名フィル定期《第462回》 シェイクスピア《ロミオとジュリエット〉

 先週末(11月22,23日)に名フィルの11月定期があり、《文豪クラシック》シリーズ第7回、シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』をテーマに
ショスタコーヴィチ:スケルツォ嬰ヘ短調
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調
プロコフィエフ:バレエ『ロミオとジュリエット』[抜粋]
ヴァイオリン独奏:辻彩菜
指揮:円光寺雅彦(名フィル正指揮者)
で行われました。

 あまりポピュラーではない曲の組み合わせで、お客さんの入りも今ひとつ。ソリストと協奏曲の組み合わせもどうかなと思いながら聴き始めました。

 今回の選曲は、ともに20世紀を代表する旧ソ連の作曲家による作品です。ともに交響曲の作曲家としても有名ですが、今回演奏された協奏曲やバレエの音楽もたびたび演奏されています。

 1曲目はショスタコーヴィチの「作品1」、わずか14歳で作曲したそうです。元々はピアノ曲だったようですが、本人が管弦楽化。さわやかで、コンサートのオープニングには最適の音楽でした。後の彼の交響曲や、今回演奏された協奏曲を知っていると、同一人物がつくったとは思えないほど。典型的なオーケストラの編成ですが、各楽器がうまく使い分けられています。管楽器にもソロが割り当てられて、名フィルの奏者達も楽しそうでした。指揮者の円光寺のつくり出すサウンドは、暖かく柔らかで、ほっとする響きに満ちています。こうした曲の演奏にはうってつけでしょう。

 2曲目のヴァイオリン協奏曲は難曲として有名で、以前は演奏される機会も稀だったようですが、近年は頻繁に取り上げられています。名フィルの演奏会で聴くのは今回で3回目、1回は7年前の定期演奏会(第385回定期、ソリストはアリーナ・イヴラギモヴァ)、もう一回はさらに前の特別演奏会(たぶん『コバケンスペシャル』、ソリストは名フィル・コンサートマスターの後藤龍伸)だったと思います。今回のソリストの辻は弱冠21歳、大垣市出身で、2年前にカナダの国際コンクールで優勝して一躍有名になりました。現在は東京音楽大学の学生。各地のオケとも共演を重ねる俊英です。今回の演奏会でゲストコンサートマスターを務めた荒井英二さんの愛弟子、名フィル・アシスタントコンサートマスターの矢口さんは中学、高校時代の先生だそうです。

 いつも予習して臨みますが、ショスタコーヴィチの作品は私にはとても聴ききれない曲です。この協奏曲は4楽章構成で、第1,第3楽章は遅いテンポでヴァイオリン独奏が中心。逆に、第2,第4楽章はオケとヴァイオリンが激しく掛け合うような曲調です。やはり聴き応えがあったのは第1,第3楽章。鬼気迫るものを感じるほどに、ソリストの放つ高い緊張感で感情全体が圧倒されました。第2,第4楽章ではやや音が細いかなと感じましたが、重音が連続するパッセージなどはとんでもなく難しいのでしょう。

 ソリスト・アンコールは、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番ホ長調BWV1006より、第3楽章『ロンド風ガヴォット』でした。おそらく誰もがきいたことのあるメロディーです。ショスタコーヴィチで激しく揺さぶられた感情がしっとりと落ち着きました。

 メインはショスタコーヴィチよりも少し前の時代の作曲家、プロコフィエフの代表作です。題名の通り、シェイクスピアの戯曲をそのままバレエとして演じるための音楽。全体では約2時間の大作ですが、その中からストーリーにあわせて9曲を、指揮者の円光寺が選曲したプログラムです。
1.モンタギュー家とキャピレット家
2.朝の踊り
3.少女ジュリエット
4.マドリガル
5.メヌエット
6.仮面
7.ロメオとジュリエット
8.タイボルトの死
9.ジュリエットの墓の前のロメオ

 『ロメオとジュリエット』のストーリーは説明するまでもないでしょうが、このバレエも比較的よく演じられるようです。音楽としては「モンタギュー家とキャピレット家」を表す曲が最も有名で、テレビCMやドラマのBGMなどでもたびたび使われていて、聴いたことのない人はいないでしょう。メヌエットから仮面の3曲は、キャピレット家の舞踏会の情景で、最後はロメオが自ら命を絶つ悲しい場面の曲で終わります。

