ランメルモールのルチア

3連休の最終日、名古屋・栄の芸術文化センター・大ホールで上演された
ドニゼッティ作曲:歌劇《ランメルモールのルチア》を観に行ってきました.

愛知県文化振興事業団の主催で、出演者もオケ(名フィル)も演出もすべて日本人、つまりプロデュースから演奏まで国産のオペラです.指揮者だけは先日名フィルの定期を指揮したマッシモ・ザネッティですが、名古屋でほぼ純国産としてオペラ全曲を聴ける機会はめったにありません.

さて、このオペラは今までにも紹介してことがあるので、ストーリーは譲って(
ここを観てください)、配役を紹介すると、
ルチア(主役、エンリーコの妹):ソプラノ・佐藤美枝子(1998年チャイコフスキー・コンクール第1位)
エドガルド(ルチアの恋人、エンリーコと対立するレーヴェンスウッド家の当主):テノール・村上敏明(少し前に聴いた「ラ・ボエーム」を歌った歌手です;
ここ
エンリーコ(ランメルモールの領主):バリトン・堀内康雄
以上、中心となる3人はいずれも日本を代表する歌手たち.この他にもソロパートがある歌手が4人います.

今回の演出は大きな舞台装置がなく、小道具もあまり使っておらず、照明もやや暗め.冒頭の前奏曲も、指揮者登壇で拍手がこないように、照明を落とした状態で始まりました.「豪華絢爛」な舞台に興味がある人にはやや物足りなかったかもしれませんが、観客を歌手、歌に集中させるようにつくられていました.

今回は1階席の比較的前の方の席だったので、歌手の声もよくきこえ、特に合唱の迫力を十分に堪能できました.また、オペラには慣れていない名フィルですが、演奏もさることながら、舞台上の歌手たちとよくあっていました.指揮者の棒の冴えというべきかもしれません.

一番の注目は主役・佐藤.彼女のようなタイプの声質を「コロラトゥーラ・ソプラノ」といいます.同じソプラノでも特に高音部が要求され、比較的軽めの声質で、声を転がすように歌う曲が多く、超絶技巧が求められます.以前にMETライブビューイングで紹介したナタリー・デセイが有名ですが、デセイは圧倒的な声量と非常に透明感のある声が特徴.これに対して佐藤は、声量こそ及びませんが、ひとつひとつの音を丸く歌い、全体におおらかというか、優しさを感じさせる声が特徴です.

《ルチア》の見せ場、第2幕の「狂乱の場」は、あまり大きな動きを伴う演技ではなかったのですが、ルチアが見、聞いているであろう幻覚や幻聴が、本人にとっては楽しい、あるいはうれしい情景であることをよく表現していたと思います.

名フィル定期(第394回)

少し時間がたちましたが今月の定期は最初の週末にあり、
「オルフェウスの神話:ギリシャ神話、楽園で舞う精霊たちのメロディー」と題して、
グルック:歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」から「精霊の踊り」
モーツァルト:ピアノ協奏曲第26番『戴冠式』
ブラームス:交響曲第1番
指揮はマッシモ・ザネッティ、ピアノ独奏:小菅優
でした.

コンサートの表題は第1曲目に由来しますが、モーツァルト、ブラームスともに楽園でもこんな音楽が奏でられているのかと思わせる音楽です.

「オルフェウス」(言語によって、オルフェ、オルフェオ、オルペウスなどと表記される)はギリシャ神話に登場する吟遊詩人で、竪琴の名人.彼が竪琴を弾くと、森の動物たちが集まって耳を傾けたとか、音楽で病も治したという話が出てきます.

『冥界下り』のストーリーが有名で、日本神話の「いざなぎといざなみ」の話に似ています.妻エウリディーチェが毒蛇にかまれて亡くなると、妻を取り戻すために冥府にはいり、冥界の王の前で竪琴を奏でてエウリュディケー返してくれるように頼みます.悲しい琴の音に説得された冥界の王は、「冥界から抜け出すまでの間、決して後ろを振り返ってはならない」という条件でエウリュディケーをオルフェウスの後ろに従わせますが、冥界からあと少しで抜け出すというところで、不安に駆られたオルフェウスが後ろを振り向いて妻の姿を見たために、エウリディーチェは冥界に戻ってしまうという物語です.

この話は、オルフェウスが冥界に入るところでも竪琴を弾いて番犬(番人?)をうっとりさせてしまうという場面があり、音楽が重要な役割を果たしているので、オペラの題材としてその発祥の頃(1600年頃)から頻繁に取り上げられました.中でも最も有名なのが、このグルックのオペラ.18世紀半ばに作曲された作品です.今回演奏された曲は、このオペラの中で、オルフェウスが冥界へ行く途中で精霊たちと出会ったところで演奏される曲.舞台ではこの曲をバックにバレエが演じられるはずです.

フルートのソロが奏するメロディーは聴き応え十分.当日は普段座って演奏するフルート奏者が終止立って演奏していました.うっとりするような明るく美しい音楽です.

運動会などでおなじみの『天国と地獄』のカンカン踊りの音楽は、オッフェンバックという19世紀のフランスの作曲がつくった和名で『天国と地獄』、原語の直訳では『地獄のオルフェオ』というオペレッタ(喜歌劇)の中で使われている『地獄のギャロップ』という曲です.

