名フィル定期(第472回)《最後の傑作》

 10月の定期演奏会は10月11日に《最後の傑作》と題して行われました。
 今回は、予定されていたソリストが体調不良で来日できずプログラムが変更され、さらに、台風の接近で2日目・土曜日のコンサートが中止になりました。いつもは土曜日に聴きにいっていますが、中止が予想されたので曜日振替で金曜日のコンサートを聴きに行きました。

 プログラムは
   武満徹:夢想
   細川俊夫:結びーハインツ・ホリガーの80歳の誕生日を祝してー(オーボエとイングリッシュホルンのための)
   ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
   シューベルト:交響曲第8番ハ長調『グレイト』
   オーボエ:ハインツ・ホリガー
   イングリッシュホルン:マリ=リーゼ・シュプバッハ
   指揮:ハインツ・ホリガー
でした。

 今回の主役はなんといってもおん年80歳のホリガー。オーボエ奏者にして作曲家でもあり、指揮者。もともと予定されていたプログラムでは、ホリガー作曲のソプラノ独唱を伴うオーケストラ曲が演奏されるはずでした。代わりのソリストが見つからないということで、オケのコンサートとしては異例ですが、二重奏として、ホリガーがオーボエを披露してくれました。また、オケの演奏は、20世紀後半に活躍した日本人、19世紀後半から20世紀初めに活躍したフランス人、そして、18世はじめのオーストリア人と、全くタイプの異なる作曲家の作品を緻密にまとめ上げる力量には脱帽するしかありません。終演後にはオケのメンバーからも指揮者に拍手が送られますが、いつもの演奏会以上の温かみを感じました。

 演奏会やCDでいろんなオーボエの音を聴いてきました。管楽器の中でも音色の違いがはっきりする楽器ですが、うっとりとするような美しい響でした。そして表現力も素晴らしい。今回の来日では、別の会場でリサイタルもやったようです。是非一度聞いてみたいものです。

 さて、本来のプログラムを紹介しておきましょう。武満は1996年に亡くなっていますが、最も世界的に評価された作曲家です。これまでにもいくつかの曲を聴いていますが、メロディーというよりも響きを楽しむような音楽です。特に、今回演奏された『夢窓』は、フルート、クラリネット、チェロ各1、ヴァイオリン2のソリストとフルオーケストラによる15分ほどの音楽です。日本的な響きが続き、題名の通り窓から回遊式庭園を覗き見ているようなイメージとか。一方で、オケの配置は完全にシンメトリカルで、何やら不思議な気持ちにさせられる演奏でした。

 メインはシューベルト。『未完成』交響曲はあまりにも有名なので、曲名はご存知でしょう。また、歌曲の「魔王」は音楽の授業で聴いたことがあるかもしれません。ウィーン・モダン展で肖像画を見ましたが、19世紀初頭のウィーンを体現したような音楽かもしれません。

 今回演奏されたのは、「未完成」交響曲を除いて、シューベルトが完成した7曲のうち、最後に完成させた交響曲です。生前に演奏されることはなく、死の10年後に作曲家のシューマンが発見して、メンデルスゾーンの指揮で初演されました。表題は、同じ調性の第6番が比較的身時間曲であるのに対して、長大な作品であるところからこう呼ばれるようになったそうです。したがって、本人がつけたわけでも、シューマンやメンデルスゾーンがつけたわけでもありませんが、何違わぬ名作です。メロディーが溢れるように流れ、その何れもが次々と異なる楽器に受け継がれていきます。四つの楽章のいずれでも付点音符を含むもチーが用いられているためか、全体に躍動感があります。また、時折弦楽器が弾くオスティナート(執拗反復と訳されますが、同じ音形やリズムが繰り返される)が効果的で、管楽器のメロディーラインをしっかりと支えています。

 数種類持っているCDを聞き比べて予習をしましたが、そのどれよりも速いテンポでした。楽譜では何箇所も繰り返しが支持されていますが、多くの演奏はかなりの部分を省略して演奏時間が50分程度。しかし、ホリガーの指揮は、全てを繰り返して同じ時間。もちろん、演奏が雑になるわけではなく、細部にわたって支持が行き届いていることをうかがわせる完成度で、指揮者がオケを引っ張っているというよりも、オケと指揮者が一体になって音楽が出来上がっていると感じさせる演奏でした。そして、音楽的な完成度だけではなく、80歳にして衰えぬ向上心を感じました。

 シューマンの作品は来週のコンサートで聴く予定です。また、来月の名フィル定期ではメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とベルリオーズの幻想交響曲が演奏されます。