 オケの編成も大きく、管楽器では通常の編成の他に、バス・クラリネットやコントラ・ファゴット、テナー・サックス、さらにはピアノ、ハープ、多くの打楽器が活躍します。色彩あふれる響きで見事に情景が描写されています。今回の名フィルは弦楽器がよく鳴って、管楽器とうまく咬み合っていたように感じました。前回の『千人』の印象が強いためか、全体のインパクトはやや弱かったか。

 本を正せば同じ題材に寄っているにもかかわらず、9月定期の『ウェストサイド物語』とは、何もかもが全く異なる音楽でした。比較するのがまちがっていますが、このような違いを感じられるのもクラシック音楽の醍醐味です。

 来月から演奏会も会場が、栄の愛知県芸術劇場・コンサートホールに変更、いえ戻ります。名古屋の地下鉄の車内にもポスターが貼ってあるので見た方もいらっしゃるでしょう。12月定期(12月7日、8日)は、現代を代表するピアニスト、ゲルハルト・オピッツのピアノ独奏で、大好きなシューマンのピアノ協奏曲です。

METライブビューイング《アイーダ》

 コンサートや演劇、歌舞伎などの録画を映画館で上映する「ライブビューイング」がこの数年盛んになってきています。その先鞭となったのが、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されるオペラを映画形式で上映する『METライブビューイング』です。国内では松竹が配給していますが、もちろんメトロポリタン歌劇場(通称MET)の企画で世界中に発信されていて、今年で13年目です。現地では”The MET; Live in HD series”呼ばれています。HDはhigh definition(高解像度、高画質の意)の略です。

 欧米の歌劇場は秋から初夏がシーズンで、メトロポリタン歌劇場も毎年9月から5月末までがシーズンです。この中から、毎年10演目程度を、欧米ではほぼ全てライブ(ただし1日1回限り)で、日本では日本語字幕をつける都合もあり、2~3週間遅れで上映されます。そのかわり、1週間(演目によっては1日2回上映)上映されます。このあたりでは名駅のミッドランドスクエアシネマで上映されます。

 今シーズンの予定はここ(https://www.shochiku.co.jp/met/)に紹介されています。

 オープニングは
  ヴァルディ:歌劇《アイーダ》
です。ミュージカルにもなっているようですからご存じの方も多いでしょう。また、第2幕の凱旋行進曲はサッカーの応援歌にもアレンジされています。(ここ:https://www.youtube.com/watch?v=tnjs2ZFrKwA で聴けますが、応援歌に使われているメロディーは途中から出てきます。)

 オープニングということもあり、配役も主役級か並び、これぞオペラというすばらしい上演でした。ライブビューイングでは数年前にも1度取り上げられていますが、そのときは感想を書かなかったようです。今回はあらすじも含めて感想をまとめておきます。

 この作品はエジプトのスエズ運河の開通を祝ってカイロに建てられた歌劇場のこけら落としのためにヴァルディに作曲が委嘱されたオペラです(実際にはこけら落としとしては上演されていないようです)。初演は1871年。舞台は古代のエジプトで、隣国であるエチオピアとの戦争状態の中での恋愛悲劇です。YouTubeでも聴くことができます(イタリア語と日本語の対訳付きですが、映像はありません)ので、興味があればどうぞ。(ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、主役のアイーダはレナータ・テバルディという往年の名歌手です)

 主な登場人物は4人、
アイーダ:アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)
アムネリス:アニータ・ラチヴェリシュヴィリ(メゾ・ソプラノ)
ラダメス:アレクサンドル・アントネンコ(テノール)
アモナズロ:クイン・ケルシー(バリトン)
 主人公であるアイーダはエチオピアの王女でありながら、エジプトのエチオピア侵略の際に捕虜とされ、エジプトの王女であるアムネリスの侍女をしています。アイーダは身分を隠してアムネリスに仕えながら、エジプトの若き将軍であるラダメスと相思相愛の関係にあります。実はアムネリスもラダメスに恋心を抱いていますが、アイーダとラダメスの関係には気づいていません。

