METライブビューイング ヴェルディ《ナブッコ》

 先週土曜日から今シーズンの4作目である
ヴェルディ作曲:歌劇《ナブッコ》
が上映されています。

 ヴェルディは1813年生まれのイタリアの作曲家。今シーズン第1作目の《トリスタンとイゾルデ》の作曲者であるワーグナーと同い年で、ヴェルディはイタリアオペラの、そしてワーグナーはドイツオペラのそれぞれの19世紀における到達点を築いた作曲家です。

 ヴェルディの作品としては、この後4月に上映される《椿姫》が最も有名ですが、今回の《ナブッコ》はヴェルディにとってのオペラ第3作に当たり、彼の出世作として知られています。

 物語は旧約聖書に取り上げられているいわゆる《バビロン捕囚》を題材とした歴史劇ですが、男女の三角関係や親子の愛憎を織り交ぜて、迫力のある音楽で描き出しています。このオペラの中で最も有名な曲は、独唱ではなく、合唱曲。《行け、我が思いよ、黄金の翼に乗って》の意の歌詞で始まる静かな曲です。イタリア第二の国歌とも言われており、劇中で聴くと、非常に感動的な名曲です。

 キャストその他は
ナブッコ(バリトン):プラシド・ドミンゴ
アビガイッレ(ソプラノ):リュドミラ・モナスティスルカ
フェネーナ(メゾ・ソプラノ):ジェイミー・バートン
イズマイエーレ(テノール):ラッセル・トーマス
ザッカーリア(バス):ディミトリ・ベロセルスキー
指揮:ジェイムズ・レヴァイン
演出:エライジャ・モシンスキー
メトロポリタン歌劇場合唱団、同管弦楽団

 ストーリーを追いながら、聴き所やこの日の上演の感想をまとめておきます。

 舞台は紀元前6世紀のエルサレムと、隣国のバビロン。(エルサレムは当時のユダヤ人の国家であるユダ王国の首都、バビロンはユダの隣国バビロニアの首都)

 物語の前提として、エルサレムに住むヘブライ人(ユダヤ人)の王族の1人であるイズマイエーレはバビロニアとの交渉(たぶん和平交渉)のためにバビロンを訪れるが、交渉は決裂。このとき、バビロニア国王であるナブッコの娘2人がともにイズマイエーレに惚れ込んだようですが、イズマイエーレとうまくいったのは次女のフェネーナ。長女のアビガイッレは拒まれる。

 第1幕は、エルサレムにナブッコ率いるバビロニアの軍勢が迫って、ヘブライ人達がおびえる様子を合唱するところから始まります。ヘブライ人はナブッコの娘のフェネーナを人質にすることに成功。しかし、バビロニア軍はエルサレムに入城。登場後のナブッコ王を演じるドミンゴの演技がすばらしい。ここで、アビガイッレとナブッコ、そして主要キャストと合唱によるコンチェルタートがすばらしい。コンチェルタートとは、各ソリストがそれぞれ異なった歌詞とメロディーで歌うことで、仮に日本語であってもそれぞれの歌詞や歌声は聞き分けられませんが、迫力十分で、これぞオペラという場面です。ナブッコの率いる軍勢によってエルサレムは陥落。神殿も焼き払われ、ヘブライ人はバビロンへ連行されます。

 第2幕以降の舞台はバビロンの王宮。アビガイッレは自らの出生の秘密、ナブッコ王と正妻との子ではなく、奴隷と正妻との間の子であることを記した文書を見つけて衝撃を受ける場面から始まります。アビガイッレは、ナブッコ王が自分ではなく、妹のフェネーナに王位を譲るのではないかと考えます。そこへバビロンの大祭司が現れ、妹のフェネーナがヘブライ人を解放しようとしているのでやめさせてほしい、アビガイッレこそがナブッコの後継者になってほしいと要請。ここで、アビガイッレが父親の王位を奪うと誓うアリアは聴き応えがあります。一方で、イズマイエーレと愛し合っているフェネーナはユダヤ教に改宗。これらのことを知ったナブッコは激怒し、自らが神であると宣言して押さえつけようとすると、突然稲妻が走り集まったもの全てが倒れます。ナブッコも失神して王冠を落とした隙に、アビガイッレが王冠を奪いさります。

 第3幕の冒頭では、アビガイッレが稲妻にうたれたショックのいえないナブッコを言葉巧みに言いくるめて、ヘブライ人捕虜の処刑宣告書に署名させます。ここで言うヘブライ人はユダヤ教徒という意味で、改宗したフェネーナを含んでいます。ソプラノとバリトンの二重唱ですが、ナブッコの錯乱した様子をいかに表現するか、バリトン歌手の表現力の求められるところです。第3幕の最後に歌われるのがヘブライ人達の合唱、遠い故郷を思い、祈りを捧げるかのように歌う《行け、我が思いよ、黄金の翼に乗って》です。イタリアでこのオペラが上演されるときには、ここは必ずアンコールされる、つまり2回歌われると言うことですが、今回の上映で大拍手を受けてのアンコールされました。特にアンコールのほうで涙腺が緩くなりました。

 第4幕の冒頭で、アビガイッレに幽閉されたナブッコが、フェネーナ達が刑場へ連行されるのを見て我に返り、ユダヤの神に許しを請います。その後、駆けつけた部下達とともに、ナブッコは救出に向かいます。フェネーナやヘブライ人達を助けたナブッコは、代わりにバビロニアの神であるベルの偶像を破壊するように命じると、偶像は勝手に壊れてしまいます。企みが破れたアビガイッレは自ら毒を仰ぎ、ヘブライ人達がナブッコをたたえる大合唱で幕。

 なにやら納得のいかない終わり方ではありますが、要所に配された合唱の迫力に圧倒されました。それほど上演頻度の高いオペラではないため、映像でもなかなか見る機会はありません。ナブッコはなかなか難しい役どころですが、名歌手ドミンゴのすばらしい演技に見せられました。

 次回は2月25日からで、グノー作曲の《ロメオとジュリエット》です。もちろんシェークスピアの名作が原作。ロメオ役は甘い声で人気急上昇中のヴィットーリオ・グリゴーロ、ジュリエット役は美しい声と高い技術で人気のディアナ・ダムラウです。