チェコ・フィル:『新世界から』他

芸術の秋、コンサートは目白押し。海外からのメジャーなオーケストラや演奏家も続々と来日しています。今年は出費がかさんだため、秋のシーズンはチェコ・フィルハーモニー管弦楽団一つにしました。

11月1日、日曜日ということもありコンサートはマチネ、昼間のコンサートで2時開演。プログラムは
スメタナ:連作交響詩《わが祖国》から「シャールカ」
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調
ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調「新世界から」
指揮:イルジー・ビエロフラーヴェク(芸術監督・首席指揮者)
ピアノ独奏:ダニール・トリフォノフ

名前の通り、チェコを代表するオーケストラ。日本での通称はチェコ・フィル。創立120年だそうで、創立公演を指揮したのは何とドヴォルザーク。独特の音色と表現力を備えた世界トップクラスのオーケストラです。CDはいくつか持っていますし、テレビでも何度か観ているのですが、生は今回が初めて。「ビロードのような」と形容される弦楽器の響きや素朴でありながらもしっかりとした主張のある木管楽器群の音色など、聴き惚れている間に過ぎた2時間でした。

チェコ音楽の父であるスメタナの代表作が6つの交響詩からなる《わが祖国》です。祖国とはもちろん「チェコ」のことです。「モルダウ(ヴァルタバ)」は一度は耳にしたことがあるでしょう。この曲は《わが祖国》の第2曲目です。(「モルダウ」はドイツ語名で、チェコ語では「ヴァルタバ」)チェコ・フィルの本拠地であるルドルフィヌム、別名ドヴォルザーク・ホールはプラハの中心、ヴァルタバ川のほとりにあります。今回演奏された「シャールカ」は「わが祖国」の第3曲目で、チェコの伝説上の女性の名前。ある男性に失恋した恨みをすべての男性に向けて晴らそうとしたそうで、やや不気味に始まり全体として勇壮な雰囲気です。

チェコ・フィルの演奏は一つ一つの音が立っていて、響きにも無駄がない(変な表現ですが他に見つかりません)。特に弦楽器は一つ一つの音の
輪郭がはっきりしていて、全く曖昧さのなく、聴いていて非常に心地いい響きでした。

ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を聴くのは今年2回目。1年間に同じ曲を2回も聴くのは珍しいのですが、独奏者も昨年のこの時期に聴いています。追いかけてみたいピアニストだと感じていたのですが、4月に聴いた小山実稚恵さんとの聴き比べができて、有意義でした。

曲の説明は省きますが、ピアニスト泣かせの難曲です。まだ駆け出しのピアニストとヴェテラン指揮者の組み合わせは、やはり指揮者のリードのもとでピアノがオケと一体になって、舞台がロシアの大地のようでした。

昨年聴いたチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のとき同様に、やや硬質な音で一つ一つの音がはっきりとしていて、ダイナミックな弾き方と相まって、迫力のある演奏でした。演奏後の顔つきはけっこうかわいらしいのですが、ピアノに向かっているときには目つきが厳しかったです。チェコはロシアのように広くはありませんが、ユーラシア大陸の平原の国。高い山があるわけでもなく、また同じスラブ系ですし、共通するものがあるのでしょう。指揮者+オケは余裕というのか、ピアノを包み込むかのように進んで一体感を作っているような演奏でした。

ソリスト・アンコールはトリフォノフ自身が作曲した「ラフマニアーナ第1番」

休憩後、メインは「新世界」、第2楽章のコール・アングレ(イングリッシュ・ホルンとも言います)のソロは「家路」のメロディ。誰もが知る名曲です。この曲は学生時代にやったこともあり、また、CDなどでは何度も聴いているのですが、生演奏を聴く機会はそれほどなく、今回で2回目だと思います。チェコ・フィルにとっては十八番中の十八番、たぶん全員がリハなし、かつ暗譜で演奏できると思います。1回しか聴いていないわけですが、どこかがマンネリになっているとか、気を抜いているとか、全く感じさせず、客席の集中を引きつけてやまないすばらしい演奏でした。第2楽章のコール・アングレのソロも全く非の打ち所がありません。また、この楽章の最後に弦楽器パートのトップだけで演奏する部分があり、そこから終わりまで、時間でわずか2分ほど、楽譜でおよそ20小節は絶品。これまでに聴いたすべての演奏の中でも最高のアンサンブルでした。

管楽器の音や弦楽器のソロなどは生で聴くとCDほどに大きな音で聞こえないのですが、チェコ・フィルの管楽器、特にクラリネットやファゴット、コール・アングレなどは目の前で吹いているかのように大きな音で聞こえました。もちろん、他の楽器の音を邪魔するわけではなく、しっかりと聞こえていると言うことです。よほど芯がしっかりしているのでしょう。

オーケストラアンコールは何と3曲もあり
スメタナ:歌劇《売られた花嫁》から「三つの踊り」より”スコーチュナ”
メンデルスゾーン:交響曲第5番第3楽章
スメタナ:歌劇《売られた花嫁》から序曲

《売られた花嫁》序曲はやるかなと思ったのですが、大サービスで、チェコを堪能、是非ともプラハ・ルドルフィヌムで定期演奏会を聴いてみたい者です。

チェコ・フィルの来日公演は全国で10公演ほどあるようです。このうち、11月4日のNHKホールでの公演は11月15日(日)午後9時からNHKEテレの《クラシック音楽館》で放送されます。演奏されるのは
スメタナ:連作交響詩《わが祖国》全曲
です。指揮者のインタヴューもあるはずですので、楽しみです。