 第1幕(https://www.youtube.com/watch?v=QiqkCZnRgxg)では、エチオピアの侵攻を受けてエジプトはラダメスを総大将に任命。アイーダは自らの祖国を討伐するために出征する恋人を悲痛な思いで見送ります。冒頭のラダメスのソロ(「清きアイーダ」)と、アイーダとラダメス、そしてアムネリスの三重唱が聴き所。「清きアイーダ」もよかったのですが、やはり主役アイーダを歌ったアンナ・ネトレプコの存在感がぬきんでていました。現在世界最高のソプラノ歌手と言ってもいいでしょう。表現力がずば抜けています。始まりだからか、やや声につやがなかったような気もしますが、時間とともに輝きを増していきました。

 第2幕(https://www.youtube.com/watch?v=kkVSeYwKxps)では、エチオピア軍を破ったラダメス率いるエジプト軍の凱旋で始まります。ここで有名な凱旋行進曲が演奏されますが、このとき使われているのが「アイーダトランペット」という、通常のトランペットよりも管の長い特殊な楽器です。この曲のためにヴェルディがリクエストしたそうで、他で使われている曲を知りません。連行されたエチオピア軍の中に、アイーダの父親がいます。エチオピア王という身分を明かさず、アイーダの父親として捕虜となります。一方で、アイーダがラダメスを愛していることがアムネリスに悟られてしまいます。ここでは舞台機構を最大限に利用したダイナミックな演出と、100人を超える合唱が圧巻です。凱旋行進では本物の馬も舞台上を闊歩し、スケールの大きさが違います。ここではバレエも披露され、音楽に舞踊、美術が一体となっていて、オペラが総合芸術であることを実感させてくれます。

 第3幕(https://www.youtube.com/watch?v=-fKqH0EBgjc)では第2幕の華やかさが一転します。エジプト王は戦い勝利の祝いとして、ラダメスを王女アムネリスと結婚させ、さらに自らの後継者に指名します。傷心のアイーダは深夜にナイル川のほとりで父親であるアモナズロから、ラダメスを口説いてエジプト軍の機密を聞き出すようにそそのかされます。現れたラダメスとアイーダはともに逃げようと相談する中で、隠れていたアモナズロに気がつかないままラダメスはエジプト軍の機密を口にします。アモナズロとアイーダの身分を知ってラダメスが驚いているところへアムネリスが現れますが、アモナズロとアイーダを逃がしたラダメスは捕らえられます。この3幕ではほとんど合唱がなく、登場人物達の独唱と重唱です。それぞれの個性が生かされていて、聴き応え十分でした。できれば生で聴きたかった。中でも、幕冒頭のアイーダのアリアではネトレプコの歌に聴き惚れました。歌劇場でも拍手が長く続いていましたが、今シーズンのパンフレットではネトレプコの声について「馥郁と立ち昇る豊かな香り、厚みを感じられるしっかりとしたダークな色合い、まろやかな濃く・・・・」と表現されていました。まるで高級ワインのようですが、まさにその通りでしょう。
 アイーダという役はソプラノでもやや重めの声質を要求され、ただきれいな声というだけではとても歌えない難役です。昨年も別の歌劇場で歌っていてテレビで見ていますが、表現力に磨きがかかっているような気がしました。

 第4幕(https://www.youtube.com/watch?v=ng1rmODkyAw)、フィナーレですが、冒頭でラダメスを捕らえたアムネリスが、恋しさのあまり助命を嘆願します。しかし、ラダメスが死を望んだため果たせず、悲嘆に暮れる様子を、約15分くらいにわたってほぼ独唱します。メソ・ソプラノとしてはかなり重量級の役どころですが、ラチヴェリシュヴィリはネトレプコに負けない力強さで聴衆を圧倒しました。まだ若い歌手で、これまでも何度か見ていますが、将来が楽しみです。ラダメスの処刑は石室に閉じ込めての処刑。アイーダが予期したのか、すでに石室に入っており、二人は天国で結ばれることを願いながら息を引き取ります。このシーンでの音楽が実に美しい。


 主役のアンナ・ネトレプコは2年前の春に名古屋でリサイタルがありました。こんな機会は二度とないかもしれないと、大枚をはたいて聴きに行きました。記録はここ(http://physiol.poo.gs/blog-2/files/88b4ceeb31430544a3d80c4da9011c92-236.html)にあります。CDもたくさん出している歌手です。是非一度聴いてほしいものです。

