名フィル第484回定期「浪漫」

 先々週末、11月6、7日に行われた名フィル11月定期は、「浪漫」と題して、ベートーヴェン後の音楽史でロマン派とされる時期の代表的な作曲家の作品が取り上げられらました。プログラムは
  ワーグナー:歌劇『リエンツィ』序曲
  ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調
  シューマン:交響曲第4番ニ短調
  ヴァイオリン独奏:三浦文彰
  指揮:小泉和裕

 序曲、協奏曲、そして交響曲と並ぶオーケストラコンサートの王道のようなプログラムです。
 『リエンツィ』はワーグナーの初期の作品で、いわば出世作品。歌劇としては6時間に及ぶ大作とかで、上演される機会もほとんどなく、残念ながら映像でも見たことはありません。序曲を聴く限り、後のこってりしたワーグナーらしさはあまり感じませんが、それだけにコンサートの冒頭には向いているのでしょう。序曲は単独でよく演奏されるようです。学生時代にもやったことがあります(私は舞台にのりませんでしたが)。

 大編成のオーケストラ、特に金管楽器が活躍する曲です。もう少し迫力があるかと思いましたが、あっさりとした演奏でした。むしろ、次のヴァイオリン協奏曲の抒情性を引き立てる意図だったかな。

 協奏曲は本来、アリーナ・ポゴストキーナ(http://www.alinapogostkina.de)というドイツのヴァイオリニストが独奏する予定でしたが、来日の目処が立たず、三浦文彰(https://avex.jp/fumiaki-miura/live/)に変更されました。三浦は412回定期でシベリウスのヴァイオリン協奏曲を独奏しました。その時の音色は覚えていませんが、当時の使用楽器は1748年製ガダニーニ、今回は1704年製のストラディヴァリウスでした。楽器の良さもさることながら、滋味豊かというか、心に染み込んでいくような音色でした。

 ブルッフは1838年生まれ、ワーグナーやシューマンよりも25年ほど遅れて生まれています。ブラームスやチャイコフスキーと同世代ですが、それほど知名度は高くありません。オーケストラのコンサートでも、このヴァイオリン協奏曲以外はほとんど取り上げられることもないのではないでしょうか。とはいえ、印象的なフレーズが散りばめられた、この時代、ロマン派を代表する名曲です。

 ヴァイオリンには重音が随所にあり、技術的にどの程度の難易度かよくわかりませんが、必須のレパートリーのようです。今回は若い奏者を、オケがうまく盛り立てていました。CDでも何度も聴いていますがが、やはりホール全体に響き渡る独奏ヴァイオリンの音には敵いませんね。オケとの掛け合いも非常に立体的で、生演奏の醍醐味を十分に味うことができました。

 シューマンは、まさに「これぞロマン派」という作曲家です。大好きな作曲家の一人ですが、交響曲は4曲をつくっているだけです。今回演奏された第4番は、順序としては2番目に作曲された交響曲で、妻クララとの結婚の翌年に、彼女の誕生日に贈られ、年末に初演されたそうです。残念ながら芳しい評判が得られず、お蔵入りとなり、10年後に改定された後出版されたようです。

 4つの楽章が切れ目なく演奏されます。ややつかみどころが無いと感じることもあるのですが、非常にメロディかるで、聴いているうちに熱くなっていきます。所々に現れるソロも効果的で、特にヴァイオリン(コンサートマスター)のソロや、チェロとオーボエによる重奏は秀逸でした。CDでは何度も聴いていても所詮はながら聴きばかりでなかなか集中してできませんが、目の前での演奏はやはり別物。第3楽章から第4楽章へ続く部分などは、はっとさせられました。後で読むとプログラムの楽曲解説でも触れられていましたが、ベートーヴェンの交響曲第5番の第3楽章から第4楽章へ続く部分と非常によく似ています。シューマンが意識してそのように書いたのかどうかは分かりませんが、高い緊張感はやはり生でこそ味わえる物だったのでしょう。

 また、今回の演奏では第4楽章の終結部がきいたことがなくらい速いテンポでしたが、妙にしっくりと腹に落ちました。これもライブだからこそなのか、指揮者の指示にオケもしっかりとついていき、圧巻でした。

 来月は12月11、12日。ベートーヴェンの交響曲第8番をメインに、フランス音楽が楽しめます。そして、18、19日は交響曲第9番です。

名フィル第483回定期「遺書」

 先週末、10月1011日のコンサートは指揮者とプログラムと一部が変更になりましたが、旧ソ連・ロシアの作曲家の作品のプログラムでした。
  • シチェドリン:ベートーヴェンのハイリゲンシュタットの遺書〜管弦楽のための交響的断章
  • ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第2番嬰ハ短調
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第9番ホ長調
  • ヴァイオリン独奏:荒井英治
  • 指揮:広上淳一