この日のメインはブラームスの交響曲第1番.中学校などでの音楽の授業ではブラームスという作曲家はあまり取り上げられないのですが、『ハンガリー舞曲』などで有名です.1833年オーストリア生まれ、モーツァルトなどのようにメロディーが泉のようにあふれてくるというタイプの作曲家ではなく、ベートーヴェン同様に一生懸命に考えて曲を作るタイプの作曲家です.この交響曲第1番はその典型で、構想を始めてから20年以上かけて完成させています.

時間がかかったもう一つの原因は、ベートーヴェンをあまりにも意識しすぎたこと.ベートーヴェンの交響曲を越えた作品を作ろうともがいた末の傑作で、作曲当時、ベートーヴェンの9つの交響曲を次ぐ傑作であるとして「第10番の交響曲」とも言われたそうです.ベートーヴェンの交響曲第5番(いわゆる「運命」)や第9番(いわゆる「合唱付」、「第9」)と酷似したモチーフやメロディーもあるのですが、これらは偉大な先達へのオマージュとも言うべきものでしょう.

クラシック音楽を聴くものにはあまりにもポピュラーで、名演の言われるCDもあまたあり、定期演奏会のような場では知名度ほどには取り上げられることはありません.名フィル(たぶんそれ以外のオケも含めて)で聴くのは今回が初めてですが、実にすばらしい演奏でした.名フィルは全体として弦楽器群が弱いと思っているのですが、今回は管楽器のソロを向こうに回してしっかりとまとまった響きをつくりだしていたように思います.演奏中にコンマスを始めオケのメンバーがいかにも楽しそうで、自分たちでもうまくいっていることが実感できるものだったのでしょう.

今回の指揮者ザネッティはイタリア人で、現在特定のポストには就いていないようですが、コンサートとオペラの両方で高い評価を受けていて、日本では数年前にNHK交響楽団と協演しています.このときの演奏、テレビで視聴しただけですが非常にすばらしい演奏だったのを覚えています.今回も期待に違わぬ手腕を発揮してくれました.チラシに載っていた写真はかなり怖そうな顔つきだったのですが、舞台では柔和なおじさんでした.

来月は名フィル名誉指揮者のティエリー・フィッシャーが得意のショスタコーヴィチを振ります.

ラフマニノフ

 8月は定期演奏会やお休みでしたが、月末にどこかの団体のメモリアルを祝うコンサートがあり、たまたまタダ券が手に入ったので聴きに行ってきました.

 プログラムは
ニコライ:歌劇《ウィンザーの陽気な女房たち》序曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
指揮:角田鋼亮
ヴァイオリン独奏:島田真千子
ピアノ独奏:田村響
「若手音楽家と名フィルを楽しむ夕べ」と題されており、いずれも20代の若手が指揮、独奏を務め、有名曲を楽しむコンサートでした.

 ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番はフィギュアスケートでもおなじみの超有名曲ですが、それだけに生を聴いたことがなく、また、先日の定期(
ここ)で聴いたばかりの田村の独奏ということで抽選に応募しました.ラッキー(^o^) 

 3階席でやや独奏楽器の音が聴こえにくいところもあったのですが、超絶技巧を駆使した難曲を見事に弾ききっていました.

 ラフマニノフは1873年ロシア生まれ.貴族出身ということで、ロシア革命を期にアメリカに亡命.以後、アメリカで暮らし1943年に亡くなりました.作曲家ですが、それ以前にピアニスト、それも音楽史上有数のヴィルトゥオーゾ(卓越した演奏技術を持つ演奏家).ピアノ曲を作曲するに当たっては、自らの高い技術を十二分に生かせるような難曲を書いています.したがって、後生の演奏家たちはそれはそれは大変なことでしょう.

 ラフマニノフの場合には、単に「指が回る」「タッチがすばらしい」というだけでなく、手が異常に大きく、かつ関節が柔らかいという特異体質でした.
手は、「デスハンド(death hand)」が残っているのですが、ピアノの鍵盤で右手の親指を”ド”において、小指が1オクターブ上の"ソ"まで十分届いたそうです.また、右手の人差し指で”ド”、中指”ミ”、薬指”ソ”、小指で”ド”とおいて、余った親指を他の4本の指の下をくぐらせて小指の3度上の”ミ”がたたけたというのです.「マルファン症候群」という細胞間の結合組織を作っている物質がうまくできない先天性の遺伝子疾患だったのではないかといわれています.

 したがって、ラフマニノフが作った曲の中でおそらく最も有名な今回の協奏曲第2番も、自分の持っている特徴を生かした部分がたくさんあります.一番分かりやすいのは冒頭、いきなりピアノのソロで始まるのですが、両手を使って全部で同時に8つの音を和音として鳴らします.右手で4音:ド、ファ、ラ(フラット)、ド、左手で3音:ファ、ド、ラ(フラット).左手は1オクターブ以上離れた音を同時にならすことになるので、手の小さな奏者には不可能です.
今回の田村も、さすがにラフマニノフの手には及ばないらしく、この冒頭部分をアルペジオ(分散和音)=低い方から順に素早くならしていく方法を使っていました.このとき、ペダルを踏んでおけば、指を鍵盤から離しても音は響き続けるので、和音になります.

 もちろん「技術」一辺倒ではなく、名曲たる所以はロシアの大地を思わせるような雄大な雰囲気とメランコリックなメロディーです.

 最後に、今回の指揮者・角田は初めて聴いた(観た)のですが、ドラマ(あるいは映画?)の「のだめカンタービレ」で玉木宏に指揮指導をした方だそうです.たしかに似てました(^。^)

 ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番も「のだめ」で出てきました.のだめがライジングスターのコンサートで聴いて、1回で覚えて、髪の毛を爆発させながら徹夜で練習していた曲です.