ギュスターブ・モロー展

 週末に大阪出張があり、空き時間に天王寺のあべのハルカス美術館で
   《ギュスターブ・モロー、サロメと宿命の女たち展》
を観てきました。

 『出現』はご存じの方も多いでしょう。こんな絵です。
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 19世紀後半にフランス、パリを中心に活躍した画家の一人、モローの代表作です。一度生を観てみたかったので、念願が叶いました。また、モローの名は知っていても『出現』以外の作品はほとんど知らなかっただけに、幅広く触れることができたのも大きな収穫でした。

 サロメに限らず、聖書やギリシャ神話などに登場する多くの女性をモデルにした作品が展示されていました。人物の顔の多くがプロフィール=真横からの像で、写実的ではあるものの全体に平板=二次元的です。神秘的な雰囲気が漂った絵も多く、モロー自身が「何よりも先ず、愛し、少し夢を見なければなりません」と語ったそうで、うなずけます。

 モローは作品数も多いようですが、それぞれに素描や習作を重ねて、緻密に計画を立てて描くタイプだったのでしょう。晩年はアカデミーで教職に就き、マティスなどの画家を育てたというところとも通じるものを感じます。

 10月からは福岡で開催されるようです。

名フィル定期(第471回)《敬愛の傑作》

 定期演奏会は、8月はオフですが9月から再会。今月は6日、7日に《敬愛の傑作》と題して、
   ワーグナー:ジークフリート牧歌
   ブルックナー:交響曲第7番ホ長調
   指揮:小泉和裕
でした。

 ワーグナーはこの夏に体験した2つのオペラの作曲家です。20分足らずの作品で、ワーグナーの妻であるコジマ・ワーグナーへの誕生日プレゼントとして作曲されたもので、小編成のオーケストラのための曲です。

 コジマと結婚までのいきさつを書き出すと長くなるので省きますが、二人とも死別や離婚の後の2度目の結婚で、結婚後の最初の妻の誕生日の翌日の朝に、部屋の前で演奏したとのこと。今でいうところの「サプライズ」ですね。二人には前年に男児が誕生し、ジークフリートと名付けています。当時作曲していた《ニーベルングの指輪》第3作である《ジークフリート》から取られた命名です。そして、『ジークフリート牧歌』には、この《ジークフリート》で用いられた旋律が随所にちりばめられています。YouTubeではここ(https://www.youtube.com/watch?v=891JUSQplzU)がよいでしょう。

 妻と我が子への愛情にあふれるような曲調で、『敬愛』にふさわしい。『牧歌』、原題は”Idyll”で、田舎での生活を描いた短い詩のことを指すようですが、穏やかなメロディーで始まります。途中のホルンやトランペットの響きも印象に残る曲ですが、次の大曲を意識してか、鳴らすというよりも引き締まった演奏でした。

 オケの演奏会でもよく取り上げられ、名フィルで聴くのも2回目です。前回も今回同様に大曲(マーラー:『大地の歌』)との組み合わせでした。

 休憩後のブルックナーの第7番は演奏時間が1時間を越える大曲。ブルックナーという作曲家は、クラシック音楽、特にオーケストラの曲になじみのない方には聞き慣れない名前でしょう。1824年、オーストリアのリンツ近郊の村で生まれています。若い頃はリンツの聖フローリアン教会(図書室が有名です)などでオルガン奏者あるいは宗教音楽の作曲家として活躍していますが、交響曲を作曲しはじめウィーンへ出てきたのは40代になってから。遅咲きの作曲家とされています。同時代にウィーンで活躍した作曲家としてはブラームスが最も有名でしょう。ワーグナーの1世代下です。交響曲は全部で9曲(この他に番号のつかない習作があります)です。後期の作品ほど人気がありますが、個人的に最も好きなのはこの7番、とりわけ第2楽章です。

