名フィル定期(第416回):ドヴォルザーク・ピアノ協奏曲とマルティヌー・交響曲第1番

日本もヨーロッパも夏はシーズンオフ。8月は定期演奏会はお休みで、先週9月定期から再開されました。今月のテーマは
「チェコの1番」
プログラムは
スメタナ:歌劇『売られた花嫁』序曲
ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲
マルティヌー:交響曲第1番
指揮:円光寺雅彦
ピアノ独奏:スティーブン・ハフ
でした。

チェコは昔から音楽どころとして有名だったようで、モーツァルトもプラハに何度か足を運び、大喝采を浴びました。現在もチェコ・フィルハーモニー交響楽団やプラハ国立歌劇場など有名な演奏団体が数多くあります。作曲家で有名なのはなんといっても、今回のプログラムにも入っているドヴォルザークでしょう。19世紀に活躍した作曲家ですが、交響曲第9番『新世界から』で有名です。この他、交響組曲『我が祖国』で有名なスメタナ、村上春樹の小説で有名になったヤナーチェクなどが知られています。

今回はマルティヌーという20世紀の半ばに活躍した作曲家の交響曲第1番がメインです。非常にマイナーな作曲家ですが、多作だったようで、協奏曲やバレエのための音楽なども書いています。チェコ生まれですが、若くしてパリに渡り、第2次大戦前にその言動がナチスににらまれたようで、迫害を逃れてアメリカに渡ります。この後の10年あまりが創作活動の絶頂期のようですが、今回演奏された交響曲第1番もちょうどこの時期の作品。戦争の影響なのか、全体に明るいとはいえない曲調です。特に第3楽章が胸を打ちます。死者への追悼なのか、悲劇に対する慟哭なのか測りかねますが、今きく我々にも過去の悲劇を繰り返してはならないという言葉がきこえてくるかのようでした。

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世紀の音楽はずっと「現代音楽』といわれ続けてきました。どの時代でも、同時代につくられれば『現代音楽』ですが、我々は、現代以前、つまり18、19世紀のメロディー中心の音楽を知っているだけに、現代音楽はなかなか入りにくいところがあります。マルティヌーも6曲の交響曲をつくっており、交響曲全集を買って事前に一通り聴いてみましたが、今回演奏された1番を含めて、口ずさめるメロディーはほとんどなく、楽器の組み合わせによるいろんな響きや、楽器独自のいろんな音の並びかたに特徴があります。映画音楽のような雰囲気を想像してもらえればいいと思います。今回のような機会がないと、聴こうかなとは思わないかもしれません。

今回の演奏会の目玉はやはりピアノ協奏曲と独奏者でしょう。
スティーブン・ハフ(Stephen Hough)は今回初めて耳にする名でしたが、すでにCDを50枚以上リリースしているそうで、母国イギリスでは「20人の現代の博学者」(エコノミスト誌)に選ばれるなど、ピアニストとしてだけではなく、作曲家、としても知られているようです。事前に5枚組のCDを買って演奏具合を聞いてみたのですが、あまり特徴がないかなという印象でした。しかし、生の演奏を観て、聴いてみると、大げさな身振りもなく、情に流されずにピアノという楽器と正面から向かい合って、真摯に音楽をつくっていると感じました。ドヴォルザークの音楽は非常に情緒的で美しいメロディをいかに歌うかがポイントだと思うのですが、感情的な表現ではなく、知的な表現の美しさが印象的でした。

彼のような人を英国紳士というのでしょうか、演奏は知的で冷静、舞台への出入りの際の歩き方にも隙がない。一方で、終演後にはサイン会に応じてくれ、それも、イスに座ってサインするのではなく、ちゃんと立って。その代わり一緒に写真を撮って欲しいと頼むと気軽に肩を組んでくれる気さくさ。かっこいいですね。