名フィル第483回定期「遺書」
2020/10/14 格納先: 音楽の話題
先週末、10月10、11日のコンサートは指揮者とプログラムと一部が変更になりましたが、旧ソ連・ロシアの作曲家の作品のプログラムでした。
今回からオケも男性は燕尾服で、通常モードの演奏会です。
シチェドリンは1932年生まれ、ご存命です。そもそもめったに演奏される作曲家ではありません(ここを参考に)が、2008年に初演されたこの曲はベートーヴェンのメモリアルイヤーだからこそ演奏されたのでしょう。
タイトルにある“ハイリゲンシュタット“はウィーン近郊の町で、現在はホイリゲなどが有名です。30歳を超え難聴が深刻になったベートーヴェンは、当時保養地として発展していただきハイリゲンシュタットに滞在したときに、兄弟に当てて遺書を認めます。「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれ、現地の博物館に自筆の手紙が保存されています。
しかし、この遺書は自殺を思いとどまり、むしろ絶望から立ち上がり芸術家として生きて行く決意表明のような内容でした。この遺書を書く直前に作曲したのが先月のプログラムにあった交響曲第2番、そして、この後で有名な交響曲第3番を始め後世に残る傑作を次々つくっていきます。
シチェドリンも、妻がユダヤ人だったこともあり旧ソ連の体制下で迫害を受けたそうです。この曲で描かれているのは、ベートーヴェンに自らの生き方と人生を重ねているようです。重く暗く始まりながらも明るく変化していきます。交響曲第5番を思わせるモチーフは連続します。
メロディカルな曲ではありませんからやや聴きにくいですが、聴けば聴くほど味わいがわかってくるような、深みのある一曲でした。
ショスタコーヴィチはご存知でしょう。1906年9月生まれ。交響曲第5番は、日本では『革命』の表題で知られています。ヨーロッパではこのような表題はつけませんが、ショスタコーヴィチの最高傑作でしょう。吹奏楽版に編曲された『祝典序曲』も有名です。
ヴァイオリン協奏曲は2曲作っていますが、第1番は演奏頻度も高く、これまでにも聴いたことことが、第2番はなかなか聴く機会はありません。調性がヴァイオリンには向いていないらしく、また、長大で難解なカデンツァが理由でしょうか。
オイストラフという、当時のソ連を代表するヴァイオリニストのために作曲されただけに、ソリストが中心になっています。第1楽章と第3楽章に壮大なカデンツァ、オケの伴奏を伴わず独奏者だけで自由に演奏するフレーズは、聴きごたえ十分でした。
独唱者の荒井は名フィルの客演コンサートマスターでもありますが、日本を代表するヴァイオリニストであると同時に、ショスタコーヴィチ演奏の第一人者でもあります。何をどう意識したのかわかりませんが、あまり深刻にならず、誰もがショスタコーヴィチを受け入れられるように配慮されたようにも聴こえました。
ソリストアンコールは、やや異例ですが、デュエットでした。長年の友人とのことで、主席チェロ奏者の太田さんと、シチェドリン(荒井英治編曲)の『アルベニスの様式で』でした。かなり高度な技巧をちりばめた楽しい演奏でした。
休憩を挟んでのメインプログラムは、ショスタコーヴィチの交響曲。15曲つくった交響曲の中で、第5番を除けば演奏頻度が高い曲です。1945年夏に作曲され、秋に初演されています。ベートーヴェンやドヴォルザーク、マーラー、ブルックナーと名だたる交響曲作曲家の「第9番」はすべて大曲で、かつ傑作とされています。終戦を寿ぐ意味もあり、壮大な曲を期待されたようですが、あえて皮肉ったのか、ディヴェティメントのような軽いタッチの曲です。
ディヴェルティメントは、喜遊曲と訳され、18世紀後半、モーツァルトなどが活躍した時代にサロンの音楽としてもてはやされました。小編成で、管楽器を含む場合にはソロが大活躍します。
初演の評判は悪かったようですが、海外では人気を得て、現在に至っています。5楽章、30分程度、ショスタコーヴィチ独特のシリアスな響きもあまりなく、管楽器のソロを随所に織り交ぜたなじみやすい曲です。
広上の指揮は一度見たら忘れない動きかた、振り方をしますが、協奏曲では比較的おとなしい振り方でした。一方、交響曲は曲調もありますが、彼独特の踊っているような振りぶり。もちろん、一つ一つに意味があり、オケをしっかりと束ねた隙のない演奏でした。第9番を演奏する場合の他の編成が分かりませんが、今回は比較的小さめの編成でした。全体の音がしっかりとまとまり、弦楽器の響きといい管楽器のソロといい、穴がありませんでした。
第4楽章には長大なファゴットのソロがあり、最大の聴きどころでしょうか。オケの曲の中で、これほどに長い、それも他の楽器の音が混じることのないファゴットのソロは他にはないでしょう。今回は首席奏者のゲオルグ・シャシコフ(ブルガリア出身)が担当、いい音でした。
広上さんが振った時はオーケストラアンコールがいつもあるような気がします。今回はショスタコーヴィチ:タヒチ・トロット 作品16[原曲 ユーマンス:二人でお茶を]でした。なんと、ヴァイオリンの荒井さんがチェレスタをお弾きになりました!!どういう契約をしたんだろうか?