 今回からオケも男性は燕尾服で、通常モードの演奏会です。

 シチェドリンは1932年生まれ、ご存命です。そもそもめったに演奏される作曲家ではありません(ここを参考に)が、2008年に初演されたこの曲はベートーヴェンのメモリアルイヤーだからこそ演奏されたのでしょう。
 タイトルにある
ハイリゲンシュタットはウィーン近郊の町で、現在はホイリゲなどが有名です。30歳を超え難聴が深刻になったベートーヴェンは、当時保養地として発展していただきハイリゲンシュタットに滞在したときに、兄弟に当てて遺書を認めます。「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれ、現地の博物館に自筆の手紙が保存されています。
 しかし、この遺書は自殺を思いとどまり、むしろ絶望から立ち上がり芸術家として生きて行く決意表明のような内容でした。この遺書を書く直前に作曲したのが先月のプログラムにあった交響曲第2番、そして、この後で有名な交響曲第3番を始め後世に残る傑作を次々つくっていきます。

 シチェドリンも、妻がユダヤ人だったこともあり旧ソ連の体制下で迫害を受けたそうです。この曲で描かれているのは、ベートーヴェンに自らの生き方と人生を重ねているようです。重く暗く始まりながらも明るく変化していきます。交響曲第5番を思わせるモチーフは連続します。

 メロディカルな曲ではありませんからやや聴きにくいですが、聴けば聴くほど味わいがわかってくるような、深みのある一曲でした。

 ショスタコーヴィチはご存知でしょう。19069月生まれ。交響曲第5番は、日本では『革命』の表題で知られています。ヨーロッパではこのような表題はつけませんが、ショスタコーヴィチの最高傑作でしょう。吹奏楽版に編曲された『祝典序曲』も有名です。

 ヴァイオリン協奏曲は2曲作っていますが、第1番は演奏頻度も高く、これまでにも聴いたことことが、第2番はなかなか聴く機会はありません。調性がヴァイオリンには向いていないらしく、また、長大で難解なカデンツァが理由でしょうか。

 オイストラフという、当時のソ連を代表するヴァイオリニストのために作曲されただけに、ソリストが中心になっています。第1楽章と第3楽章に壮大なカデンツァ、オケの伴奏を伴わず独奏者だけで自由に演奏するフレーズは、聴きごたえ十分でした。

 独唱者の荒井は名フィルの客演コンサートマスターでもありますが、日本を代表するヴァイオリニストであると同時に、ショスタコーヴィチ演奏の第一人者でもあります。何をどう意識したのかわかりませんが、あまり深刻にならず、誰もがショスタコーヴィチを受け入れられるように配慮されたようにも聴こえました。

 ソリストアンコールは、やや異例ですが、デュエットでした。長年の友人とのことで、主席チェロ奏者の太田さんと、シチェドリン(荒井英治編曲)の『アルベニスの様式で』でした。かなり高度な技巧をちりばめた楽しい演奏でした。

 休憩を挟んでのメインプログラムは、ショスタコーヴィチの交響曲。15曲つくった交響曲の中で、第5番を除けば演奏頻度が高い曲です。1945年夏に作曲され、秋に初演されています。ベートーヴェンやドヴォルザーク、マーラー、ブルックナーと名だたる交響曲作曲家の「第9番」はすべて大曲で、かつ傑作とされています。終戦を寿ぐ意味もあり、壮大な曲を期待されたようですが、あえて皮肉ったのか、ディヴェティメントのような軽いタッチの曲です。

 ディヴェルティメントは、喜遊曲と訳され、18世紀後半、モーツァルトなどが活躍した時代にサロンの音楽としてもてはやされました。小編成で、管楽器を含む場合にはソロが大活躍します。

 初演の評判は悪かったようですが、海外では人気を得て、現在に至っています。5楽章、30分程度、ショスタコーヴィチ独特のシリアスな響きもあまりなく、管楽器のソロを随所に織り交ぜたなじみやすい曲です。

 広上の指揮は一度見たら忘れない動きかた、振り方をしますが、協奏曲では比較的おとなしい振り方でした。一方、交響曲は曲調もありますが、彼独特の踊っているような振りぶり。もちろん、一つ一つに意味があり、オケをしっかりと束ねた隙のない演奏でした。第9番を演奏する場合の他の編成が分かりませんが、今回は比較的小さめの編成でした。全体の音がしっかりとまとまり、弦楽器の響きといい管楽器のソロといい、穴がありませんでした。

 第4楽章には長大なファゴットのソロがあり、最大の聴きどころでしょうか。オケの曲の中で、これほどに長い、それも他の楽器の音が混じることのないファゴットのソロは他にはないでしょう。今回は首席奏者のゲオルグ・シャシコフ(ブルガリア出身)が担当、いい音でした。

 広上さんが振った時はオーケストラアンコールがいつもあるような気がします。今回はショスタコーヴィチ:タヒチ・トロット 作品16[原曲 ユーマンス:二人でお茶を]でした。なんと、ヴァイオリンの荒井さんがチェレスタをお弾きになりました!!どういう契約をしたんだろうか?

