METライブビューイング《トゥーランドット》

メトロポリタン歌劇場には非常に多くのレパートリーがありますが、1つのオペラに対していったん演出が決まるとそれを何年も続けます.もちろん指揮者や歌手はその都度変わりますが、同じ大道具、小道具、そして同じ演技で舞台をつくります.今回の『トゥーランドット』は、ゼフィレッリという有名なオペラ演出家の手によるもので、名演出と言われ、もう20年以上続いているようです.とにかく豪華絢爛、オペラが『総合芸術』であることを実感できます.

最近、ディアゴスティーニが「DVAオペラコレクション」というシリーズを始めました.ちょうど昨年末に出た『トゥーランドット』もこのMETの舞台のライブ.20年前の舞台で、カラフを演じたドミンゴも若いです(といっても40代で一番いいときだったかもしれません). 週末から始まるライブヴューイングも同じ演出です.

さて、あらすじですが、

【第1幕】
 舞台は遠い昔の中国・北京、紫禁城前の広場.絶世の美女だが氷のように冷たい心を持つ王女トゥーランドットは「3つの謎を解いた者を夫として迎えるが、謎を解けなかった者は斬首の刑」としていました.この日もまた新たな犠牲者が出て、広場では群衆が刑の執行を待ち異様な興奮に包まれています.
 混乱した広場では、ダッタンの元国王で放浪の身だったティムールと、生き別れになっていた王子カラフが再会.しかし、カラフは斬首の命令を下すために姿を現したトゥーランドットを一目見ると、その美しさに魅せられ、謎解きに挑戦すると言い出します.ティムールに仕えていた女奴隷リューは、ひそかに王子カラフを慕っており、謎が解けなければカラフが死んでしまい、老いた彼の父が取り残されてしまうと泣き崩れました.しかしカラフの決意は堅く、謎解きに挑戦することになりました.
 
【第2幕】
 謎解きの儀式の準備が整い、トゥーランドットが姿を現し、3つの謎解きが始まります.問と答えは、
  1. 全世界はそれを祈願し、全世界は嘆願する.しかし幻影は暁とともに消え、心の中によみがえる.夜ごとに生まれ、朝に死ぬ. ………「希望」
  2. 火炎と同じように燃えるが火炎ではない.それは迷いである.熱は激烈で情熱的なもの.もしおまえが負ければ歯に、冷たくなる. ….…「血潮」
  3. おまえに与える冷たさは火となり、おまえの火は私には冷たさとなる.純白と暗黒.自由にしようとすれば、おまえはもっと充実になり、忠実にしようとすればおまえは王になるであろう. ……「トゥーランドット」
 カラフは見事に3つの謎を解いたのですが、動揺したトゥーランドットは彼の妻となることを拒みます.そこでカラフは「夜明けまでに私の名を明らかにできたら、命を捧げよう」と逆に謎を出します.
 
【第3幕】
 トゥーランドットから「夜明けまでにあの見知らぬ者の名がわかるまで北京では誰も寝てはならぬ」と命令が下され、群衆は血眼になって調べ始めます.そしてカラフと話をしていたとして捕まったのはティムールとリュー.リューは自分だけが彼の名前を知っていると言い、拷問にかけられるが、口を割りません.トゥーランドットに「なぜそんなに耐えるのか」と問われ、リューは「それは愛の力」と言って短剣で自ら胸を刺し自害してしまいます.
 群衆が去り、カラフとトゥーランドットが二人きりになったとき、カラフは拒もうとする彼女にキスをし、自らの名を明かします.夜が明けて、群衆の前でトゥーランドットは彼の名がわかったと勝利を宣言しながらも、「彼の名は『愛』」と叫び、二人は結ばれます.

【作曲】 ジャコモ・プッチーニ(Giacomo PUccini)、ただし、最後の二重唱とフィナーレは、フランコ・アルフィーのの補完
【台本】 ジョゼッペ・アダーミ、レナート・シモーニ
【原作】 カルロ・ゴッツィ(『千夜一夜物語』をベースにした寓話『トゥーランドット』)
【初演】 1926年4月25日、スカラ座(イタリア・ミラノ)
【演奏時間】 約2時間15分、3幕5場
【登場人物】 トゥーランドット(中国の王女):ソプラノ、カラフ(タタールの王子):テノール、ティム−ル(タタール王、カラフの父):バス、リュー(若い奴隷の女、ティム−ルの従者):ソプラノ、ピン、ポン、パン(大臣):テノール2人、バリトン1人、皇帝アルトウム(中国皇帝、トゥーランドットの父):テノール、その他


このオペラはプッチーニの最後のオペラ.第3幕ラストのトゥーランドットとカラフが二人になるシーンの二重唱からは、プッチーニが残したスケッチ(メロディーだけを書きとめたメモのようなもの)を弟子が補筆して完成させました.そのため、このオペラを初演した指揮者トスカニーニは、二重唱の前のリューの死の場面が終わると指揮棒を置き、「マエストロはここのところで亡くなりました」と言って演奏を中断し、全曲演奏は翌日に持ち越されました.

 この曲が作られた当時のヨーロッパは『オリエンタル』ブームで、日本や中国の文芸がはやっていました.北斎や広重の浮世絵が印象派の絵画に影響を与えたというのもこうした背景があります.プッチーニが『蝶々夫人』で長崎を舞台にしたのも、この『トゥーランドット』が北京を舞台にしたのも流行に乗っています.中国調の旋律が流れ、オリエンタルな雰囲気が凝らされていて、見所、聴き所です.
 
 このオペラで最も有名なのが第3幕のカラフのアリア「誰も寝てはならぬ」.トゥーランドットの命令を聞いたカラフが、勝利への思いとトゥーランドット姫への愛を熱烈に歌い上げます.トリノオリンピックの開会式でパヴァロッティが歌い、荒川静香が滑った曲です.歌詞(日本語)は以下の通り.

誰も寝てはならぬ! 姫、あなたもまた 冷たい部屋の中で星を眺めておられるだろう 愛と希望に打ち震えながら! しかし私の秘密はただ胸の内にある 誰も私の名前を知らない! いや、そんなことにはならない、 私はあなたの唇に告げよう! 夜明けの光が輝いたときに! そして、私の口づけが沈黙の終わりとなり、 私はあなたを得る! おお夜よ、去れ! 星よ、沈め! 夜明けとともに私は勝つ! 私は勝つ! 私は勝つ!


 
 このオペラの主人公はタイトル・ロールとしてトゥーランドット.存在感は圧倒的なのですが、オペラの中で重要なポイントとなるのがリュー.私は実は彼女こそがこのオペラの実質的な主人公ではないかと思います.カラフを慕い、自らの命を賭けて彼への愛を表現するリューには、第1幕のアリア「王子、お聞きください」、第3幕のアリア「氷のような姫君の心も」の2つのアリアがあり、特に第3幕はこのアリアを歌ってすぐに自害してしまいます.プッチーニの音楽と相まって、泣けます(;。; )