来月は、11月6、7日で
- シチェドリン:ベートーヴェンのハイリゲンシュタットの遺書〜管弦楽のための交響的断章
- ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第2番嬰ハ短調
- ショスタコーヴィチ:交響曲第9番ホ長調
- ヴァイオリン独奏:荒井英治
- 指揮:広上淳一
今回からオケも男性は燕尾服で、通常モードの演奏会です。
シチェドリンは1932年生まれ、ご存命です。そもそもめったに演奏される作曲家ではありません(ここを参考に)が、2008年に初演されたこの曲はベートーヴェンのメモリアルイヤーだからこそ演奏されたのでしょう。
タイトルにある“ハイリゲンシュタット“はウィーン近郊の町で、現在はホイリゲなどが有名です。30歳を超え難聴が深刻になったベートーヴェンは、当時保養地として発展していただきハイリゲンシュタットに滞在したときに、兄弟に当てて遺書を認めます。「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれ、現地の博物館に自筆の手紙が保存されています。
しかし、この遺書は自殺を思いとどまり、むしろ絶望から立ち上がり芸術家として生きて行く決意表明のような内容でした。この遺書を書く直前に作曲したのが先月のプログラムにあった交響曲第2番、そして、この後で有名な交響曲第3番を始め後世に残る傑作を次々つくっていきます。
シチェドリンも、妻がユダヤ人だったこともあり旧ソ連の体制下で迫害を受けたそうです。この曲で描かれているのは、ベートーヴェンに自らの生き方と人生を重ねているようです。重く暗く始まりながらも明るく変化していきます。交響曲第5番を思わせるモチーフは連続します。
メロディカルな曲ではありませんからやや聴きにくいですが、聴けば聴くほど味わいがわかってくるような、深みのある一曲でした。
ショスタコーヴィチはご存知でしょう。1906年9月生まれ。交響曲第5番は、日本では『革命』の表題で知られています。ヨーロッパではこのような表題はつけませんが、ショスタコーヴィチの最高傑作でしょう。吹奏楽版に編曲された『祝典序曲』も有名です。
ヴァイオリン協奏曲は2曲作っていますが、第1番は演奏頻度も高く、これまでにも聴いたことことが、第2番はなかなか聴く機会はありません。調性がヴァイオリンには向いていないらしく、また、長大で難解なカデンツァが理由でしょうか。
オイストラフという、当時のソ連を代表するヴァイオリニストのために作曲されただけに、ソリストが中心になっています。第1楽章と第3楽章に壮大なカデンツァ、オケの伴奏を伴わず独奏者だけで自由に演奏するフレーズは、聴きごたえ十分でした。
独唱者の荒井は名フィルの客演コンサートマスターでもありますが、日本を代表するヴァイオリニストであると同時に、ショスタコーヴィチ演奏の第一人者でもあります。何をどう意識したのかわかりませんが、あまり深刻にならず、誰もがショスタコーヴィチを受け入れられるように配慮されたようにも聴こえました。
ソリストアンコールは、やや異例ですが、デュエットでした。長年の友人とのことで、主席チェロ奏者の太田さんと、シチェドリン(荒井英治編曲)の『アルベニスの様式で』でした。かなり高度な技巧をちりばめた楽しい演奏でした。
休憩を挟んでのメインプログラムは、ショスタコーヴィチの交響曲。15曲つくった交響曲の中で、第5番を除けば演奏頻度が高い曲です。1945年夏に作曲され、秋に初演されています。ベートーヴェンやドヴォルザーク、マーラー、ブルックナーと名だたる交響曲作曲家の「第9番」はすべて大曲で、かつ傑作とされています。終戦を寿ぐ意味もあり、壮大な曲を期待されたようですが、あえて皮肉ったのか、ディヴェティメントのような軽いタッチの曲です。
ディヴェルティメントは、喜遊曲と訳され、18世紀後半、モーツァルトなどが活躍した時代にサロンの音楽としてもてはやされました。小編成で、管楽器を含む場合にはソロが大活躍します。
初演の評判は悪かったようですが、海外では人気を得て、現在に至っています。5楽章、30分程度、ショスタコーヴィチ独特のシリアスな響きもあまりなく、管楽器のソロを随所に織り交ぜたなじみやすい曲です。
広上の指揮は一度見たら忘れない動きかた、振り方をしますが、協奏曲では比較的おとなしい振り方でした。一方、交響曲は曲調もありますが、彼独特の踊っているような振りぶり。もちろん、一つ一つに意味があり、オケをしっかりと束ねた隙のない演奏でした。第9番を演奏する場合の他の編成が分かりませんが、今回は比較的小さめの編成でした。全体の音がしっかりとまとまり、弦楽器の響きといい管楽器のソロといい、穴がありませんでした。
第4楽章には長大なファゴットのソロがあり、最大の聴きどころでしょうか。オケの曲の中で、これほどに長い、それも他の楽器の音が混じることのないファゴットのソロは他にはないでしょう。今回は首席奏者のゲオルグ・シャシコフ(ブルガリア出身)が担当、いい音でした。
広上さんが振った時はオーケストラアンコールがいつもあるような気がします。今回はショスタコーヴィチ:タヒチ・トロット 作品16[原曲 ユーマンス:二人でお茶を]でした。なんと、ヴァイオリンの荒井さんがチェレスタをお弾きになりました!!どういう契約をしたんだろうか?
来月は、11月6、7日で
- ワーグナー:歌劇『リエンツィ』序曲
- ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲(独奏:三浦文彰)
- シューマン:交響曲第4番
- 指揮:小泉和裕