 来月は、11月6、7日で
  • ワーグナー:歌劇『リエンツィ』序曲
  • ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲(独奏:三浦文彰)
  • シューマン:交響曲第4番
  • 指揮:小泉和裕
です。

映画『パバロッティ』

 久しぶりに映画を観に行きました。
  『パバロッティ〜太陽のテノール(原題:Pavarotti)』です。
 ルチアーノ・パバロッティの名前は知っている人も多いでしょう。90年代には「三大テノール」として一世を風靡し、トリノ冬季オリンピックの開会式で「誰も寝てはならぬ」を歌いました。彼の生涯を描いたドキュメンタリー映画です。実上映時間115分と長めですが、バックに流れる音楽とパバロッティの美声、まさに太陽のテノールに圧倒されて時間が過ぎていきます。

 録音も映像もそれほど持っているわけではありませんが、彼の声は突然聴いてもそれと分かるほどに独特です。突き抜けるように明るく、艶があり、そしてパワフル。一度聞いたら忘れられない声です。生で聴きたかったと思いますが、今回の映画では、録音原盤を基にしっかりとしたミキシングがされているようで、かなり忠実に再現されていると思います。彼の声を聴くためだけでも十分に価値のある映画です。

 大きな体と人懐っこい笑顔に世界中の人が魅了されたようで、クラシック音楽の枠を超えて様々な音楽家と共演しています。また、自らが戦争や様々な苦労を体験したことから、チャリティ活動にも熱心でした。映画中でも描かれているイギリス・ダイアナ妃との親交がそのきっかけとなったようです。

 映画の中では音楽家を始め、マネージメントに関わった人たちの話から、いかに厳しい世界を渡って行ったのか、垣間見ることができます。そして何よりも彼の家族が語る彼のプライベート、多くの写真や映像とともに、偉大な芸術家も一人の人間として生きていたことを知ることができます。

 現在、パバロッティの再来と言われるテノール歌手もいないわけではありませんが、彼ほどに魅力的で、カリスマ性がある歌手はもう2度とでないでしょう。そして、パバロッティは永遠に語り継がれることでしょう。

 映画としては、本当はもっと早くに封切られるはずでしたが、結局9月はじめから。ミッドランドスクエアシネマと伏見ミリオン座で上映されています。

7月生まれの作曲家3:レスピーギ

 7月生まれの3人目はイタリアの作曲家、オットーリオ・レスピーギ(Ottorino Respighi)です。1879年7月9日、ボローニャ生まれ。1936年4月18日にローマでなくなりました。『ローマ三部作』とよばれる三曲の交響詩、「ローマの松」、「ローマの泉」、「ローマの祭」が最も有名です。いずれも4曲からなる組曲風で、そのうちのいくつかは吹奏楽に編曲もされています。また、「リュートのための古風な舞曲」は一度は耳にしたことがあると思います。

 こうした作品によって作曲家としても成功を収め、イタリア最高峰のサンタ・チェチーリア音楽院の院長を務めました。イタリアの作曲家というと、ヴェルディやプッチーニのようにオペラ作曲家の名がすぐに上がります。レスピーギも数曲のオペラをつく手いますが、ヨーロッパの有名歌劇場のプログラムでも見たことがないため、残念ながら現在上演されることはほとんどないでしょう。


 特に有名な2曲は以下で試聴できます。
 交響詩『ローマの松』から「アッピア街道の松」
  https://www.youtube.com/watch?v=i0gIfHXSP0w&list=RDi0gIfHXSP0w&start_radio=1&t=0

 リュートのための古風な舞曲
  https://www.youtube.com/watch?v=xR0mX2YY9OM&list=RDxR0mX2YY9OM&start_radio=1&t=0

7月生まれの作曲家2:ヤナーチェク

 今回はレオシュ・ヤナーチェク(Leoš Janáček)を紹介します。現在のチェコ東部、当時はオーストリア帝国領であったモラヴィア地方の出身で、1854年7月3日に生まれました。チェコ出身の有名な作曲家といえば、スメタナとドヴォルザークですが、スメタナが1824年生まれ、ドヴォルザークが1841年生まれですから、一世代下でしょうか。 1928年8月12日にチェコ国内でなくなりました。

  同じチェコ出身の二人の作曲家と比べると知名度は低いですが、オペラから室内楽曲まで幅広く作曲しています。最もよく知られているのがオペラ『利巧な女狐の物語』でしょうか。この他に、ドストエフスキーの小説を基にした『死の家から』も知られています。題材にはややクセがありますが、音楽は非常に聴きやすく、親しみやすいと思います。

また、村上春樹の『1Q84』で有名になった「シンフォニエッタ」は、日本国内ではこの数年演奏機会が増えているようです。
以下は数年前にNHK交響楽団が行なった定期演奏家での演奏です。
  https://www.youtube.com/watch?v=8lfZAKlwXs0
なかなかの名演です。
 名フィルでは、一昨年の定期演奏会で『死の家から』によった組曲と「シンフォニエッタ」が演奏されました(456回定期)。また、4年前には『利巧な女狐の物語』組曲も取り上げられました(416回定期)。