 ブルックナーはワーグナーを非常に尊敬しており、交響曲第3番はワーグナーに献呈し、『ワーグナー』という表球でつけています。バイロイト音楽祭が始まった時期にも当たり、ブルックナーも訪れています。ワーグナーが亡くなったのは1883年でしたが、ブルックナーがワーグナーが亡くなった知らせを受けたとき作曲していたのが交響曲第7番の第2楽章でした。静かに始まった後、弦楽器が弾くフレーズが非常に印象的で、その後にある悲しみを予感させます。そして、後半の大きな盛り上がりの後にくるコラール風のメロディーはブルックナー自身が「巨匠のための葬送音楽」と述べているように、ワーグナーテューバという、ワーグナーが考案した楽器によるハーモニーで奏でられます。YouTubeではここ(https://www.youtube.com/watch?v=x_IbwlSXHpQ&list=RD7yXIkAK435Q&index=2)が人気があるようです。

 ブルックナーは元々が教会のオルガン奏者だったこともあり、交響曲にも同様の響きを求めたのでしょうか。ホルンやトロンボーン、テューバがハーモニーをつくり、ホール全体が鳴っているように感じるような演奏も多く、今回もそのような演奏を想像していました。ところが、指揮者・小泉の考えなのか、ホール全体に響き渡るというよりは、それぞれの楽器のメロディーや響きがよく聴こえてきました。曲の構成がよく分かり、オケとの距離が縮まるような気もしました。また、第4楽章、元々速めのテンポが指示されていますが、とにかく速い。CDは8種類持っていますが、どれよりも速い。その分、元気よく、引き締まった演奏でした。何事も前向きに進んでいこうというメッセージのようでもありました。

 名フィル定期ではほぼ毎年のようにブルックナーが取り上げられていますが、これまでに6番以外全て聴いています。直近は一昨年3月の第8番(第444回定期)、7番は今回で2回目ですが前回(第386回定期)も実にすばらしい演奏でした。

バイロイト祝祭劇場

 バイロイト音楽祭の会場はバイロイトの旧市街からやや北にある通称「緑の丘」と呼ばれる緑地帯の中にある「バイロイト祝祭劇場(Bayreuther Festspielhaus)」です。全館木造で1876年に完成し、第二次大戦でダメージを受けたようですが、改修されて現在に至っています。

 1年にバイロイト音楽祭の期間、7月終わりから8月終わりの1ヶ月間でだけ使用される劇場です。音楽祭期間中に上演がないのはわずか数日で、1ヶ月の間はワーグナーの作品の中から3~4作品を順番に上演されます。

 ホール内の大きな特徴は、客席のほとんどが平土間、つまりいわゆる1階席で、座席が横一列に端から端まで並んでいて、中央部分などに通路がないこと。通常の歌劇場では舞台と客席との間に大きくスペースを取っているオケピット、オーケストラが入るスペースがほとんど舞台下に位置しています。「神秘の奈落」というそうですが、オケの音は舞台前に空けられたわずかなスペースからホール全体に響いていきます。さらに、座席は木製。座面には少し布が張ってありますがクッションになる詰め物はほとんどなく、背もたれも木製。ホール全体が共鳴板のようにはたらくことを期待しているのでしょうか。

 オケピットは客席からは全く見えません。したがって、指揮者を観ることもなければ、オペピットの明かりが漏れることもありません。座席は横一列と書きましたが、舞台前面がRを描いていて、客席も扇の孤のように配置されています。もちろん、後ろに行くにしたがって階段状に上がっていきます。したがって、どの席からも舞台全体を見ることができ、舞台以外に明るい場所がないだけに観客はただ舞台だけに集中することができます。

 オーケストラオペラの公演に限らず、舞台芸術の多くは、舞台上を明るくして客席を暗くして上演します。現在は照明設備が充実していますから、当たり前のように感じますが、太陽光やろうそくしかなかった時代にはとてもできることではありません。外部の明かりを取り入れて、全体を明るい状態で上演していました。シェイクスピアの演劇を上演していたロンドンのグローブ座は天井がなかったそうです。ガス灯を始め、照明設備が使えるようになったのが19世紀の後半から。そして、現在の舞台上演のように、客席を暗くして舞台に観客の視線を集中させるようにしたのが、このバイロイト祝祭劇場だそうです。