名フィル定期(第467回)『未完の傑作』

 東海地方にはいくつかのプロのオーケストラがありますが、代表は名古屋フィルハーモニー交響楽団(略称:名フィル)でしょう。1966年創立、毎回2回公演の定期演奏会が年に11回(8月を除く毎月)の他、独自公演が年間30回程度でしょうか。

 定期演奏会は年間を通じて予約した「定期会員」の他、1回ごとにチケットを購入することもできます。名フィルは名古屋・栄の愛知県芸術劇場コンサートホールで、毎年決められたテーマに従ってプログラムを決めて定期演奏会を行なっています。

 今シーズン(2019年4月から2020年3月)のテーマは〈マスターピース〉シリーズと題して、毎回なんらかの「傑作」が取り上げられます(そもそも傑作ではないような作品が取り上げらことはありませんが)。4月は『未完の傑作』と題して、
    レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ
    レーガー:序奏とパッサカリア[オルガン独奏]
    モーツァルト:レクイエム[ジェスマイヤー版]
     指揮:マックス・ポンマー
     オルガン:アレシュ・バールタ
     ソプラノ独唱:中村恵理
     メゾ・ソプラノ:富岡明子
     テノール:鈴木准
     バリトン:与那城敬
     合唱:岡崎混声合唱団、岡崎高校コーラス部
というプログラムでした。

 オケのコンサートとしてはやや異例のプログラムです。1曲目は管弦楽曲ですが、2曲目はオルガンの独奏曲、そしてメインの3曲目もどちらかといえば独唱と合唱のための曲で、演奏の成否が特に合唱のできにかかっていると言っても過言ではありません。

 オルガンの演奏はこれまでにも何度か聴いたことがあります。例えば、2年前にドイツ・アンスバッハの教会でのコンサートや昨年末に東京の都立芸術劇場での演奏は印象的でした。しかし、芸文・コンサートホールのパイプオルガンでの独奏の演奏は聴いたことがなく、大いに期待していました。

 レーガーという作曲家は今回初めて聴きました。19世紀末から20世紀初めに活躍したドイツの作曲家です。作曲した曲のジャンルも広く、中でもオルガンを含む鍵盤楽器の曲の演奏頻度が高いようです。今回演奏されたのは本格的なオルガン曲で、低音から高音まで幅広く使われ、バラエティに富んだ音色を楽しめました。

 会場では、今回の独奏者であるバールタが演奏するオルガン曲のCDが販売されていたので、記念に購入してきました。自宅のスピーカーではとても再現しきれませんが、オルガンの奥深さを実感できます。

 今回のテーマである「未完」は、モーツァルトのレクイエムに当てはまります。この曲はモーツァルトの遺作でですが、モーツァルト自身がオーケストレーションまで書き上げたのは半分にも満たず、死後に断片的なモチーフ(メロディー)やメモなどを手がかりに、弟子のジェスマイヤーが完成させました。

 「レクイエム」とは、カトリックの教会で行われる死者のためのミサで用いられる音楽のことで、
“Requiem æternam dona eis, Domine (主よ、永遠の安息を彼らに与え給え)”
で始まることから、このように呼ばれています。典礼文として、歌詞が決められていますが、モーツァルトの《レクイエム》は一部割愛されていますが、全14曲からなり、独唱や合唱を伴います。

 今回の演奏は、オケがすばらしかったのはもちろんですが、なんといっても《レクイエム》での合唱が圧巻でした。ともに日本を代表する合唱団で、岡崎高校コーラス部は国際コンクールでも何度も最優秀を得ています。宗教曲で、歌詞もラテン語であり、どれだけ表現できるのかと思っていましたが、指揮者の指導のたまものか、何度も目頭が熱くなりました。

 「レクイエム」と題する曲はモーツァルト以外にもたくさんあり、19世紀半ば以降ではカトリックのミサを離れて、様々な意味を持たせて作曲されています。また、今回のモーツァルトの《レクイエム》のように頻繁にコンサートで取り上げられています。そこから何を聴くかは聴き手次第。じっくりと内省することもできます。

 5月の定期は、24,25日で、ハンガリーの作曲家・バルトークとフィンランドの作曲家・シベリウスの曲が取り上げられます。