名フィル定期(第426回):展覧会の絵

7月の定期演奏会は最終週末(7月24日、25日)、仕事の都合でいつもの土曜日ではなく、金曜日に振り替えて聴きに行きました。

『オーケストレーションの魔術師たち2』と題して、
リムスキー・コルサコフ:スペイン狂詩曲
ムソルグスキー(ラスカトフ編):歌曲集『死の歌と踊り』(日本初演)
藤倉大:歌曲集『世界にあてたわたしの手紙』(委嘱新オーケストレーション・バリトン+オーケストラ版 世界初演)
ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲『展覧会の絵』
バリトン独唱:サイモン・ベイリー
指揮:マーティン・ブラビンズ

3回続けてブラビンズ&名フィルの演奏会を聴きに行くことになったわけですが、彼の指揮は何をしたいのか、どこを聴かせたいのかがはっきりしていて、非常にわかりやすいという気がします。したがって、たくさんの音が重なっているにもかかわらず、一つ一つの楽器の音がはっきりと聴こえ、随所でCD鑑賞では気づかなかった音が聴こえます。今回のようなプログラムではその良さがはっきりと現れていて、実に楽しいコンサートでした。

さて、今回は「初演」とされる曲が2曲もあります。かつてはオーケストラのコンサートは作曲家たちの作品披露会でもありましたので、ほとんどが「世界初演」。過去の名曲がプログラムの中心になったのはこの数十年くらいではないでしょうか。

今回取り上げられた2曲の歌曲集は、いずれもピアノ伴奏付として作曲されたものをオーケストラ伴奏用に編曲したものです。いずれも現代の作曲家がアレンジしているので、オーケストレーションは華やか、そして打楽器群が大活躍します。観ているだけでも十分楽しめる曲です。しかし、何よりすばらしかったのは独唱のバリトン。正確には、バス・バリトンといって、通常のバリトンよりもやや深い声質で、やや深刻な内容の歌詞をじっくりと聴くのにむいています。今回のムソルグスキーの「死の歌と踊り」は、「子守歌」、「セレナード」、「トレパーク」、「司令官」と題された4つの歌詞がそれぞれ、子ども、恋人、農民、兵士の死を歌ったもの。ロシア語は話しているところを聞いていると非常にくせのある音にきこえるのですが、音楽に乗せると非常に美しく響きます。今回の歌手はイギリス人ですが、非常にレパートリーが広いようで、ロシア語も見事に表現していました(たぶん)。

メインの『展覧会の絵』は以前に紹介したとおりピアノ曲の編曲版です。最初に編曲してこの曲を有名にしたのが今回演奏されたラヴェル版です。この編曲が圧倒的に演奏頻度が高く、録音も数え切れないくらい出ています。よくあるたとえですが、ピアノ版がモノクロの水墨画や版画なら、このオケ版は油彩画。色彩はもちろんのこと、筆のタッチ、絵の具の重なり具合など油絵を鑑賞するように聴いているといろんな音が聴こえ、表情が見えてきます。オケ版ではほぼすべての管楽器にソロがあり、珍しいところではテューバやサキソフォンでしょうか。特にテューバのソロは通常よりも高音域を用いるため難曲です。

ブラビンスのタクト(本番での棒の振り方だけではなくリハーサルでの指示も含めて)は、おそらく何をどうすべきかがはっきりしていて、音量やテンポ、表情の付け方など演奏者の共通認識がしっかりとできているのだろうと思います。毎回の演奏は、明らかにこれまでの名フィルの水準を超えていて、確実にレベルアップしていることが分かります。もちろん、いろんな不満はありますが、それらば来シーズン以降の新音楽監督・小泉和裕に期待しましょう。

8月は北半球ではシーズンオフ。名フィルも通常の活動はほとんどなく、次回定期は9月4日、5日。来期新音楽監督である小泉の指揮で〈アート・オブ・ヴァリエーション〉と題して、ベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』他です。