 今シーズンのラインアップでは、今回と同じくヴェルディの《椿姫》やビゼーの《カルメン》が特に有名です。どちらもオペラになじみがなくても十分に入っていける作品です。興味のある方は是非。

名フィル《コバケンスペシャル》 十八番の幻想

 先週の水曜日、名フィルの桂冠指揮者である小林研一郎の指揮で
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲
ベルリオーズ:幻想交響曲
ヴァイオリン独奏:徳永二男
指揮:小林研一郎
というプログラムでの演奏会がありました。

 小林は”コバケン”の愛称で知られる日本を代表する指揮者。1998年から2003年まで、名フィルの音楽監督を務めました。名フィルとの相性もよく、観客にも親しまれたキャラクターから、現在は桂冠指揮者として年に1、2回、自身のプログラミングによる特別演奏会を『コバケン・スペシャル』として指揮しています。

 今回の独奏を務めた徳永はNHK交響楽団(N響)のコンサートマスターを務めた、名ヴァイオリニストです。教育テレビで放送されるN響の演奏家で何度も見ていましたが、生で聴くのは今回が初めてです。


 ブルッフは1838年生まれのドイツの作曲家、指揮者、教育者です。作曲ジャンルはオペラ、交響曲、室内楽など多岐にわたっているようですが、現在のオーケストラのレパートリーとしては今回演奏されたヴァイオリン協奏曲などわずかです。1866年に作曲者自身の指揮で初演されました。同時代に作曲された有名なヴァイオリン協奏曲には、メンデルスゾーン(1845年初演)、ブラームス(1879年初演)、チャイコフスキー(1881年初演)などが有名ですが、それに次いで演奏頻度が高いのではないでしょうか。

 甘美なメロディーが随所に現れ、何度聴いても飽きないすばらしい曲です。独奏ヴァイオリン・徳永は安易にメロディーを歌うのではなく、しっかりした音でやや硬い雰囲気の演奏でした。オケともぴったりと息が合い、長年一緒に演奏しているかのようでした。

 ソリストアンコールを期待していたら、コバケンとの対談でした。コバケンの指揮者デビュー、1972年だそうですが、そのときのオケ(東京交響楽団)のコンマスが徳永さんとのこと。あまり内容のない話でしたが、舞台でソリストの話し声を聞く機会はほとんどないためおもしろいアイデアです。

 幻想交響曲は1830年初演、ベートーヴェンやシューベルトの没後すぐの時期に作られていたことが不思議に思えるくらい、奇想天外な曲です。

 『交響曲』と銘打ちながら5楽章構成、それぞれに表題があり、物語の一場面を描くように構成されています。ストーリーは別途紹介しようと思いますが、楽器の構成も木管楽器の中でファゴットだけが4本もあるかとと思えば、舞台裏からオーボエが聴こえたり(今回の演奏では2階席の後方でした)、さらにテューバの2本、ティンパニも2セット、おまけに鐘までも入ります。

 コバケンの指揮は、時にオーバーアクションかと思うくらいに強弱をつけていますが、それぞれが見事にはまっているため、聴いていてわくわくさせられます。オケもコバケンのタクトに応えながら、個人技とアンサンブルを見事に組み合わせた名演でした。今シーズンの名フィルのベストではないでしょうか。聴きに行ったかいがありました。

 幻想交響曲は、大学2年のときに名大オケで、何と今回と同じ小林研一郎の指揮者で演奏したことがあります。当時は小林もまだ若く(と言っても40代ですが)、アマチュアも振ってくれていました。自分たちで何度練習してもうまく合わないところが1回でぴたっと合い、「これが一流の指揮者というものか」と感じたものです。また、今回の演奏では、30年前と比べて振り方が全く同じ場所が何カ所もあり、懐かしさがなおさらこみ上げてきました。

 来シーズンには『コバケン・スペシャル』は予定されていませんが、定期演奏会で《幻想交響曲》がプログラミングされています。(来シーズンの予定はここ:https://www.nagoya-phil.or.jp/news/news_2018_08_29_090155)。