名フィル定期(第461回)ゲーテ『ファウスト』と千人の交響曲

 先週末(10月12,13日)に名古屋市民会館で行われた定期演奏会では、
《ゲーテ『ファウスト』》をテーマに
マーラー:交響曲第8番変ホ長調『千人の交響曲』
  指揮:小泉和裕
  共演:中部フィルハーモニー交響楽団
  第1ソプラノ:並河寿美
  第2ソプラノ:大隅智佳子
  第3ソプラノ:三宅理恵
  第1アルト:加納悦子
  第2アルト:福原寿美枝
  テノール:望月哲也
  バリトン:宮本益光
  バス:久保和範
  合唱:グリーン・エコー、名古屋市民コーラス、名古屋混声合唱団、一宮第九をうたう会、名古屋シティーハーモニー、クール・ジョワイエ
  児童合唱:名古屋少年少女合唱団
が演奏されました。

 題名の『千人』は、この曲が初演されたとき(1906年ミュンヘン、作曲者自身の指揮による)、興業主が規模の大きな曲であることを打ち出すためにキャッチコピーとしてつくったものですが、実際の演奏でもオーケストラ、合唱、独唱者に指揮者まで含めて1,000人を超える奏者によって演奏されたようです。作曲者がつけた表題ではありませんが、日本ではこのタイトルで呼ばれています。

 演奏される機会は少ないですがが、目標として掲げられる曲です。名古屋でも過去に何度か演奏されているのですが、名フィルの定期で聴けるとは思ってもいませんでした。今シーズンは、金山の市民会館大ホールで大勢が載れるステージが利用できるということでプログラムされたようです。

 この曲は大きく2つに分かれていて、第1部ではキリスト教の聖霊降臨祭(キリストの復活・昇天後、集まっている信者達のもとへ天から聖霊が降り立ったという、聖書の物語に由来)のためにつくられたラテン語の賛歌を歌詞として、第2部ではゲーテの戯曲『ファウスト』第2部最終場のドイツ語のテキストがそのまま歌詞として用いられています。大きくは天から精霊が降りてきて、どんなに汚れた魂でも天まで救い上げてくれるという、ストーリーになっていると思います。第2部は原作を読んでおいた方がわかりやすいですが、迫力ある音響と甘美なメロディーが繰り返されるすばらしい曲です。

 第1部がおよそ25分、第2部が1時間弱。演奏者も今回は、オーケストラが130名余、合唱団が300名、児童合唱50名余に8名の独唱者と指揮者で、あわせて500名近い大編成です。

 オルガンの響きと全員合唱で始まった瞬間、鳥肌が立ちました。滅多にないことです。プログラムには歌詞が対訳付きで掲載されていましたので、膝の上で開いていましたが、結局ほとんど見ることはありませんでした。歌詞の詳細が分からなくとも、音楽がその内容を表現してくれているため、十分に感じることができます。オーケストラと合唱、そして独唱が、波が重なり合うようにメロディーを重ねていく様に耳も目も釘付けでした。

 聴きに行ったのは二日目、土曜日でしたが、この日のチケットは完売(満席ということではありません)、開演前のホワイエもいつにもましてお客さんが多く、雰囲気がいつもと違っていました。『千人』だからということで聴きに来られたお客さんも多かったことでしょうが、演奏中は誰しも気は舞台に向かっていて、いつもに比べると客席の物音も少なかったような気がします。

 市民会館は弦楽器の響きが今ひとつのようですが、管楽器、特に金管楽器はよく響きわたり、ロマン派以前ではほとんど目立つことのないトロンボーンの音がよく聞こえていました。木管楽器も、しっかりとまとまった響きができていて、聴き応えがありました。

 舞台は、前にオーケストラ、後が合唱ですが、独唱者達はオケと合唱の間に配置されていました。あまり響かないのではないかと危惧しましたが、杞憂でした。いずれも日本を代表する歌手達、すばらしい歌声を聴かせてくれました。特に、第2ソプラノ(第2部ではグレートヒェンという、ファウストのかつての恋人役を歌います)がすばらしかった。高音を弱音からクレッシェンドするときなど、うっとりとさせられました。

 今シーズンは名古屋以外でも、福岡や東京で別のオーケストラが『千人』を演奏しているようです。外国語を歌える合唱団も増えてきているし、大きなホールもいくつかはあるようですから、今後もどこかで聴く機会があるかもしれません。ヨーロッパでも同様の頻度で取り上げられるようですから、次は是非ともドイツかオーストリアで聴いてみたいものです。

 来月は『ロメオとジュリエット』をテーマに、プロコフィエフのバレエ『ロメオとジュリエット』の抜粋が演奏されます。誰しもがどこかできいたことのあるメロディーが含まれています。