バイロイト祝祭劇場

 バイロイト音楽祭の会場はバイロイトの旧市街からやや北にある通称「緑の丘」と呼ばれる緑地帯の中にある「バイロイト祝祭劇場(Bayreuther Festspielhaus)」です。全館木造で1876年に完成し、第二次大戦でダメージを受けたようですが、改修されて現在に至っています。

 1年にバイロイト音楽祭の期間、7月終わりから8月終わりの1ヶ月間でだけ使用される劇場です。音楽祭期間中に上演がないのはわずか数日で、1ヶ月の間はワーグナーの作品の中から3~4作品を順番に上演されます。

 ホール内の大きな特徴は、客席のほとんどが平土間、つまりいわゆる1階席で、座席が横一列に端から端まで並んでいて、中央部分などに通路がないこと。通常の歌劇場では舞台と客席との間に大きくスペースを取っているオケピット、オーケストラが入るスペースがほとんど舞台下に位置しています。「神秘の奈落」というそうですが、オケの音は舞台前に空けられたわずかなスペースからホール全体に響いていきます。さらに、座席は木製。座面には少し布が張ってありますがクッションになる詰め物はほとんどなく、背もたれも木製。ホール全体が共鳴板のようにはたらくことを期待しているのでしょうか。

 オケピットは客席からは全く見えません。したがって、指揮者を観ることもなければ、オペピットの明かりが漏れることもありません。座席は横一列と書きましたが、舞台前面がRを描いていて、客席も扇の孤のように配置されています。もちろん、後ろに行くにしたがって階段状に上がっていきます。したがって、どの席からも舞台全体を見ることができ、舞台以外に明るい場所がないだけに観客はただ舞台だけに集中することができます。

 オーケストラオペラの公演に限らず、舞台芸術の多くは、舞台上を明るくして客席を暗くして上演します。現在は照明設備が充実していますから、当たり前のように感じますが、太陽光やろうそくしかなかった時代にはとてもできることではありません。外部の明かりを取り入れて、全体を明るい状態で上演していました。シェイクスピアの演劇を上演していたロンドンのグローブ座は天井がなかったそうです。ガス灯を始め、照明設備が使えるようになったのが19世紀の後半から。そして、現在の舞台上演のように、客席を暗くして舞台に観客の視線を集中させるようにしたのが、このバイロイト祝祭劇場だそうです。