小山実稚恵リサイタル:ゴルトベルク変奏曲

先週の土曜日(10/17)、これまでも何度かきいているピアニスト・小山実稚恵さんのリサイタルに行きました。名古屋・栄の宗次ぐホールです

12年間、半年に1回ずつ、それぞれにテーマを決めて行われる連続コンサートで、今回が20回目。今年がご本人のデビュー30周年ということもあり、2と3にかけたプログラムです。

プログラムは
シューマン:花の曲
J.S.
バッハ:ゴルトベルク変奏曲(アリアと30の変奏曲)
ピアノ独奏:小山実稚恵

小山さんは1982年のチャイコフスキー・コンクール3位、1985年のショパン・コンクール4位、この2大国際ピアノコンクールで共に入賞している唯一の日本人です。

さて、バッハのゴルトベルク変奏曲は、冒頭に演奏される「アリア」を基にして次々と変奏が続くもので、題名の通り「変奏曲」。最後に改めて冒頭のアリアが演奏されるため、アリア2曲と変奏30曲、テンポの指定が曖昧で人によって差がありますが、およそ70分程度、演奏はもちろん暗譜。演奏する方も聴く方もそうとうの集中力を要する大曲です。

全部で32曲あるわけですが、そもそも冒頭のアリアが32小節で作られています。また、30ある変奏は3曲ずつがひとまとまりで、その3曲目にカノン(輪唱のような形式の曲)が置かれ、カノンも順に音をずらして始まるように作曲されています。そもそも「3」は三位一体を示しています。(バッハは教会のオルガニストで、キリスト教の教義に対する造詣も並々ならぬものがあったそうです) このように、バッハの音楽は非常に数学的、あるいは幾何学的に構築されているところに大きな特徴がありますが、ゴルトベルク変奏曲はその代表のような曲です。

聴いていると心が静まるような気がするので、折に触れてCDをかけています。どちらかというと感情的にならない淡々とした演奏が好みです。元々チェンバロのために書かれた曲ですし、音量の幅を大きくしないような演奏がむいていると思うのですが、この日の小山さんの演奏は全く違いました。クレッシェンドやディミネンドがあちこちにあり、タッチも激しく、ドラマチックな演奏でした。これまでに聴いたことのないタイプ演奏、一緒に聴きに行った友人は「人生を感じた」そうです。順風満帆、紆余曲折、ピアノという1つの楽器の表現力のすばらしさを実感できました。

ゴルトベルク変奏曲はCDの数に比べると演奏機会は少ないような気がします。たぶんテクニックよりも、どのように演奏するかが難しいのでしょう。したがって、気安くリサイタルなどで取り上げるという分けにはいかないのかもしれません。

小山実稚恵さんはCDもたくさん出されていますし、名古屋やその周辺でもよくコンサートを開かれています。来年1月には岡崎市でリサイタルがあります。お近くで興味のある方は是非。

名フィル定期(第428回):イムラギモヴァノのヴァイオリン独奏

今月の定期は先週末(10日・土曜)、テーマは「バッハを温ねて新しきを知る」。なにやら大げさなタイトルですが、3曲のうち2曲でバッハの曲の一部が引用されています。今回の注目は2曲目でヴァイオリン協奏曲とメインのブラームスです。

プログラムは
ルクー:弦楽のためのアダージョ
ベルク:ヴァイオリン協奏曲『ある天使の思い出に』
ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調
ヴァイオリン独奏:アリーナ・イムラギモヴァ
指揮:クリスティアン・アルミンク

第1曲の作曲者・ルクーは今回初めて聞いた名前でした。19世紀後半の作曲家でわずか24歳で亡くなっています。早熟の天才といっていいのでしょう。しかし、弦楽器を主役とした曲が中心のようですが、やはり残された曲は少ないようです。その中で、今回演奏された弦楽合奏のための小品が最も演奏頻度が高いそうです。10分ちょっとの曲ですが、いろんな表情を感じることができます。音楽史的にはロマン派後期にあたり、非常に聴きやすい音楽です。演奏はやや小編成の弦楽合奏、指揮者も指揮棒を持たず、オケのアンサンブルにゆだねているかのような様子も見られました。最近実力が上がってきている名フィル弦セクションの表現力が発揮されていました。また、ヴァイオリン、ビオラ、チェロと各首席奏者のソロも聴き応えがありました。

2曲目のベルクは20世紀初頭に活躍した作曲家で、いわゆる現代音楽、音楽史的には新ウィーン派で、12音音楽の担い手です。この曲も決して聴きやすいものではありません。家の中で掛け流すというタイプではないだけに、生演奏で集中して聴けるのは貴重です。

この曲を生で聴くのは2度目。前回は大ヴェテランの独奏(名フィル第361回定期でオーギュスタン・デュメイの独奏)でしたが、今回は若手。独奏するアリーナ・イムラギモヴァはまだ30歳ですが、バッハから現代物まで幅広いレパートリーを持ち、録音なども高く評価されている天才です。彼女の演奏を聴くのも2度目(名フィル第385回定期でショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番)ですが、前回同様に、はち切れそうな勢いや力強さを感じました。

曲のタイトルになっている「ある天使」とは、作曲者ベルクの友人の娘さん、小児麻痺を患っていたようで、幼くしてなくなりました。バッハが作曲したコラールを題材にして作曲されたそうですが、全体に鎮魂を感じさせる重い曲調です。演奏するにはしっかりと腹を据えないとなかなか音も出せないような雰囲気ですが、独奏とオケが一つになって決して深刻になりすぎることなく聴かせてくれました。

2楽章構成で、あわせて約25分。ヴァイオリン独奏は最初から最後までほぼ弾きっぱなし。そうとうの集中力と体力が必要です。残念だったのはアンコールしてくれなかったこと。金曜日にはあったようなのに。演奏中に聴衆の咳や物音が何度かあったので、ご機嫌を損ねたかな?

メインの交響曲第4番は、ブラームスの最高傑作でしょう。それ以前の交響曲とはややスタイルが異なるところもあるのですが、第4楽章でバッハのカンタータのフレーズをもとに変奏曲形式で曲を組み立てています。前回のベートーベン交響曲第3番の第4楽章と同じ発想ですが、変奏のしかたが全く異なり時代の変化を感じさせてくれます。

ブラームスはクラシック音楽になじみのない方にはあまりなじみはないかもしれません。「子守歌」や「ハンガリー舞曲」など聴けばすぐに分かる曲もいくつかつくっています。交響曲などの管弦楽曲に共通するのは、やや哀愁をおびた曲調であることでしょうか。ただ、聴いているうち中からほとばしる情熱を感じます。元気はつらつではないのですが、芯に熱いものを持っている作曲家です。

今回はどちらかと言えばこの熱いものを前面に出したような演奏でした。指揮者のアルミンクは知的なイケメンという感じで、前半の2曲がややクールな演奏だっただけに、このブラームスには少し驚きました。後半の弦楽器の音にざらつきを感じましたが、第1楽章冒頭(やや暗く始まります)の音はぞくっとするような響きを感じました。どんなに聴き慣れた曲でも必ず新たな発見があるのが名曲たる所以でしょう。