようです。(《白鳥の湖》も元来は悲劇です)

実は、このチャイコフスキー・交響曲第4番、次回の名フィル定期のメインプログラムです。奇しくも、同じ作曲家がほぼ同時期に作曲された異なったジャンルの曲を堪能できます。(^_^)v 

先週あたりから「チャイコフスキー漬け」です(^_^;

MET新シーズン:エフゲニー・オネーギン

いよいよMET(メト)ライブビューイングが始まりました。文化の日前後の土曜日からと決めているようで、今年は昨日から。毎年通っていますが、いいものはやはり飽きがこないというか、待ちに待った開演です。(宣伝はHPを観てください

ニューヨークにあるメトロポリタン歌劇場、リンカーンセンターの中にあるそうですが、世界トップクラスのオペラハウス=歌劇場です。オペラ普及のために、ライブをそのまま映像配信していて、世界中の映画館で視聴できます。

英語字幕(多分)のため、欧米向けにはまさに「ライブ」ですが、日本向けには松竹が日本語字幕をつけて3~4週間遅れで配給しています。そのかわり、土日を含めて1週間にわたって上演してくれるので、多少忙しくてもなんとかなります。音響設備などの条件が厳しいそうで、この辺りでは名駅のミッドランドシネマ、毎日10時からの1回だけ。

さて、今シーズンの開幕は
チャイコフスキー:歌劇《エフゲニー・オネーギン》
文豪プーシキン原作の小説をもとにした傑作です。

以前にサンクト・ペテルブルクの劇場の来日公演でも観ましたし(ここ)、ライブビューイングでは数年前にも同作を取り上げています。必ずしもメジャーではない割に、3回目。今回のMETは新演出。もちろん出演する歌手もスター歌手を並べてのオープニングです。

すれ違いの恋の物語ですが、ロシアの風俗、衣装や調度品、習慣などはチャイコフスキーが生きた19世紀末に設定して再現しているようで、なかなかリアルでした。(ちょっと前に見た映画『アンナ・カレーニナ』とよく似ていました。)

今回の上演の注目は主人公のオネーギンではなく、ヒロインのタチアナ、現代のディーヴァ、アンナ・ネトレプコが演じています。表現力には定評があるのですが、一人の女性の成長?を見事に演じてくれました(。)カンド-

物語では、タチアナが、前半は田舎の地主の娘としてのんびりと育ち、都会からやってきた青年貴族オネーギンに恋をしてあっさり失恋。ここで、タチアナが徹夜でラブレターを書くシーン(「手紙の場」)での長大なアリアがこのオペラのハイライトです。ここまではやや茫洋とした少女として演じられます。ところが、後半では国の有力貴族の夫人となって、首都であるサンクト・ペテルブルクの社交界の華となっています。見事に変身して、衣装はもちろん、顔つきや歌声までもが変わっていました。すぐれた舞台だからこそ体験できる醍醐味です(^○^)

今シーズンは現在上映中の《エフゲニー・オネーギン》を含めた10作。ロシアものが多いのですが、一般的に有名なのはプッチーニの2作、《トスカ》と《ラ・ボエーム》です。ともに少し前に紹介した《蝶々夫人》と並ぶプッチーニの傑作です。逆に、モーツァルトの《コジ・ファン・テュッテ》とロッシーニの《チェネレントラ》(シンデレラのイタリア語)の2作は喜劇。休憩を入れて2時間はから4時間、特別価格で¥3.500。お好みは?(^_-)